WALKER’S 

歩く男の日日

豊かなお遍路

2013-05-13 | 13年四国の旅

 今年のお遍路で最も印象に残ったこと、嬉しかったことはオランダから来たエリーさんとたくさんおしゃべりできたことです。お遍路に出ると毎回外国の方には何人か出会うのですが、挨拶を交わすくらいでほとんど会話することはありません。今まで2回ほど試みたのですが、相手の方が全く日本語が解からず、かつ英語圏の方だったのでほとんど意志疎通はできませんでした。今回もそのつもりは全くなくて、薬王寺の本堂の前で挨拶を交わしてそれっきりになるだろうと思っていたのですが、お参りを終えて納経所の前まで来ると彼女がベンチで休んでいたので、ブログのための写真だけお願いしたところ、思いがけずいろんなお話ができたのでした。
 彼女は自国でかなり日本語を勉強したということもあり、こちらも安心して返答したり質問したりできました。そして複雑なことは解りやすい簡単な英語で喋ってくれたのでほとんど全て理解することができました。

 エリーさんは3月21日から歩き始めて5月21日まで、丸2ヶ月かけて四国を一巡します。順調に進んでいるのであれば今日は善通寺のあたりを歩いていることになる。ぼくが宿毛から帰ってきて丸1ヶ月になるのにまだ四国にいるなんてうらやましい限りです。
 ぼくが出会ったのは4月3日、前日は日和佐駅前のホテルに泊まったというから、11日くらいかけて薬王寺まで来たことになります。60日で一巡ということは1日20kmのペースだからここまではそのペースよりさらにゆっくりのんびり。でもそんなことは意に介する様子もなく昨日薬王寺まで来たのに今朝も改めてゆっくりお参りに来ています。今日は国道ではなく海岸線の道をゆっくり牟岐まで歩くといいます。英語版のへんろ地図には日和佐から牟岐まで海岸線の道(県道147号日和佐牟岐線)があってびっくりしました。ぼくの持っている地図には牟岐まで国道以外の道がないのです。歩こうにも歩けなかった。おそらくその道こそが昔の遍路道だったのかもしれない。7回も歩いている日本人が本当の道を知らず、初めて歩くオランダの人が遍路道を行く、ちょっと複雑な気分です。

 かれくささんのブログによると、山河内駅から国道を離れて白沢川沿いの道を南下、峠を越えて県道に入るのが昔の遍路道だと打越寺の住職が言われた、と書かれていました。でも昔は日和佐トンネルがなかったから日和佐トンネルの手前から白沢に向かう道を多くの人が歩いたのかもしれません。さらにもっと手前からも入る道があって本当のところはよく分かりません。県道に下りてからも、平行して南側に細い道があってそちらが昔の道で県道は遍路道ではなかったということも考えられます。

 エリーさんの言葉で一番印象的だったのは、「笑顔の絶え間がないくらいなの」。
 山を見ても海を見ても鳥の声を聞いても魚が泳いでいるのを見ても新鮮で刺激的でついつい笑顔になってしまう。何を見ても嬉しくなって笑顔の絶え間がないくらいなの。
 彼女の言うことを聞いて、ちょっと衝撃でした。笑いながら歩いている人がいるなんて・・・、そういえばほとんどの日本人が苦しみながら辛い思いをしながら歩いているのではないか。ぼく自身も明るく元気に歩きたいと思いながら歩いているし、お遍路さんと出会ったときはとびきりの笑顔で挨拶するように心がけてはいるけれど、今回ばかりは暗く沈んで追いつめられたように歩いていることが多いような気がしました。もちろん道中の景色を楽しむような余裕などほとんどありません。ぼくがたくさん歩くのは元々歩く速度が速いということもあるけれど、宿泊数を減らして倹約したいというのが大きな理由です。でも、費用を押さえている分、それに比例して味わいも貧しくなってしまっている。今まで何度もこのブログに書いてきたことですが、今回はそれを実感することが本当に多いような気がしました。

 今回の旅に出る3ヶ月くらい前にブログを通じて知り合うことになったSさんも1日20kmのペースで歩かれているのですが、彼女もぼくの歩きに比べると本当に豊かなお遍路さんだと感じることが多かったです。
 その実例は最初の宿「さくら旅館」の夕食の時に見られました。同宿の二人連れの女性のお遍路さんは区切りで、何年もかけてこの日ようやく結願し88番から戻ってこられたところ。そのお話の中で、ある札所で鎖場があってそこを滑落して大けがをされたお遍路さんがいた、もう何年も前のことだけれどそこがどこだったか思い出せなくて、僕たち同宿の人に尋ねられたのです。尋ねられてぼくは無言になりました。鎖場というと歯長峠か女体山くらいしか思いつかない、女体山は1回しか登っていないから鎖があったかどうかもはっきり覚えていない。他の人も複数回巡っている人が多かったけれどはっきり答えられなくて結局解答は出ないままでした。帰ってからSさんのブログを見ているとその解答が写真付きで出ていました。45番札所岩屋寺の山門の手前、三十六童子行場の手前にあるせりわり行場が解答に違いなかったのです。ここは希望者は鎖場を登ることができるそうです。ぼくはこの前を4回は訪れているのに全く記憶に残っていませんでした。説明書きを一度も読まなかったはずです、こういうところが速足遍路の貧しいところです。