WALKER’S 

歩く男の日日

16日目 6月7日 

2012-07-08 | 12年別格巡り


 うたんぐらは夕食はなし、朝食付き1000円。当初は素泊まりで無料だった。1年くらい前から朝食がついてこの値段になった。それでもめちゃくちゃ安いから、野宿の人やバイク遍路、サイクル遍路の人が多く訪れるそうだ。野宿の人は時間が自由だから入る時間が18時を過ぎて20時近くになる人もいるそうだ。夕食がないからより自由になりやすいみたいだ。野宿の人は、特に最初のお遍路となると宿の人がどんな思いで待っているか、そういうことに全く思いが至らない人も多いようだ。そういうぼくも最初の時は本当に何も分からなくてたくさん迷惑をかけてしまった。2回目以降はそんなに遅くなることもなく、キャンセルすることもなくなったけれど、自分が気がつかないだけで迷惑をかけながら歩いていたのかもしれない。よく考えればお遍路という存在そのものが迷惑だといえなくもない。つい先日,NHKのお昼の番組「お元気ですか、日本列島」で、久万高原町のトンネルの入り口にお遍路のための反射たすきとライトが設置されたことを伝えていた。久万高原町には二つのトンネルがあるけれど、これはたぶん峠御堂トンネルの方だと思われる。ぼくはトンネルを苦にしない方だけれど、四国中でこのトンネルだけは怖い、できれば避けたい唯一のトンネルだ。何しろ幅員が狭い、歩道がない、車が多い、トンネルの中に緩やかなカーブがある、いつもこの四重苦におびえながら歩いている。このトンネルでお遍路さんを避けようとした車が対面車と衝突する事故があった。それでたすきとライトが設置されるようになったそうだ。このトンネルを歩く地元の人はいない、歩くのはお遍路さんだけ、おへんろがいなければ事故は起こらなかった。ここだけでなく歩道のない国道などで怖い思いをしている車の人は多いはずだ。迷惑をかけずに四国を歩くことなどできない。ぼく自身、7回歩いて少し慣れていたかもしれないし、思い上がっていたかもしれない。ご主人の話を聞きながら、そんなことを考えていた。


 6:58
お二人は10回くらい四国を歩かれたことは知っていたけれど、先達の資格を持っていることは知らなかった。お遍路を経験した女将さんがいる宿は3つほど知っているけれど、先達さんの宿は初めて。茶の間の床の間に先達用の立派な錫杖が飾ってあった。奥さんからは、長尾寺の本堂に竹ぼうきの彫刻があることや、大窪寺の本堂の「薬師如来」の薬の字の右側の点々が無いことについて教えていただいた。7回も巡ってそういうことは全く気がつかなかったし知らなかった。ちゃんとお参りはするけれど札所の縁起や建物などにあまり関心が無くて、歩くのを楽しむのが第一、遍路宿で休むのが第二、でずっときたからいまだに知らないことは多い、というより回数の割には何も知らないと言った方がいいくらいだ。
 玄関の前で遍路の広場のための写真を撮って貰う。お返しにぼくも撮らせて貰う、こういう機会でもないとなかなか女将さんの写真を撮らせて貰うのは難しい。撮りたくてもなかなか頼むことはできない。


 7:11
昨日に続いて今日も電車の日。昨日はそれでも39kmは歩いたけれど、今日は28kmくらいしか歩かない。宿から天皇寺とは逆方向の宇多津駅に歩き始めたのも、何かしら忸怩たる思いがあった。宇多津駅の少し手前のコンビニで紙パックのお茶を購入。朝食をしっかりいただいたので食料は買わない。このコンビニも新しくできたもので、最初来たときにはなかった。


 7:17
宇多津駅に無事到着、と言いたいところだけど、逆打ちになったので道をはずしてしまった。逆打ちってほんとに怖い。


 7:53
予定していたのより1本早い電車で香西駅に到着。宇多津駅は初めてだったけれど香西駅は4年前に来たことがある。花曼茶羅を買うためだけに電車に乗ってここまでやってきた。


 8:01
本津川を渡ったところで県道を離れて右の道へ行く。4年前はこの道を知らなくてものすごい遠回りをしてしまった。


 8:11
2回目でもあり、問題なくここまでやって来る。でも根香寺からの本来の遍路道はなかなかうまく下りてこられない、うたんぐらのご主人もかなり迷ったと言っていた。


 8:13
香西駅から17分25秒で別格19番香西寺に到着、前回は遠回りの道だったので比較はできない。境内は近所の人が犬の散歩に来ているだけ、参拝者はぼく一人。

 1月から始まった別格の旅もあと20番を残すのみとなった。


 9:07
香西から電車に乗って高松駅まで来た。高松駅の外まで出てくるのは最初の時以来9年ぶりになる。最初の時は鬼無駅から電車に乗って高松駅前のビジネスホテルに泊まった。鬼無駅前に宿があることなど知らなかった。


 9:18
高松城址公園は有料だったので堀の内には入らなかった。南東の角にあるこの櫓が天守であるかどうかも分からない。


 9:30
高野山讃岐別院の前にやってきた。昔の白黒の地図では国道11号から300mほど北にあるこの前を通るのが遍路道だった。赤線はこの部分だけ北にふくらんでいる。もちろん番外霊場のマークも付いていた。でも04年のカラー地図になってからは全部消えてしまった。国道に出るとすぐに右折して屋島に向かうのが現在のへんろ道になってしまった。


 9:34
高松駅から18分43秒で琴電今橋駅までやってきた。ここから志度まで電車で行く。やはり予定の電車より1本早いのに乗ることができる。


 10:01
琴電の中にトンボが迷い込んできた。


 10:20
終点琴電志度駅に到着、ここに来るのは昨年の10月以来、こんなに早く戻ってくるとは思ってもみなかった。


 10:22
駅からへんろ道に入るとすぐ栄荘の前に来る。


 10:27
駅から5分ほどで86番札所志度寺に到着、電車で来たから感じが出ない。境内のベンチには歩きの人のザックが二つあった。この時間からだとどこへ行くのだろう。長尾寺までだと12時半くらいに着いてしまうし、大窪寺だと17時前後になってしまう。二つの札所の間に宿はない。屋島の近くの宿に泊まるとどうしても中途半端なことになってしまう。でも初めてだと二日先が読めないから、ありがちなことではある。


 11:01
志度寺ではお参りと休憩で30分ほど滞在、10時51分に発つ。いつものコンビニで明日の朝食と昼食を調達する。明日は朝が早いので今日の宿は夕食だけでお願いしてある。


 11:10
高松自動車道の下を抜ける。半年前はここを右折して高速バス停に向かった。したがって、ここから先は3年ぶりに歩くことになる。


 11:58
志度寺から62分36秒で87番札所長尾寺に到着した。ベストより1分早かった。ベストを出したのは3年前だけど、そのときはめちゃくちゃ調子が良くて、これ以上のタイムはもう出せないと確信してくらいだった。それをあっさり更新してしまったけれど、厳密にはベストとは言えない。なにしろいつもは屋島と八栗を登って下っての後のこの区間、今回はそれが全くなかったわけだから比較にはならない。でも、気分は悪くない。

うたんぐらの奥さんに教えて貰ったとおり、本堂の正面に竹ぼうきの彫刻があった。これには日光東照宮の柱と同じような意味があるそうだ。


 13:11
長尾寺ではお参りと休憩で25分滞在、12時23分に発った。長尾寺から大窪寺まで2時間半はかかるからゆっくり休むことはできない。前山ダムの休憩所まで44分41秒で到着、ベストと同タイムだったけれどそろそろエネルギーが切れかけている。この先この調子を維持するのは難しい。

ダムの手間の急坂で力を出し切ってしまい、身体中汗まみれでふぬけのようになってしまった。ダム湖を眺めながらふらふらとお遍路交流サロンへ向かう。


 13:15
おへんろ交流サロンに到着、やはりこの時間にお遍路の姿はなく今回も交流することはなかった。志度から来ても長尾から来ても午前中にここを通り過ぎてしまう。八栗からでも昼過ぎにはここに来ることができる。屋島から大窪寺まで行く人はあまりいない。休憩所で熱いお茶を3杯ほどいただく。汗まみれで熱いお茶はちょっと厳しいけれど、かなり脱水しているから我慢して流し込むしかない。


 13:26
もっと汗を乾かしてたっぷり水分も摂ってゆっくり休みたかったけれど、またも時間がなくて11分しか滞在することができなかった。女体山を越えるつもりだったけれど、自信がなくなってきたので花折峠へ向かう。花折峠は6回目になる。


 13:53
花折峠の標高は410m、前山ダムからの標高差は270mしかないけれど、最初から急坂が続いていきなり汗まみれで力が失せていく。この道を楽に登れたことは一度もない、今回も過去の苦しみは完全に忘れていて新鮮な苦しみが次々訪れた。


 14:05
いよいよ身体が動かなくなって、峠の手前の遍路小屋で休憩を入れてしまった。この道で休憩したのは初めてのことだ。休み方も水分塩分の摂り方も中途半端だという自覚はあったけど、ここまでとは思わなかった。


 14:06
ようやく花折峠に到着、70丁の地蔵とあるように、ここから大窪寺まで7.6km。75分で行ければ上々というところだろう。


 14:13
県道3号に合流、峠からの下りはいたって快調、標高差50mをあっという間に下ってきた。ここから多和小学校までもさらに歩きやすい緩やかな下りになっている。


 14:26
多和小学校の前で国道377号に突き当たる。大窪寺まであと5km、この距離表示が正しいとすれば2.6kmを20分で来たことになる。時速にすると7.5km以上。ほんとかなというくらいのスピードだ。


 14:35
国道に入ると緩やかな登りになる。快調に下ってきただけに少しこたえる登りになる。3年前には明らかになかった短絡路ができていた。ここを右へ行くとかなりきついヘアピンカーブがあったはずだ。坂も急で大型バスやトラックにとって難しい道だったはず。それを避ける道がこの3年の間に完成していた。最後半になってまた歳月を感じさせられた。


 14:40
峠の処で古い道が合流してくる。100mくらい近道になっているかもしれない。


 14:41
大窪寺まで4km、この1kmを15分もかかっていることになる。そんなにきつい登りだったかなという感じもする。


 14:46
竹屋敷の前を通過、この道を右の方へ行くと別格20番に至る。


 14:50
国道を離れて脇道に入る。この距離表示は正確だからあと23分で着けるはずだ。


 15:06
この1.6kmを16分で来た。脇道に入ってからずっと緩やかな登りだから時速6kmであれば上々。


 15:12
ようやく88番札所の山門を確認、最後の坂は急だったけど、だんだん見えてくるこの感覚は何とも表しがたい。最初のお遍路ではやはりこの道を歩くべきだと思う。女体山は2回目以降にしましょうと、全ての歩き遍路さんに言いたい気持ちは変わらない。


 15:13
四国霊場結願所 医王山大窪寺に到着。前山ダムから103分26秒かかった。ベストより2分遅れ。でも4年前の記録とほぼ同じ。4年前は前半は調子が悪かったけれど、前山ダムからは嘘のように調子が良くなってそれまでの記録を5分も縮めた。そのときと同じだからまあそんなに悪くない。30度近い暑さだったことを思えばよく歩けた方だ。


 15:24
本堂ではきっちり薬師如来の「薬」の文字を確認、奥さんの言われたとおり右側の点々がなかった。理由ははっきりしないそうだけど、弘法も筆の誤り、を象徴するものかもしれない。
 あの日、確かにここでカメラのシャッターを切っていた、原田芳雄さんはもういない、少し寂しい思いで女体山を見上げた。



 15:33
古い山門を下りてきたすぐ前にあるうどん屋さんに高札がかけてある。ドラマ「ウォーカーズ」がないのはちょっと残念。


 15:34
今回の旅、そして今年の四国の旅最後の遍路宿、民宿八十窪に到着。民宿八十窪は3年ぶり6回目の投宿になる。意外なことに玄関にウォーキングシューズは1足しかなかった。宿の関係でもっと早い時間に着く人が多いのだけれど、ぼくのあとに次々入って、同宿は9人になった。3人連れが二組と一人で歩いている人が二人。ぼくはその二人と同じテーブルで夕食を摂った。隣に座ったのは東京杉並区から来たベテラン遍路さん。自ら「ぼくはお四国病なんですよ」豪快に笑いながら言う。娘さんと旅行するときでも札所以外の四国の名所をまわるほど。今回は別格も巡って、今日は大滝寺をお参りしてきたそうだ。明日は白鳥温泉から大坂峠越えで3番札所の近くに出る。向かい側に座ったのは小金井市から来た人で、こちらは今回が初めてで区切り打ち。珍しいことに宇和島から歩き始めた。宇和島に知り合いの人がいて都合が良かったようだ。初めてなのでどんな宿に泊まったらよいか分からないと言うので、久々に遍路宿情報を手渡した。当然、徳島駅近くの大鶴旅館と須崎市の柳屋旅館を推しておく。

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