WALKER’S 

歩く男の日日

22日目=その6

2016-04-20 | 16年四国の旅

 10分ほど部屋で休んでいたら、お声がかかってお風呂へ。湯船に濾過装置が浸かっていて稼働中、なるほどこれならお湯を入れ替えずにきれいなお湯でみんなが気持ちよく入れます。一人一人入れ替えてくれる宿もありますがそれは3部屋以下の宿ばかり。昨日松屋で同宿だった逆打ちの人に訊いたら岡田の定員は8人、お湯を換えずに8番目の人はちょっときついかもしれない、女性ならなおさらでしょう。この点一つでも大きなおすすめポイントになります。
 ぼくが風呂から上がったのは3時少し前、ちょうど水車で休んでいた3人が到着したところです。食事まであと2時間半ほどで5人だから一人30分くらい使えます。こういうことも計算しながら早めに宿に入ったという訳。ビジネス旅館小松でも宿泊者が多いのは判っているから普通なら30分は浸かっているのに半分くらいで切り上げました。こういう気の使い方が普通にできるのもお遍路のいいところ。もちろんそういうことがあまり判っていないお遍路未満の人も時々見られますが。
 4時頃には松屋で同宿だった夫婦も到着、これで今宵の宿泊者がそろいました。食堂はそんなに大きくなくて、8人で食卓がちょうど埋まります。部屋はぼくが確認した範囲では7つ、つまり7組8人が限度ということになるようです。食事の時間になって皆が顔を合わせると、知らない顔は到着したときに出会った一人だけ、すでになじみの顔ばかり。ぼくは意識して時計がかけてある壁に近い端の席に座ります。そちらの壁に佐藤さんが写った写真が飾ってあると教えられたからです。そこはおじいちゃんが座ってご飯を装ってくれる隣の席でもありました。ぼくが箸をとるより先に写真を気にしているとおじいちゃんがいっしょになって探してくれます。やっとのことで見つけると、その写真に写った佐藤さん以外のメンバーも一人一人どういう人か紹介してくれます。もうそれだけでこの宿がどういう宿か判るでしょう。四方の壁はすべてこの宿に泊まった人たちの写真で埋め尽くされていますその写真はおじいちゃんが撮ったものでもなければ息子さん夫婦が撮ったものでもない。宿に泊まった人たちが送ってきたものばかりだそうです。さすがにこういう宿もほかには1軒たりともない。やっとぼくも一番有名な遍路宿に泊まることができたのだと、ちょっと心躍るものがあります。昨年初めて泊まった高知屋もそうですが、遅すぎたという感じはしますが、知らないままにしないで本当に良かったと思います。
 食事が一段落して懇談の時間、夫婦は3回目、落合さんはたぶん2回目、あとの3人は初めて、そしてぼくの前に座った男性は、超ベテランの先達、山口さん、18回目でその内歩きは13回目だそうです。ぼくだけ名刺(納札として使っている)をいただきました。赤札なので、赤い縁取りが手書きでしてあります。いろんなことをもちろんご存じなのですが、みんなの話を聞くとが多く、あまり出しゃばったりはせず、その代わりぼくにいろんな話をしてくれました。みんなが避ける評判が最悪な遍路宿もあえて一度は試してみたいと、挑戦したそうです。内子町の宿は食事はぼくが聞いていた通りでしたが、部屋や布団はそんなにひどくなくて普通だったそうです。ここら辺は聞いてみないと本当に判らない。キャンセルした人には本当にしつこくつきまとうということは実際に見たということでした。もっといろんな話を聞きたかったのですが、他の人の話もいろいろ出て、なかなかできませんでした。そうして、ついにおじいちゃんの遍路道案内の時間、知り合いのお遍路、神戸のSさんのブログで見て何となく知っていたのですが、想像以上におもしろくおかしくためになるお話、名人芸と言ってもいいほど練りに練られた語り口、これを知らずしてベテランお遍路だと大きな顔はできたものではありません。ほんとうにありがたいことでした。ここまで電車でつないできて本当に良かったし、今回はここで最後になっても十分満足だし何の悔いもありません。
 明日はバスで池田まで出て帰ります、と言ったらおじいちゃんがバスの時刻表を確認、ぼくが7時15分のバスに乗るといったら、時刻表にはそのバスはない、それはスクールバスではないかと、おじいちゃん、スクールバスは一般の人は乗れない、じゃあ1本遅いバスに乗るといったら、おじいちゃんが送っていくと、ぼくは用事があるから行けないけど息子か嫁に送らせると、言ってくれました。そこまで甘えていいのかと一瞬ためらったのですがせっかくのご好意、お接待は断ることはできないので、ありがたくお願いすることにしました。
 すばらしいお接待で今回の(今年のではない、年が変わる前にまた戻ってくる)お遍路を締めくくることができて、本当に最高でした。足摺を過ぎてからは思うような歩きはできなくなっていったけれど、今までで一番うれしいお遍路でした。