WALKER’S 

歩く男の日日

12日目 5月5日

2009-06-22 | 09年四国の旅

 7:29
12日目は雨の夜明け、5時20分ころから降り始めた。昨日とは比べものにならない激しくしっかりした降りだ。でも強ければ強いほど長続きはしないから、午後までのような気もする。今日は30km、初日を除けばこの旅で一番短い行程になる。7時半に発つと女将さんに言ったけど、朝食が終わってもまだ降り続いているので30分遅らせる。8時になるといくらかおさまって普通の降りになっていた。昨日の宴会はうるさかったでしょう、とペットボトルのお茶と枇杷をお接待して頂く。ウォーカーズの出演者のサインを撮影させて貰うと、「その隣のサインは海洋堂の社長さんのものなんですよ」と説明してくれる。ハリウッドにもその名の轟くフィギュアの制作会社、食玩のメイカーとしても有名です。その社長さんは土佐の出身でこちらで催し物があったときにこの宿に泊まられたそうです。


 8:13 道の駅かわうその里すさき
今日の歩行時間は5時間弱、8時に出ても2時間は休憩できる。休む場所は例年3ヶ所と最後岩本寺でのお参り納経の時間、それぞれ30分ずつで3時に宿に入れる。
フレームの上に傘が写り込んでしまった。午前中は傘をさしながらの撮影なのでいい画は撮れないかもしれない。


 8:27 角谷トンネル 420m
た傘が写り込んでいる。歩道はない、須崎から土佐久礼までは国道にも歩道がない所が多くて、ちょっと嫌な道、雨が降っているのでなおのこと。


 8:33 久保宇津トンネル130m
またも歩道はない。しかも左側を歩いている。道路の方は左側に歩道があるか、歩きやすくなっている、だからトンネルだけ右に渡るということもしない。いやな感じではあるけどその度に道を横断するのも却って危ないことになる。


 8:43 安和トンネル 245m
歩道はない、このトンネルの手前で右に渡る。


 8:48
国道を離れて右へ折れると焼坂峠への道。国道には赤線がついていないから、多くのお遍路がこの道を行くことになる。ぼくは2回歩いたけれど、これから歩くことはないと思う。36分も余計に時間がかかる。しかも普通の山道より歩きにくい所が多い、快適なはずの下りも大きな石がゴロゴロしていてとても歩きづらい。遍路道にこだわる人、トンネルがすごく嫌いな人はこの道を行くべきですが、そうでない人、とくに体力に自信のない人は迷わずそのまま国道を行く方がいい。


 9:00 焼坂トンネル 966m
この写真を撮るために立ち止まったら、追い抜いていく人がいた。すぐ後ろを歩いていたみたいだけれど全然気がつかなかった。キャップの後にエプロンが付いていたので、安芸の手前で見たスパッツさんかと思ったけれど、服装は全然違うし年格好もだいぶ違ったので別人だと認識する。10mくらい後を付いて歩く。驚いたことに、トンネルの中ではその差が全く変わらなかった。ぼくは、追い抜こうとか、逆に離されようとかいう意識は全くなく普段通りの歩きをしようと心がけている、前の人も後ろを見ていないから普段の歩きに違いない。それが全く同じスピード、その差が10cmも変わらない。ジョギング遍路以外でぼくと同じかそれ以上の速さで歩く人を初めて見た。


 9:10
トンネルを抜けると中土佐町、雨はほとんどあがっている。少し下りになっているせいか、ぼくの方が少し速くなって200mくらい先で追い抜く。でも、追い抜いただけで、3mくらい後をぴったりついて、トンネルの中と立場が変わっただけになる。


 9:39
 本当は、そえみみずへんろ道は右折、という標識を撮りたかった。昨年はそえみみずが工事中で通行不能だったので今年はそえみみずを行きたいと思っていた。土佐久礼駅まで行ってそこで休憩してから行くつもりだった。
 この写真を撮るために立ち止まったら、後ろを歩いている人も同じように立ち止まってぼくを待つような格好、「そえみみずを行かれるのですか?」と訊いたら「どちらでも」、ぼくの行く方に付いていく、と言う。え?!と思ったけど、歩く速さは全く同じだし、断る理由もないので、「じゃあ、ぼくはそえみみずを行きますけど先に久礼駅で休みますのでそれでいいですか」と言うと、「それで構わない」と言うので一緒に歩き始める。
「それにしても歩くの速いですね」と彼が言うので、「お互い様じゃないですか」と笑いながら返す。「いつ出発されたんですか」と訊かれたので、「金曜日に出たので今日で12日目ですか」と答える。普通の人なら、うわぁ12日でここまでですか、などと大層びっくりされる。ところが彼の答えに逆にびっくりさせられた。「ぼくは土曜日に出たので11日目ですよ」。すごい、ぼくよりタイトなスケジュールで歩いている人を初めて見た、噂やネットではもっと早い人がいることは知ってはいたけれど。


 9:50 土佐久礼駅
この駅に着くまでに、道沿いの家から女の人が出てきて連れの人に、民宿いさりびの名刺を渡して、よかったら泊まってくださいと、勧誘する。いさりびは四国で5本の指に入る素晴らしい遍路宿だ。連れの人は、全く興味がなさそうにポケットに押し込んだ。彼のスケジュールではいさりびは1日の行程の中間地点になるから、全く必要のない宿になる。すでにこのあとの宿も全部予約しているようだった。彼は今回は14日で39番まで行くそうだ。2週間で2国打ち。4回目の区切り打ち、と言ったから前の3回で1巡したということだろう。


 10:11 橋本さん
駅のトイレを借りて、入り口の横のベンチで休む。連れの人が、納め札を貰えますか、というので、快く交換する。貰った納め札を見て思わず大声を上げてしまった「仙崎ですか!!! 行きましたよ、金子みすゞ記念館、仙崎には2回も行ったんですよ」
山口県長門市仙崎、といえば童謡詩人金子みすゞの生誕の地、数年前その生家跡に記念館が建設された。ぼくは、みすゞさんは神様だと思っている。そのはっきりした理由もある。

 早坂暁  「蜂のなかに神さまがいる」というのがありましたね。
 矢崎節夫 「蜂と神さま」。
 早坂暁  あれなんかすごいですね。あれはお釈迦さまが言うことなんですよね(笑)。
 矢崎節夫 あの作品はローマ法王が宇宙物理学者の佐治晴夫先生からお聞きになったときに、涙を流されたそうです。
 早坂暁  これは説教の極意というか、いちばん肝心なところを言っているわけです。お釈迦さまが言ってもおかしくない、キリストさまが言ってもおかしくないことを、あんな平易な言葉で言いきれるというのね・・・・。子供も、「ああ、納得!」と思うじゃないですか、あれは。

だから、ぼくにとっては、仙崎は善通寺以上の聖地だと思っている。そこから来た人に会えるというのは、他のどんな土地から来た人よりも感動的なことになる。年甲斐もなく大声を出してしまうことになる。


 10:18 久礼トンネル 75m
納め札を交換して、軽食を摂る。柳屋で頂いた枇杷を橋本さんと分けて食べる、そしたらいなり寿司を1個頂く。彼は今日は民宿さざなみを6時過ぎに出たという、岩本寺まで行くと言ったら、女将さんに、とても行ける距離ではないと言われたそうだ。42kmだから普通の人なら10時間以上かかる、休憩の時間も入れると12時間はかかるから、やめた方がいいとまで言われる。でも彼は普通の人ではないからね、ここまでの行程を大体伺う。1日目、藤井寺まで37km、2日目、大日寺まで37km、3日目、金子やまで40km、4日目、薬王寺まで41km、5日目、南風まで40km、6日目、最御崎寺まで36km、7日目、神峯寺下まで41km、8日目は聞けなかったけれどたぶん大日寺まで34km、9日目、高知屋まで37km、10日目、さざなみまで44km、11日目、岩本寺まで42km、12日目、月白まで45km、13日目、足摺岬まで39km、14日目、延光寺まで52km。1巡目で一番長く歩いたのは、観自在寺から龍光寺までの50km、その自信があるからこういうスケジュールでも大丈夫。
 駅では24分の休憩、10時13分に出発。ぼくはちょっと勘違いしていて、久礼駅まで来るとそえみみずに行くには250mくらい戻らねばならない。戻るのはためらわれたので、大坂越えの道を行くことにする。橋本さんは前回は国道を行ったので、どちらにしても初めての道になる。


 10:55
周りには山と川以外何もないのに、突如として異形の建造物が出現する。この道路の建設のためにそえみみずが歩けなかった。


 11:00
これから登る七子峠が見えてきた。中央の稜線がへこんでいる所。登り口からの標高差は200m、ここから見ると、もっと遠く、もっと高く感じる。


 11:10
久礼駅からここまで6kmほとんど平地、残り1kmで200m登る、あと20分で登り切れるか。


 11:28 七子峠から
登りの道は、ちょっと気合いが入りすぎたようだ。橋本さんの足音が常にすぐ後から聞こえるので、これくらいの速さではまだ不十分なのかも、といういらぬ気遣いばかりをして、ついつい速足になってしまう。あとから橋本さんに聞くと、ついていくのに精一杯でかなりきつかったという、それならもっとゆっくり余裕を持って登ればよかった。おかげで、昨年のベストタイムを上回る速さだった。
 階段を登りきって、しばし今まで歩いてきた道を見下ろす。一仕事終わった安堵感のようなものが広がる。本日はあと13kmちょっと、十分すぎるくらい休憩がとれる。昨年はここで足摺の宿の予約が取れなくて大汗をかいたけれど、すでに宇和島までの予約は済んでいる。


 12:31
七子茶屋の入り口の横にあるベンチで休憩する。茶屋の中には入らない。休んでしばらくしたらまた雨が降り始めた、一時雨足は激しくなった。休んでいるとき、今度は靴の話になった。橋本さんは靴屋さんの薦めでソウルが堅めのものを選んだけれど、結果的にはうまくなかったという。負担が大きくて踵にマメができてしまった、ようやく慣れてきた所だという。ぼくの靴のことを聞かれたので、3年連続で履いているミズノのOD100GTXは最高だと宣伝する。焼山寺では半日降られたのに靴の中は全然湿らなかった、もちろん今日も全然濡れていない。橋本さんの靴もゴアテックスだけどすでに湿っているという。同じ素材を使ってもメーカーによって性能がうまく発揮できないこともあるようだ。ただこの靴はソウルが柔らかいので磨り減り方が早い。香川に入るころになると、インソウルがのぞいてくるほどになる。でも、このOD100GTX三(ローマ数字が入力できないので漢数字で表記しました)の改良型が販売されていました。OD100GTX四の新聞広告が出ていました。これはソウルにハードな素材X10を使用したもの、唯一の弱点が改良されました。
 雨宿りもかねてたっぷり50分の休憩、12時19分に出発する頃にはまだ降ってはいたけれど、ほとんど気にならないくらいの小雨、橋本さんは傘を持たず合羽も着けていないので、ぼくも傘はささない。10分ちょっと歩くとほとんど上がってしまった。


 12:45
国道に合流していく。この脇道を歩けない人は結構多い。脇道から国道を歩いている人を時々見かける。


 12:50 雪椿休憩所
七子峠から3.5kmの地点、すごく短いけれど例年はここで休んでいた。この先に適当な休み所が見当たらない。今回は50分も休んだあとなので休まない。


 13:51 道の駅あぐり窪川
橋本さんが遅めの昼食をとるというので、ここでお別れ。岩本寺まではあと3kmほど。彼は宿坊に泊まるので早く着きすぎてもすることがないだろう。岩本寺の宿坊は朝6時からお勤めがあるので、出発は7時頃になる。ぼくは6時に出るので、明日は会うことはないだろう。


 14:08 呼坂トンネル
例年七子から岩本寺までの行程はすごく短く感じる、それだけ調子がいいしスピードも乗る。休憩所から岩本寺までの平均時速は6.6km以上。でも、今年は全然乗らなかった。休憩所で休まず2時間歩きっぱなしだったのが大きな理由だとは思うけれど、6.4kmしか出なかったし、足の調子もよくなかった。左足首の腱(アキレスと逆の位置にある方)に張りが出てちょっと気になったし、左足小指の先のマメもかなり大きくなっている。足首の腱は過去にも痛んだことはあったけど、歩きに影響が出るほどではなかったからあまり心配はしていない。


 14:21 岩本寺
最後は相当疲れてよたよただったけど、いい時間に着くことができる。お参りも余裕をもって落ち着いてできる。野宿の若い人が水屋の横のベンチで煙草を吸っている。この時間だから、まだまだ先まで歩くはずだ。


 14:44
岩本寺から窪川駅の近くにある宿の方へ戻る途中(少し左に折れる)にコンビニがある。2回目の飲料、カフェオレ500cc112円を買う。ここまで12日間の総支出(賽銭、納経代は除く)は56190円、今日の宿泊代を払っても1日平均5000円を切っている。


 14:54
連休なので3部屋が満室。あとから聞いたことですが、この岩本寺の周りの宿はすべて満室、前日の予約ではどこにも泊まることができず、電車に乗って27km先の宿になんとか泊まることができた、という人がいました。
 足首の腱が気になったので、入浴後入念に指圧マッサージを繰り返す。小指のマメもようやくはっきり水たまりが確認できたので水を抜く。裁縫セットは差し上げてないけれど遍路バッジの安全ピンがある。水を抜くのは入浴後がよい、一晩寝ればある程度乾燥してぺったんと表皮と皮膚が同一化していることも期待できる。
 村の家(むらのいえ)、2食付き5500円、素泊まり3500円。ぼくは5回とも素泊まりですが、食事もなかなか良いという評判を聞きました。今までは岩本寺宿坊をお薦め宿にしていたのですが、どうも、こちらの方が全体としては良いかもしれません。値段も1000円も安いことからして、来年の遍路宿情報は書き換えるべきでしょう。