万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

思わぬドイツ銀行救世主の登場

2016年10月07日 09時51分53秒 | ヨーロッパ
低成長、長期化を懸念=IMF専務理事―G20
 ECBのマイナス金利政策や住宅担保ローン不正販売の件でアメリカ司法省から巨額の和解金の支払いを求められたこともあり、ドイツ銀行は、現在、経営危機の最中にあります。ドイツ国内では、同行の破綻を想定してか、家庭用金庫の販売が伸びているとの指摘もあります。

 ドイツ銀行の経営危機に対しては、メルケル首相は、これまでのところ政府による救済については消極的な姿勢なようです。一民間金融機関の救済に、国民が納めた税金が投入されたのでは国民からの反発を招く、というのが救済に尻込みする理由なのでしょう。しかしながら、家庭用金庫が実際に一般のドイツ国民によって購入されているとしますと、既に、水面下においては、ドイツ銀に預金口座を有する国民による預金の引き出しが起きており、一般国民の財産喪失の危機感も高まっているものと推測されます。ドイツ銀の破綻はドイツ全体に与える影響は計り知れないのですが、少なくとも政府の態度は、冷ややかなのです。一方、IMFのラガルド専務理事も、ドイツ銀に関連して「多くの銀行は現在の金融情勢に合わせ、ビジネスモデルを見直していく必要がある」と語り、自助努力を説くに留めています。それでは、誰も、ドイツ銀に救いの手を差し伸べないのでしょうか。実のところ、思わぬところから、救世主が登場するかもしれないのです。

 メルケル首相の否定的発言があった後だけに、殊更に強い印象を残したのが、ドイツ企業によるドイツ銀支援声明です。シーメンスといったドイツ企業大手が名を連ねていましたが、”ドイツ銀は、内外におけるドイツ企業の活動を金融面から支える重要なパートナーであり、今後とも、ドイツ銀を支えてゆく準備がある”旨を述べたのです。支援の具体的な内容が、ドイツ銀に対する資本増強資金の提供や早期債務返済等の資本・財務面での支援であるのかは不明ですが、グローバル化の時代とされながら、政府にも見捨てられそうなドイツ銀に、最後に救いの手を差し伸べたのが、外でもない民間のドイツ企業であるとしますと、これは、極めて興味深い”政府抜き”のナショナリスティックな現象です。

 そして、もう一つ、思わぬ救世主が出現するとしますと、それは、EUです。ギリシャ危機に代表されるソブリン危機を経験したEUは、再発防止のために、総額7000億ユーロの基金を擁するESM(European Stability Mechanism))と呼ばれる救済メカニズムを設立しました(2012年10日8日から運営開始)。主たる救済の対象は、財政危機に陥っている加盟国政府ではあるものの、金融危機の連鎖性を考慮し、経営危機にある民間金融機関をも救済対象に含める方針を示しています。現在、ギリシャ政府はESMからの救済融資を受けていますが、ギリシャ危機に際して救済に最も難色を示したドイツの銀行もまたESMによって救済され、そして、それが自らをも救うことを意味するとなりますと、何とアイロニーに満ちた運命なのでしょうか。

 実際にドイツ銀が救世主を必要とするほど深刻な状態にあるのかは分からず、また、事の重大に気が付いた、もしくは、世論に押されたドイツ政府が、自ら救済に乗り出すかもしれません。しかしながら、上述した思わぬ救世主登場の可能性は、世の中は単純ではないことを示しております。ドイツと言えば、戦前にあってナチス政権下に国家ナショナリズムを経験した国ですが、今般の’政府抜き’のナショナリズムであれ、EUの地域主義であれ、ドイツが新たな局面を迎えていることを示唆する注目すべき現象ではないかと思うのです。

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コメント (2)
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