万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

新自由主義は”逆神”か?ー成果主義と発展は両立しない

2016年10月11日 14時51分03秒 | 国際政治
ノーベル賞に決まった大隅良典さんが喜びの半面で訴えたかったこと
 今年のノーベル医学生理学賞は、大隅良典東工大栄誉教授に授与されることとなりました。誰からも注目されていなかった分野において、好奇心の赴くままに無心に研究を続けた結果がノーベル賞受賞という実を結んだのですが、氏は、受賞の喜びを語るのみならず、基礎研究を疎かにする今日の科学技術の研究のあり方に警鐘を鳴らしておられます。

 近年、企業のみならず研究の場においても成果主義が大幅に導入され、短期的に成果を上げないことにはその職に留まることさえ難しくなっています。この方針は、新自由主義の基本路線でもあり、短期的収益の最大化を評価基準とする企業経営や投資とも共通しています。評価の高い経営者とは、収益と共に株主配当をも最大化する経営者であり、短期的に最も高い投資効果を実現するのが、優れた投資家なのです。もちろん、社員に対する評価も、短期的な実績に基づく成果主義ですので、誰もが、自らの評価を下げかねない息の長い基礎的な研究・技術開発や新規の製品開発に取り組む意欲を失っています。経営者も、投資家も、社員も、そして、研究者までもが成果主義という”魔物”に縛られているため、長期的な視野から事業や人等を育てたり、未知の世界に足を踏み入れたり、新たな分野に挑戦することができないのです。

 イノベーションを連呼する一方で、新自由主義者は、イノベーションが生まれる土壌を破壊しています。自由な研究空間は与えられず、新自由主義者達が有望と決めた分野への集中を余儀なくされているのです。日本国の企業がかつての勢いを失い、科学技術の分野での論文などもめっきり減っている理由は、新自由主義の導入にあるといっても過言ではありません。また、大学改革についても、国際ランキングを上げることを目的にAD入試の導入や人材の国際化などに推進したにも拘わらず、東大といったトップクラスの大学でも、国際ランキングは逆に下がる一方です。つまり、新自由主義の路線を進めば進むほど、結果は逆になるのです。

 目的と結果との間の負の因果関係ははっきりしているのですから、新自由主義路線については、軌道修正を図るのが賢明というものです。しかしながら、少なくともマスコミの論調を見る限り、新自由主義者は現実を直視することなく、あらゆる反対を押しのけて、強行突破を試みようとしてるようにも見えます。”改革”という名の”破滅”に向けて…。ここは一旦立ち止まって、新自由主義の真の姿が”逆神”であることを確かめる必要があるのではないでしょうか。

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コメント (3)
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