万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

もし中国市場へのアクセス条件が”人の自由移動”であったならば?

2016年10月04日 15時10分39秒 | ヨーロッパ
EU離脱でメイ英首相、来年3月末までに交渉開始=保守党大会で演説へ
 98%の国民が難民割当に反対票を投じたハンガリーの国民投票は投票率の低さから不成立なりましたが、イギリスのEU脱退に続き、EUでは不協和音が響いているようです。その一方で、人の自由移動こそ、堅持すべきEUの原則であるとするEU側の見解には変化は見られません。

 メイ英首相は、来年3月末までにEUとの離脱交渉を開始する方針を示していますが、人の自由移動に関する方針が真っ向からぶつかるため、EU側との交渉は難航が予測されます。EUの柔軟性を欠いた頑強な態度には驚かされるのですが、この問題を中国市場に置き換えてみますと、どうなるのでしょうか。

 EU28か国を合わせた欧州市場の総人口は凡そ5億人であり、GDP総計ではアメリカを凌ぐ世界第一位の経済規模です。一方、GDPでは欧州市場よりは劣るものの、中国の総人口は13億とEUの2.5倍です。双方とも巨大市場であり、それ故に、イギリスを含めた全ての諸国は、これらの市場へのアクセスを重視しているのです。EU側は”規模の強み”を握っており、イギリスに対して、高飛車な態度で”自由に欧州市場にアクセスしたければ、人の自由移動を受容せよ”と迫る理由もここにあります。それでは、中国が、仮に、自国市場へのアクセス条件として人の自由移動を認めるよう要求した場合、他の諸国は、この条件を飲むことはできるのでしょうか。巨大市場であることは、同時に、人口規模も巨大であることを意味します。つまり、13億の中国人が、大量に、国境を越えて自由に移動を開始するとなりますと、人口規模の小さな諸国はひとたまりもありません。おそらく、経済分野に留まらず、政治も、社会も、文化も、中国人パワーに押されて激変してしまうことでしょう。比較的人口規模の大きい日本国でさえ、人口は、中国の十分の1に過ぎません。もっとも、共産党一党独裁体制の下にある中国市場は、政府系企業優遇措置や統制経済的手法を残していることに加えて、消費市場としても十分に成長しているとも言えず、それほど魅力的な市場ではなくなってはいますが…。

 欧州市場を中国市場に置き換えてみますと、EU側の要求が、如何に無理難題であるのか理解できます。巨大市場へのアクセスは確保できても、人の自由移動の条件を受け入れたことから、国民の過半数を占めるに至った移住民が政治的権利を主張するようになり、もとからの住民が将来的には祖国を喪失し、国家の独立性やナショナル・アイデンティティーも危うくなるのですから。EUが、EEC創設以来の原則という理由だけで、頑なに人の自由移動の原則に拘っているとしますと、前例踏襲の悪しき官僚主義に陥っているのかもしれません。果たしてEUは、欧州の人々を何処に連れてゆこうとしているのでしょうか。

 よろしければ、クリックをお願い申し上げます。

にほんブログ村
コメント (3)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする