万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

日本国政府による自国植民地化政策の懸念ー水道事業の開放

2016年10月23日 15時23分36秒 | 日本政治
 本日の日経新聞の一面に、”水道企業の参入後押し”という見出して、日本国政府が、水道事業の民間企業の参入障壁を大幅に引き下げる方向で検討に入ったそうです。この政策、一つ間違えますと、自国の植民地化政策となるのではないでしょうか。

 当記事の説明によると、地方自治体による水道事業の運営権売却(コンセッション)は既に2011年から認められているものの、災害発生時における莫大な費用負担が重荷となって、実際には実現していないそうです(松山市の事例は、事業運営ではなく浄水場の運転や設備の保守に限定されているらしい…)。そこで、政府は、企業負担の低減で市場参入を促す方針のようですが、そもそも、”リスクは住民、利益は企業”では住民が納得するとは思えません。

 加えて、料金の引き上げは時の手続きも簡素化するとし、水道料金の値上がりを前提としています。通常、民営化に際しては、値下がり効果を以って国民を説得するものですが、水道事業に関しては、設備の老朽化を取り上げ、最初から設備更新に要する費用の上乗せを予定しているのです。水道事業の民営化については、諸外国では、料金の現状維持を約しながら、結局、老朽化を理由に反故にされ、水道料金が二倍に跳ね上がった例もあるそうです。水道施設の老朽化問題は地方自治体の怠慢であって、予算を付ければ済むことです。

 そして、この政策を自国植民地化政策と呼ぶ理由は、水道事業の運営権の売却先を内外に開放していることです。外資に限定されているわけではありませんが、日本国内の水道運営事業はこれまで地方自治体が担ってきたため、浄水事業を除いて民間運営企業は十分には育っていません。この状態では、運営権を競争入札の手続きで開放すれば、当然に、国内企業は、世界規模で水道運営事情を展開してきた外資大手に太刀打ちできないことでしょう。「水メジャー」と称されているフランスのヴェオリアや仏スエズなどの名が既に上がっておりますが(ヴェオリアは松山市の浄水事業の委託企業…)、近い将来には、13億の市場で実績を積んだ中国企業の参入もあり得ます。中国系投資機関は、最近、日本国内で水源地帯を積極的に買い漁っていますので、水道事業への参入意欲は高いはずです。

 アメリカでは、民営化に伴う水道料金の値上がりに反発した住民が、水道事業の経営権を買い戻して再公営化した事例もあるそうです。買い戻しに際しては相当の資金を要しますので、この事例は、一旦、経営権を売り渡すと、後々まで禍が続くことを示しています。水道事業とは、基本的な社会インフラであり、かつ、極めて公共性の高い一種の”独占事業”ですので、民営化に相応しい分野とは言えず、日本国政府が、何を目的にして国民に不利益を与えかねない政策を推進するのか、疑問を抱かざるを得ないのです。

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コメント (1)
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