万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

”裏プロジェクト”としての”EU市民統合”の表面化

2016年10月03日 14時57分37秒 | ヨーロッパ
ハンガリー国民投票不成立=要件満たさず―難民受け入れ反対98%
 欧州統合と申しますと、直ぐに頭に浮かぶのは、経済分野における華々しいプロジェクトの数々です。60年代には関税同盟を実現し、90年代にはEUを創設すると共に、単一欧州市場をも完成させました。そして、単一通貨ユーロの登場は、EUが、不可能という声を押しのけて成し遂げた壮大なる構想として知られています。しかしながら、現在、イギリスが国民投票によってEU離脱を決定し、ハンガリーでも、EUによる難民割当に対する不満が98%の反対という国民投票の結果に表れています。

 ハンガリーでの国民投票は、有効投票数が50%を切っているために不成立ではあるのですが、棄権票を考慮しても、EUの難民政策に対する国民の強い不満が伺えます。今に至り、何故、かくも移民・難民問題が深刻化してるのかと申しますと、人の自由移動の実現は、”裏プロジェクト”であったからではないかと思うのです。経済分野におけるプロジェクトは、表舞台において堂々と推進されており、誰もがその内容や影響について凡そ理解していました。その一方で、人の移動の自由化は、EEC時代から目指すべき基本原則として掲げられつつも、その具体的な内容については、十分なコンセンサスが形成されていたとは言い難い面があります。況してや、”EU市民統合”といった名称で、プロジェクト化されていたわけでもありません。内容や範囲が曖昧な内にEU主導で進められ、国民が気が付いた時には、国家の根底を揺るがす重大事に発展していたのです。加盟国の拡大や国際情勢の変化によって、移民数や難民数も劇的に変化し、当問題への効果的な対応を理由にEUの権限も拡大するのですから、加盟国政府や国民にとりましては、”こんなはずではなかった”ということになるのでしょう。”欧州市民統合”の行き着く先には、国民の枠組みの融解させ見えています。

 人の自由移動の原則に基づく”EU市民統合”が、EU統合に付随する不透明な”裏プロジェクト”であったことは、今日、EUのみならず、加盟国をも不安定化し、国内分裂の要因にもなりかねません。人の自由移動とは申しましても、ビジネスや観光等による一時的な移動もあれば、現地での就業や社会保障の享受等を伴う定住型の移動もあるのですから、移民・難民問題が噴出したのを機に、人の自由移動の曖昧さと加盟国間のコンセンサスの欠如がもたらす問題について、EUは、方向性の見直しを含め、真剣に向き合うべきではないかと思うのです。

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