万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

危険な妥協ードゥテルテ大統領はスカボロー礁を中国に譲った?

2016年10月25日 13時52分06秒 | 国際政治
両国関係の安定重要…米比外相、電話会談で一致
 先日、訪日を前にして中国を訪問したドゥテルテ大統領は、アメリカとの決別を宣言すると共に、親中路線に大きく舵を切ったと報じられております。中比関係の劇的な接近の鍵は、スカボロー礁における中国側の譲歩にあるとも指摘されおりますが、事態は逆なのではないでしょうか。

 フィリピンに帰国したドゥテルテ大統領は、程なく、中比首脳会談の成果が目に見える形で現れるとした上で、中国船によって締め出されてきたスカボロー礁に、数日以内にフィリピン漁船が戻ることができる見通しを明らかにしています。大統領訪中を切っ掛けに、中国側がフィリピンに譲歩したとする上記の見解は、この発言に拠る憶測です。しかしながら、中国が、フィリピンに対して、軍事基地を含めたスカボロー礁からの全面撤退を約束したと見なすのは、早計に過ぎます。

 何故ならば、中国外務省の陸慷報道官が、この件について、フィリピン漁船に対して近く操業を”許可”する可能性について言及しているからです。つまり、スカボロー礁が中国の領域であることを前提に、特別にフィリピン漁民に対して漁業を認める、という態度なのです。仮に、フィリピン側が中国政府の許可の下でスカボロー礁での自国漁船の操業を受け入れるとしますと、これは、フィリピンが、同礁の中国領有を認めたことを意味します。フィリピンは、1999年8月の憲法改正でスカボロー礁を自国領土と定めましたので、中国に対する領土割譲ともなるのです。これでは、ドゥテルテ大統領は、鳴り物入りで訪中し、外交的成果を以って凱旋したように見えながら、その実、独断で領土を中国に割譲してきた、ということにもなりかねません。

 ドゥテルテ大統領は親日派でもありますが、日本国政府は、同大統領の訪日を機会に、南シナ海問題について率直な意見を述べる必要がありそうです。そして、安易な妥協は危険であり、法の支配の筋を通すことこそが、国際法秩序の下でフィリピンの権利を守ることに他ならないことを、丁寧に説明すべきではないかと思うのです。

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コメント (2)
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