万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

南シナ海問題ーアメリカによる中国提訴というシナリオ

2016年10月22日 13時06分06秒 | 国際政治
西沙諸島沖で「航行の自由作戦」=仲裁裁判決後初めて―米
 フィリピンのドゥテルテ大統領の訪中は、南シナ海仲裁裁定を葬り去ろうと手ぐすねを引いて待っていた中国に、またとないチャンスを与えてしまったようです。懸念は現実となり、中比首脳は、南シナ海問題は二国間の対話によって解決する方針で合意したと報じられています。

 フィリピンが親中へと傾斜を強める中、アメリカ政府は、仲裁裁定後初めての航行の自由作戦を実施したと発表しています。同作戦について、アーネスト米大統領報道官は、”国際法の下ですべての国の自由と権利を支持する”ことが目的であると説明しています。米報道官の説明の通り、南シナ海問題は中比二国間に限定された問題ではなく、国際法秩序、即ち、国際社会全体の問題であることは、中国とその追従国以外の諸国は全て理解しています。たとえ中比が結託して仲裁裁定を”棚上げ”しても、国連海洋法条約上の違法行為が争われている以上、二国間問題に還元することはできないのです。

 このことは、仮に、フィリピンが仲裁裁定を”棚上げ”して中国の軍門に下るとしますと、国際社会全体が、国際法秩序の崩壊の危機に直面することを意味します。そこで秘策があるとしますと、アメリカが、中国を相手取って仲裁裁判に訴えるという方法です。確かに、アメリカは、領土問題については当事国ではありませんが、提訴可能な非領土的な訴因としては、(1)帰属未確定海域における中国内法に基づく一方的な行政権行使の是非、(2)EEZ、あるいは、他国のEEZ内における軍事施設建設の違法性、(3)公海を含む南シナ海全域に対する中国による「九段線」主張の違法性、(4)7月12日の仲裁裁定の受入拒否…などが考えられます。常設仲裁裁判所であれば受理される可能性は高く、また、アメリカは、国連海洋法条約の締約国ではないものの、紛争の解決については非締約国の利用が許されるケースもあり、単独提訴も不可能ではありません。

 国連海洋法条約の締約国ではない点がアメリカの弱点ですので、日本国をはじめ、他の締約国諸国が中国を提訴するという選択もあります。特に、ベトナムは、まさしく国連海洋法条約の締約国であると共に領土問題の当事国ですので、当問題の原告適格を有しています。しかしながら、絶大な軍事力を擁するアメリカが直接に中国を提訴するとなれば、裁判後の展開が大きく違ってきます。中国を判決に従わせる段において、アメリカの軍事力には、受入圧力としての効果が期待できるからです。ドゥテルテ大統領は、第三次世界大戦の回避を以って対中譲歩を釈明しましたが、米中対立の舞台は、まずは司法となるシナリオもあり得ないことではないと思うのです。

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コメント (3)
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