万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

カレー難民キャンプ爆発事件ー多文化共生主義は放火にも寛容?

2016年10月28日 09時40分16秒 | 国際政治
難民キャンプで爆発=撤去中、負傷者も―仏
 イギリスへの上陸を目指して約6000人もの難民や移民が野宿しているカレーにて、遂にフランス当局が、難民キャンプ撤去に乗り出したと報じられております。一先ずは、移転先が決まっているそうですが、中には、撤去に際して放火をする難民・移民も現れているそうです。

 難民キャンプでの放火事件は、爆発音があったことから発覚したものであり、事件発生当初は、おそらく難民・移民によるテロ、あるいは、抗議の爆破を疑ったことでしょう。しかしながら、フランス当局は、事件性の疑いについて触れることなく、「民族によっては退去後に住宅を燃やす習慣がある者もいる」と説明したというのです。確かに、移動を常とする遊牧民族などには、以前住んでいた家屋を壊して他所に移るという風習はあるのかもしれません。あるいは、安易にテロや故意の爆破を認めますと、連鎖的に全国的な暴動にも発展しかねないことから、”民族的な習慣”に逃げたとも考えられます。

 その一方で、この問題は、難民や移民が持ち込んだ自らの”民族的な習慣”が、居住地において犯罪を構成してしまうケースに対する対応の是非をも問うています。多文化共生主義者は、民族差別に反対する立場から、全ての固有文化を無条件に受け入れるよう説いています。ところが、それぞれの国や地域では、刑法に限らず、倫理や道徳に関する人々の一般的な意識に相当の違いが見られます。イスラム教圏では名誉殺人が許容されていますし、インドでも夫を亡くした妻を殉死させるサティーといった風習が報告されています。そして、人身や臓器の売買が横行する中国の暗部に目を凝らせば、今日に至るまで生命軽視の風潮が残ってきたことは一目瞭然です。多文化共生主義者の多くは、同時に熱心な人権尊重主義者でもありますが、多様性の容認が非人道的行為や犯罪の容認にも繋がりかねないという事実には、目を瞑っているのです。

 今日、移民・難民問題が深刻な社会問題化した理由の一つは、受け入れ国の治安が悪化しているところにあります。カレーの難民キャンプでの爆発事件は、多文化共生主義の限界をも露わにしたのではないかと思うのです。

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コメント (3)
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