万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

急速に進む中国の危うい金融支配の行方

2016年10月31日 15時28分43秒 | 国際経済
 昨晩、NHKスペシャルで、「中国・14億人の大改革-成長かけた国土大改造」というタイトルのルポルタージュ番組を放送しておりました。3億人とされる農民工が直面する危機的な状況を描いていますが、このアングルからも、中国全体の国家的危機が垣間見えます。

 番組が報じる”国土大改造”とは、現政権が進めている国土計画であり、現在、大都市に集中している人口を中規模都市に分散し、消費市場を育成しようとする計画です。その際、移動人口として標的となったのが農民工と呼ばれる農村戸籍の出稼ぎ都市住民です。農民工達は、政府が投入した公安部隊によって強制立ち退きを迫られているのです。ここで注目すべきは、このタイミングで政府が打ち出した農村部における土地使用権を担保とした農民向け個人融資の解禁です。

 農民工が立ち退きを逃れるための最も有効な方法は、都市戸籍を手に入れることです。喉から手が出るほど欲しい都市戸籍を入手するための条件の一つは、都市部での不動産所有であるため、農民工の多くは、出身地の耕作地の使用権を担保に入れ、その資金で都市部の不動産を購入しようとしているのです。もっとも、こうした不動産需要の高まりを受けて土地価格が高騰しているため、番組に登場していた農民工の人は、土地を抵当に450万円の借金で物件を探しても容易には適当な不動産を購入できない様子でした。一つ間違えますと、農民工達は、農村部の土地の使用権を失う一方で借金だけが残ることにもなりかねないのです。そして、この政策は、将来的には、中国の農地の相当部分の使用権が、金融機関に移る可能性を示唆しています。その一方、国土大改造では移住先とされた中規模都市では、政府の計画通りには住民が集まらず、シャッターを降ろす店も目立っているそうですから、どこかでこの計画は破綻しそうなのです(働く場がなければ消費地にもならない…)。

 中国政府は、ゾンビ企業の救済策として債権の株式化を17年ぶりに解禁したそうですが、ここでも、金融機関が登場しています。中国政府は、金融セクターを縦横に活用することで活路を見出そうとしているようにも見えますが、長期的視野の欠け、国民の犠牲を顧みない共産主義国における急速な金融支配の進展は、一体、中国の将来に、何をもたらすのでしょうか。中国の金融機関の大半は政府系ですが、金融機関の手に移った土地の使用権の行方も不明ですし、また、債権の株式化により取得した株価が暴落した場合には、ゾンビ企業問題は、金融機関の経営危機へと連鎖的に拡大します(もっとも、株式化はゾンビ企業と金融機関両者の延命策かも知れない…)。共産主義国家中国は、近い将来、農村社会と金融部門の同時崩壊に直面するというシナリオもあり得ないわけではないと思うのです。

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