国際戦略研究所(IISS)と世界経済フォーラムとの共通性は、その資金の不透明性にも見ることができます。第7に挙げるべきは、運営資金の透明性の欠如です。そしてこの問題から、日本国の防衛、安全保障政策との関連性も浮かび上がってくるのです。
世界経済フォーラムの場合には、グローバル企業等を中心に同フォーラムへの賛同者から運営資金を集めているようなのですが、この不透明性は、IISSの方が深刻です(IISSは慈善団体とされ、資金調達は理事会によって監督されているとされる・・・)。シンクタンクの‘本業’に対する評価は極めて高いものの、運営資金については‘詐欺的’と評されるほど評価が低いのです。2016年に英ガーディアン紙が報じたところによりますと、IISSは、マナーマ・ダイアローグの開催地であるバーレーン王室から秘密裏に巨額の資金(250ミリオンポンド)を受けとったとする機密文書がリークされたとしています。一説によりますと、バーレーンからの資金は、IISSの運営資金の凡そ半分にも上ったそうです。
このことから、IISSが、‘顧客’となる国から資金を得ている様子が窺えるのですが、この他にも非公開の資金が多数含まれているのでしょう。もっとも、参加国の一国である日本国のケースでは、ジャパン・チェアの設置に当たって日本国政府は、凡そ9億円をIISS拠出しています(その後も、IISSへの資金提供は継続されているかも知れない・・・)。この拠出額は公開されてはいますので、透明性に関しては一先ずは確保されているのですが、防衛省や外務省が存在しながら、国家の根本に拘わる政策領域において政策立案や政策分析を一民間シンクタンクに委託、あるいは、アウトソーシングしてもよいのか、という問題も生じますし(機密漏洩のリスクもある・・・)、そもそも、国民の大多数は、この事実を知らされてもりません。既成事実のみが一人歩きしている状態なのですが、実際に、IISSとバーレーンとの関係が、日本国の安全保障政策に強い影響を与えている節が見られるのです。
バーレーン王国は、ペルシャ湾内に位置する島国であり、地政学的には海路における要衝に位置しています。アメリカの第五艦隊の司令部が置かれ、日本国と同様に米軍が駐留する国の一つでもあります。1880年からイギリスの保護国となっていたものの、1971年に独立を果たしており、もとよりイギリスとの関係が深い国でした。さて、日本国とバーレーンとの関係なのですが、近年、頓に軍事分野における協力を深めています。
軍事分野における両国間の関係は、2012年4月ハマド・ビン・イーサ・アール・ハリーファ国王が訪日した際に、民主党政権の野田佳彦首相との会談において署名された「両国防衛省間の防衛交流に関する覚書」に始まるものと推測されます(何故か、外務省ホームページでは同会談も覚書の内容も確認できない・・・)。同覚書の存在は、2014年に故安部元首相がシャングリア・ダイアローグに出席した際に作成された合意文書に登場することから実在は確かであり、実際に、2023年11月にバーレーンにて同覚書の改訂署名式が行なわれています。そして、その後、バーレーンとの軍事強力の強化に奔走したのは当時防衛大臣のポストにあった河野太郎議員であったのです(ジャパン・チェア開設にも関与・・・)。同議員は、2019年に第15回マナーマ・ダイアローグにおいて演説を行なうのですが、それに先だって、三度に亘ってバーレーンの国軍司令官と会談しています。
同年2019年には、バーレーンに置かれている米第五艦隊の司令部に自衛隊の連絡官を派遣し、2023年2月には、機雷戦の訓練のために、インド太平洋・中東方面派遣(IMED23)部隊に所属する掃海母艦「うらが」並びに掃海艦「あわじ」が、バーレーン周辺海域で実施された米国主催国際海上訓練(IMX/CE23)に参加しています。また、日・バーレーンの二国間でも協力関係が進展し、2024年7月には、バーレーン沖で海上自衛隊護衛艦「さみだれ」とバーレーン王国海軍哨戒艇「アル・ムハラック」が親善訓練を実施しているのです。
海洋の安全を護ることは、全ての諸国が協力して行なうべきことですので、海洋の治安維持に関する協力関係の構築は確かに必要ではあります(もっとも、自衛隊の中東地域での活動が適切であるのか疑問もある・・・)。しかしながら、その一方で、一民間シンクタンクに過ぎないIISSが主導する形態が適切であるとは思えません。上述したように、IISSは、バーレーンから巨額の資金の提供を受けとった疑いがあります。一種の‘不正献金’あるいは‘袖の下’とも解され、IISSのシンクタンクとしての独立性並びに中立性が欠けているとすれば、マネー・パワーに動かされていることにもなります。日本国と潤沢な‘オイル・マネー’を持つバーレーンとの軍事面での協力強化は、全くこの資金提供と無関係なのでしょうか。
また、IISSは、政府間対話のプラットフォームを提供するとしていますが、‘対話’の内容は、主催者側に筒抜けとなるのではないでしょうか。あるいは、IISSはバーレーン政府のために働いているのではなく、グローバリストが描く‘グローバル・ガバナンス構想’があり、同構想では、IISSは安全保障分野における司令塔なのかもしれません。各国の軍隊は、この戦略に従って任務を割り振られている可能性もありましょう。そして、各国政府は、‘顧客’というより同構想に巧妙に取り込まれた‘かも’であり、その任務に要する費用も‘コンサルタント料’という形で負担しなければならない立場に置かれているのかも知れないのです。
因みに2022年6月には、日本国とバーレーンとの間で「日・バーレーン投資協定の署名」も署名されており、金融面での関係強化も図られています。同国は、中東における金融センター化を目指しているともされ、ここにも、どこか、世界経済フォーラムの影が伺えるのです(つづく)。