映画 ご(誤)鑑賞日記

映画は楽し♪ 何をどう見ようと見る人の自由だ! 愛あるご鑑賞日記です。

霧の中の風景(1988年)

2018-11-03 | 【き】



 以下、上記リンクよりストーリーのコピペです。

=====ここから。

 12歳の少女ヴーラ(タニア・パライオログウ)と5歳の弟アレクサンドロス(ミカリス・ゼーケ)は、ドイツにいると聞かされている父に会いに行きたいがため、毎日夜のアテネ駅にやって来るが、列車に乗る勇気はなかった。しかしある日、ついにふたりは列車に飛び乗った。切符がないふたりはデッキで身を寄せて眠る。夢の中でヴーラは父に向けて話しかけるのだった。

 無賃乗車を車掌にみつかったふたりは途中の駅で降ろされ、行き先を尋ねる駅長(ミハリス・ヤナトゥス)に伯父さんに会うのだ、と答える。警官がふたりを連れて伯父(ディミトリス・カンベリディス)の勤める工場を訪ねると、伯父は警官(コスタス・ツァペコス)に、ふたりは私生児で父はいない、と話す。それを立ち聞きしたヴーラはショックをうける。警察署に連れていかれたふたりはそこを逃げ出し、旅を続ける。

 山道でふたりは、旅芸人一座を乗せたバスに乗せてもらい、彼らと行動を共にする。その夜、ふたりはバスの運転手オレステス(ストラトス・ジョルジョグロウ)と、道に落ちていたフィルムの切れはしを拾う。そこには白い霧の中に、見えるか見えないか程度にうっすらと一本の樹が写っていた。

 旅芸人たちと別れたふたりは、雨のハイウェイでヒッチハイクしたトラックに乗せてもらうが、翌朝アレクサンドロスが眠っている間にヴーラは運転手(ヴァシリス・コロヴォス)に犯される。

 次に乗った列車で警官に見つかりそうになったふたりは、逃げこんだ工場でオレステスと再会する。ふたりはオレステスのオートバイで海岸を走り、テサロニキ駅にたどりつく。

 再びオレステスと別れたふたりは、ドイツを目指して歩き始める。北方の駅で、ヴーラは人のよさそうな兵士(イェラシモス・スキアダレシス)を誘い切符代を稼ごうとするが、彼は何もせず金を投げ捨てるようにして去った。

 夜行列車で国境までやってきたが、旅券がないふたりは、川べりで監視の目を盗んでボートに乗る。彼らに向けて放たれる一発の銃声。

 翌朝、霧の中で目覚めたふたりが対岸に降り立つと、ゆっくりと霧がはれ、緑の草原と一本の樹が現われた。ふたりは手を取り合ってその樹に向かって駆け出すのだった。

=====ここまで。

 字幕は池澤夏樹氏。

 
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 アンゲロプロス作品初体験。難解で評価も分かれている様ですが、、、私には非常に印象深い作品でありました。


◆青い鳥はいずこ、、、

 送られてきたDVDには短い特典映像があり、字幕担当の池澤氏が、アンゲロプロスにインタビューしていた。アンゲロプロスは本作について「娘に語って聞かせていたおとぎ話を映像にした」と言っていた。

 まぁ、確かにおとぎ話かも知れぬ。これは、あの『青い鳥』のアンゲロプロス版なのだ。……って、『青い鳥』の戯曲を(恥ずかしながら)読んでいないんですけどね、私。そもそも童話といって良いのか微妙ではあるが、、、。まあ、でも誰でもオハナシは大体知っている。本作を見て、同じことを感じた人はきっと多いと思う。

 この2人の姉弟の父親は、本当にドイツにいるのか? 多分いないでしょう。母親の身近にいる男なんじゃないかと思うけれど、母親は姉弟に「お父さんはドイツにいる」と言っているんだよね。ちなみに、この母親は冒頭にチラリと姿が出てくるだけで顔は映らないので、どんな女性かさっぱり分からない。けれども、彼らの“叔父”という男が、この姉弟のことを「私生児だ」と言っているところから、どんな母親か、おおまかな輪郭を見ている者に想像させる。おそらく姉弟の父親は同じではないだろう。姉ヴーラは「ママのことは好きだけど、パパに会いたい」というようなことを弟に語っているシーンがあるので、別に母親が嫌いで姉弟で逃げ出した、というわけではなさそうだ。

 本作での“青い鳥”は、その未知なる父親だ。子どもは、……というか、人間という生き物は自分のルーツを知りたがるものなのだ。父親がいないのであれば、どんな男なのか知りたいと思うのは、ほとんど本能に近いものなのだろうと思われる。

 しかし、父親に関する具体的な手がかりを何一つ持っていない彼らは、当然、父親に会えるはずもない。彼らが会うのは、行きずりの人たち。

 会いたい人の下にはなかなか辿り着けないが、姉のヴーラは、その行きずりで出会った青年に恋をする。これで、ヴーラにとっては旅の意味合いがかなり変わってくる。父親に会いたいだけの旅ではなくなるのだ。しかも、この恋をしている途中で、ヴーラは別の中年男にレイプされてしまうという、非情な経験をする。しかし、ヴーラは弟とその後も旅を続け、一旦離ればなれになった青年と再び出会う。ヴーラの心の波は激しく上下していたことだろうなぁ、、、。

 この、オッサンにトラックの荷台でレイプされるシーンが、何とも痛い。……というか、恐ろしい。レイプシーンはゼンゼン映っていないのだけど、その間、幌のような幕が下りた荷台のバックをただひたすら写し続けているのです。そして、オッサンがその幕をかき分け出て来て立ち去り、しばらく後に、ヴーラの、ソックスがくるぶしまでおろされた脚が幕の下からのっそりと出てくる。力なく荷台の端に座ったヴーラの脚には真っ赤な血が滴り出て来て、荷台にも広がる。その血をヴーラは指で掬うと、荷台に擦りつける。この一連の描写に、見ている方も凍り付く。


◆ブラック・ファンタジー

 しかも、このレイプの後に青年と再会して、ヴーラの受けた傷が少しは和らいだかと思った矢先に、ヴーラはこの青年にまともに失恋するという、、、、なんでこんないたいけな少女にそこまでの試練を与えるのかね、アンゲロプロスは。

 青年の腕の中で泣きじゃくるヴーラに、青年は「最初は誰でもそうなんだ」と言って彼女の頭を優しく撫でる。あっけなく散ったヴーラの初恋。もしかすると、レイプで受けた傷よりも、この失恋の傷の方が、彼女にとっては痛手だったかも知れない。

 そんなズタボロになったヴーラに、しかし、アンゲロプロスは手を緩めることなく試練を与え続ける。手持ちの金が底をついたヴーラは、何とか電車賃を入手しようと、駅にいた軍人の男に「金をくれ」と直談判する。軍人は、対価を得ようと、物陰に彼女を連れ込むものの、さすがに自分に恥じたのか金だけ置いて立ち去る。これで、見ている者はホッとして一瞬油断するのだが、無事に電車に乗った姉弟に、今度はパスポートを見せなければならないという難題が降りかかるのだ。

 結局、彼らは国境を夜陰に紛れてくぐりぬけると、ボートで川を渡ろうとし、監視に見つかってしまうのである。そこで響く銃声、、、。

 これまでとは打って変わった穏やかな別世界のようなラストシーンの映像から察して、まあ、多分、姉弟はあの銃声により亡くなったと考えるのが妥当なのでしょう。

 ……一体、ヴーラの人生は何だったのか。幼い弟の人生は、、、? 戯曲『青い鳥』のようなオチはなく、もう一つの青い鳥かと思いかけた恋は逃げ去り、最初の青い鳥である父親には、その気配にすら触れられなかった。

 特典映像で、アンゲロプロスは「本作は一貫してファンタジーだ」とも言っていた。確かに、最後まで姉弟には“まだ見ぬ父親の存在”という希望があったから、ファンタジーという括りに偽りはないだろう。それにしても、あんまりにも過酷すぎるブラック・ファンタジーである。


◆空飛ぶ右手

 ところどころ、不思議なシーンが挟まれるのが印象的。

 姉弟が警察署から逃げ出すシーン。雪が降る外にいる人々は動きが止まっている。その中を、人々の間を縫うようにして姉弟は走って逃げていく。その後、姉弟はある広場に行き着くが、そこでは、結婚式を終えたと思われる新郎新婦が建物から出てくるが、新婦の方は何やら泣いている様子。しかも、広場には、どこからか馬が引きずられて来て、姉弟の脇でその馬が置き去りにされる。姉弟がよく見ると、その馬は死んでいる。

 青年と再会した後、岸壁に3人で来たシーン。海の中から何かがヘリコプターによって釣り上げられる。だんだん姿を現したそれは、何と、人差し指の欠けた巨大な人間の右手の形をしたモニュメント。ヘリコプターに釣られたまま持ち去られていくのは、いかにも何かを暗示しているようであるけれど、それが何なのかはさっぱり分からない。

 本作は、極端にセリフが少ない。映像で姉弟の旅がどんどん展開していく。ところどころで、姉弟が父親に宛てた手紙の形をとってナレーションが入るけれども、ヴーラが弟以外の人と会話らしい会話をするシーンは皆無だろう。

 過酷な状況に置かれて、過酷な経験をする子どもの話を描いた映画はたくさんあると思うが、本作は、その中でもかなり悲惨度は高いのではないか。アンゲロプロスの意図が、私には分からなかった。

 けれども、何とも言えず、心に深く印象が残ったのも事実。見てもすぐに忘れてしまう作品の方が多い中、本作は、一度見たら脳裏にこびり付くシーンが多い。それこそが、映画として存在価値がある作品だということでしょう。

 他のアンゲロプロス作品も、ぼちぼち見ていきたいと思いました。



 



本作では、ギリシャの隣はドイツ、、、らしい。




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