昭和生まれの老翁の面白話。第45話 「比叡山延暦寺の宿坊から夜道を一人で下る②」
下山道の周りは手入れの行き届いた杉の高木の森で、幅40cmほどで修験者や山林作業者が頻繁に歩いているような道でそれほど荒れていたり、急坂ではありませんでした。左右に笹が生い茂っていました。その日は満月で雲一つなく。山道を明るく照らしていました。しかし、出発したものの京阪電車の終電に間に合うか気がせき、小走りで下山しました。杉林の間に見える明るい満月は踊るようにどこまでも小生を追いかけてきました。山道が二股に分かれているところがあり、少し思案しましたがやや坂が急に下る右の道を選びました。どんどん下った所は残念ながら河原になっていました。仕方がないので今来た道を上り帰り、二股の所で左の道に行くことにしました。
しばらく行くと粗末な作業小屋がありました。そこを覗くと月光で白々と光る骸骨が2個ありました。ギョッとしてよく見るとそれは山の作業員が置いていったヘルメットでした。それからも小走りで下り、その頃好きだった女の子の名前を大声で「K子ちゃん~」と叫びながら下りました。どんどん下っていくと墓地がありました。その頃はまだ土葬がありました。火の玉のようなものがきれいにピカピカと光っていました。よく見ると磨かれた墓石が月光を反射していたのです。この墓地に着いたことでようやく人里につながる道だと安堵しました。夜中の墓地を見てほっとしたことは初めてでした。どれくらい山中をさまよったかわかりませんが1時間くらいのように思いましたが、下りとは言え標高差682mを1時間で下るのは無理かも。
今週の一花 オトギリソウ
オトギリソウ