はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

きな臭い煙の中で

2009-08-07 22:33:19 | 女の気持ち/男の気持ち
 夫の父は85歳になる。2年前に母が亡くなってからは、隣に住む弟夫婦が世話をしてくれている。母を亡くしてしばらくは、自分の体調の悪さもあって父はすっかり気弱になり、弟のお嫁さんにすがるようにして暮らしていた。それが1年たち、2年がたとうとしているこのごろ、以前の頑迷なじいさんが完全復活してしまったという。
 穏やかだった母が生前「私も時には爆発して、父さんに食ってかかるのよ。すると2、3日はおとなしい」と言っていた。弟のお嫁さんも「お母さんはよく辛抱していらっしゃる」と漏らしていたので、父の頑迷ぶりは想像できた。離れて暮らしている私が目の当たりにすることはなかったが。
 弟のお嫁さんは献身的に父の世話をしてくれている。私たちはいつも頭の下がる思いでいた。なのに父ときたら。
 「小さいことまでガミガミ。そしてその□の悪さときたら。ついに私も堪忍袋の緒が切れて、もう少し言いようもあるでしょうと食ってかかりました」と、弟のお嫁さんから途方に暮れた声で電話があったのだ。
 今さら変えられない父の性格。「父には最小限のことだけしてやればいいよ」と言っても、そうはできないお嫁さんの立場。きな臭い煙の立ちこめる中で、彼女は立ち往生している。それでも弟夫婦に頼るしかない頼りにならない兄たちなのです。

   鹿児島県出水市 清水 昌子・56歳 2009/8/7 の気持ち掲載


人見知り

2009-08-06 17:54:45 | はがき随筆
 孫が8ヵ月に入ると人見知りを始め母親以外、人を寄せ付けなくなった。発達の過程とはいえ、可愛さ余って何とやらの気分にさえなった。
 この孫が9ヵ月に入るや、月にI回しか会わない私らの顔も覚え、人見知りは終わった。日増しに可愛くなる。顔の表情、仕草など、枕草子の「うつくしきもの」の通り。今も昔も変わらず可愛いのは赤ちゃんだ。
 そういえば、あの国はかつての孫だ。ミサイルや核で某国だけの気を引こうと懸命だ。これでは他国に疎んじられるだけだ。あの国には「発達」という文字はないのだろうか。
  肝付町 吉井三男(67)2009/8/6 毎日新聞鹿児島版掲載

少年

2009-08-06 17:47:05 | はがき随筆
 球磨川は友釣りの好漁場。人吉市内から下流に?㌔。正確な場所はヒ・ミ・ツ。
 先着の少年に、私たち4人の目がくぎ付け。おとりアユのさお使い。掛けたアユを空中に飛ばし「たも」でのナイスキャッチ。流れるような一連の動作は、釣り吉三平が乗り移ったかのようだ。さおも道具も安物だが、腕は超一級である。
 照れる少年は「ぼくがセレブになるもならぬも、アユ次第たい。趣味のおじさんたち、ほどほどにしなっせ」。
 私の釣果は、彼に完敗。球磨川はアユも大きく育てるが、末頼もしい少年を育てたものだ。
  出水市 道田道範(60) 2009/8/5 毎日新聞鹿児島版掲載

無になる日

2009-08-06 17:44:16 | はがき随筆
 母がデイサービスで出かける木曜日は、私の日。
 <脂肪買います>と書かれたビラが揺れているS薬局で、体重チェックや血圧測定のあと、栄養指導を受ける。
 次はエステとしゃれる。30分ほど横になり、目を閉じて無の世界へ入る。蒸気を当てて、マッサージをしてもらうと、心の汚れまでなくなるようだ。
 「お肌が生き生きとなってきましたね」
 褒められてうれしくなった。世の中が明るく見える。
 「可愛くなったでしょう」
 「うふふ…」
 息子が、優しい顔で笑った。
  阿久根市 別枝由井(67) 2009/8/4 毎日新聞鹿児島版掲載

友の慶事

2009-08-06 17:41:05 | はがき随筆
 コミックエッセー「日本人の知らない日本語」が売れているようだ。著者の日本人学校の先生、海野凪子さんのお父さんは同級生のSさんだ。発売と同時にご恵贈いただき分かった。
 彼とのご縁は私の母にかかわる。彼は非常に苦労した人で、私たちが高校に通うころ、O家の田んぼにはいつくばって草取りをしていたという。炎天下、へとへとになって働く彼へ、母がお茶を差し入れたことがあったという。ありがたかった、今でも忘れられないと先年、母を見舞ってくださった。
 面白く楽しい本を出版された凪子さんと父親Sさんに祝杯!
  霧島市 秋峯いくよ(69) 2009/8/3 毎日新聞鹿児島版掲載


スイレン

2009-08-06 17:36:45 | はがき随筆
 今朝「スイレンが咲いている」と夫が叫んだ。庭に出てみると、つややかな葉の間から純白の花が一輪浮かんでいた。「初めて咲いたね」。私は鉢のそばにたたずんだ。
 今は亡き父が健在のころ、帰省した折に株をもらい、不用になった大きな火鉢に植えた。
 毎年水面に浮かぶ葉は清涼感を誘うが花が咲かない。尋ねて手入れしなければと思いつつ10年。水中から出た花の美しさに立ち去りがたく、見入ってしまう。「お父さん、花咲いたよ。とってもきれい」とつい声が出た。「おお、咲いたか」。優しい声が返ってきたようだった。
  出水市 年神貞子(73) 2009/8/2 毎日新聞鹿児島版掲載
写真はオフイスeyeさん

Aさんの後日談

2009-08-06 17:23:21 | はがき随筆
 妻のこしらえた弁当を愛情弁当と随筆に書いてくれたが、これには「後の話が…」と夫のAさんは話を切り出した。
 掲載翌日、妻は突然実家へ。それはいつになく唐突な行動。右手小脇に抱えるバッグに新聞が入っているのをかいま見た。
 妻は随筆に書いてあった「小さな弁当箱にこぼれる愛情」のくだりがうれしかったのであろう。きっと母親へ掲載の喜びを伝えに行くに違いないと話す。
 その話を聞き、投稿した私はとてもうれしくなった。
 奥さんと母親の会話に思いを巡らせ、Aさんをのぞき込むと目をまばたかせ笑顔をくれた。
  鹿児島市 鵜家育男(64) 2009/8/1 毎日新聞鹿児島版掲載

純愛物語

2009-08-06 17:16:23 | はがき随筆
 乳がんをもつ千恵と太郎との純愛物語。千恵は病気のこと、愛する太郎のことなど一人で悩みながらも愛の日々が続く。ある日千恵は思い余り姿を消す。太郎は千恵を屋久島まで追い「一緒に頑張ろう」と固く抱きしめる。その誠に動かされ、千恵は太郎と永遠に生きることを心に誓う。幸せな二人となった。悪化するガンを治ると信じる知恵は明るく治療に励む。太郎は泊まり込み、ほほを寄せ献身的な愛の看護もかなわず旅立ちの夜、太郎は胸に埋めた顔を離さなかった。治ると信ずる千恵のビデオに一人号泣する太郎!! 感極まり涙する我であった。
  鹿屋市 森園愛吉(88) 2009/7/31 毎日新聞鹿児島版掲載

イシマンエン

2009-08-06 17:12:33 | はがき随筆
 我が家の名犬遼太郎は穴掘りが特技。埋め戻すが、いたちごっこには違いない。どういう訳か土が不足し雨水がたまる。仕方なく散歩の途中、石を拾い、それで埋めることに思い至り、欠かさず実行している。
 しかし事半ばにも至らないある朝、久しぶりにAさんに会う。両手の石を不思議そうに見つめ「漬け物ですか」。
 「庭に積み上げて眺めるんです。1個1万円と思うと楽しみになります。既に100万円を超えました」「石万円? いいですね。若いころ出会った女性の名前を書いて並べてみようかな」。Aさんにはかなわない。
  志布志市 若宮庸成(69) 2009/7/30 毎日新聞鹿児島版掲載