はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

「平和」ノート

2009-08-15 20:19:05 | 女の気持ち/男の気持ち
 「平和」と背表紙のついたスクラップ帳を整理している。記事の切り抜きも随分たまった。知られざる平和運動家、街の語り部……その□から語られる「平和」という言葉をすんなり受け取ることができる人々の体験談やエピソ-ド、そして彼らの訃報で構成している。
 整理しながら思い出したことがある。麻生、小泉という2人の政治家だ。前者は核兵器廃絶をめぐるテレビの討論会の折、被爆者の男性が戦時中の軍国主義について語ると「兵隊さんは国を守り、大切な家族を救うために戦ったのであって、あなたのために戦ったのではない」と言い放った。後者も広島・長崎の平和団体から意見を聴くことは少なかったと思う。その人が最近ロシアへ行き、核兵器廃絶を訴えていた。いずれも齢80前後の方々の体験を正しく理解できていないと思う。
 もうすぐ選挙カーが騒々しく名前や政党、公約を叫んで走り始め、「平和」はまた置き去りにされる。
 私のように「平和」という言葉をうかつに□にすると、せせら笑いをされるか浮世離れしたアホと言われるのが落ちだ。しかしスクラップ帳の中の皆様は余分な金銭も持たず、少し余裕が持てたと感じられても使う余命が限られている。すでに鬼籍に入られた方も多い。
 「平和」のスクラップ帳を整理するたび、私は冊子の中の皆様に語りかけている。
  山□県宇部市 大石 文女・55歳
2009/8/15 の気持ち掲載



梅仕事

2009-08-15 19:49:42 | はがき随筆
 今年の梅仕事がまだ終わっていない。この雨模様のお天気のせいだ。そう「梅雨明け十日」とか「土用干し」とか聞かされ長年それをやってきたのに。
 それというのは、赤い紫蘇と交互に漬かっている梅を日に干すこと。真っ赤に染まった梅を一粒一粒バラに広げ、裏表を返し、よく乾いたらびんに詰めること。三日三晩、土用のかんかん照りは梅干しの仕上げにはなくてはならない天候なのに。
 ヤレヤレ、こんなお天気が続くと、梅仕事の仕上げはいつになるやら?
梅干して母の姿のありありと
 去年の駄句である。
  姶良町 高橋たま(74) 2009/8/15 毎日新聞鹿児島版掲載
画像はにやきぶさん

愛娘

2009-08-15 19:34:37 | はがき随筆
 天からの贈り物の愛娘。夫と私にでき愛され天真らんまんに育ったひかりは満5歳。まだ縫いぐるみを空高く放り投げ愉快に遊ぶシーズー犬。しかしこの春、すっかり心根の優しい大人に成長していた。
 5月、私は夫の留守中、茶の聞で倒れた。いなやひかりはおえつともとれる声をあげ、私の顔中をひたすらなめ続けた。激痛のために頭と指1本さえ動かせない私の側を片時も離れず、私を励ましたのだった。
 2時間後、帰宅した夫に駆け寄り、お母さんが大変だよと悲痛な目で訴えたそうだ。愛娘よ、我が家に光をありがとう。
  鹿屋市 田中京子(58) 2009/8/14 毎日新聞鹿児島版掲載

孫の高校総体

2009-08-15 19:29:12 | はがき随筆
 「また勇真のことを書くの」「そうだよ。今度まではどうしても書きたい。そして、これまでの彼の努力をたたえるじいの気持ちを伝えたい」「言葉で伝えたら」「いや、活字にしておきたい」。小学4年の時からテニスに打ち込み約9年間。高校3年生にしてようやくつかんだ全国高校総体への参加である。
 全国の高校生が奈良市陸上競技場に集って行われた開会行事のその中に、彼もいる。忘れられない青春の最高の思い出の一コマを今つくっている。ここに来るまでの道程は平坦ではなかったはず。彼の努力をたたえ、指導者の方々に感謝したい。
  志布志市 一木法明(73) 2009/8/13

菜園大好き

2009-08-15 19:23:11 | はがき随筆
 夫は高校英語教育を70歳までやり、今年の4月から自由で、毎日、野菜畑に出て色が黒くなるまで働きます。
 トマトやナスビ、キュウリなど作り、母の入所先や、友達に新鮮なものをどんどんあげています。もちろん自宅にも食べつくせないくらい持ってくる。
 台所にどんと置いてあると、その多さに驚き、さて今度はどんな料理をしようかと思案する。若いころのように食欲はないけど、そこに材料があるとエ夫が必要。健康のため畑仕事は良いし、無理して食べるのも良いと考えながら、心の底で笑っ
てしまう私です。太陽に感謝。
  肝付町 鳥取部京子(69) 2009/8/12 毎日新聞鹿児島版掲載

かすがいはアリ

2009-08-15 19:13:21 | はがき随筆
 毎年、今の時節になるとアリが断りもなく住みつく。ちょっとでも食べ物があるとワッと集まって黒い塊のようになる。薬をまいたり食べ物を置かないように努力しても、またいつの間にか入ってくる。
 夫も私もアリにかまれた。かゆくて腹が立つ。本気になって退治しようと躍起になる。「ひょっとしてアリはここを自分の家と勘違いして『出ていけ』とかむのかな」と言うと「アリの家を建てて甘いお菓子をおけば引っ越していくかも」と夫。
 このごろ、とがった会話ばかりになった老夫婦が久しぶりに童心に返りまるい会話をした。
  鹿児島市 馬渡浩子(61) 2009/8/11 毎日新聞鹿児島版掲載