はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

万華鏡 

2008-10-22 23:34:43 | アカショウビンのつぶやき
 万華鏡(カレイドスコープ)の魅力は、何と言ってもキラキラ輝く神秘的な世界。然しなぜか子供のおもちゃとして、玩具売り場などに置かれていることが多い。でも一度覗いたら想像以上の美しさに誰でも魅了されるのではなかろうか。

 たまたま東京の庭園美術館の売店で目に止まった万華鏡、躊躇いながらそっと覗いてみた。すると何の変哲もない部屋の景色が一瞬にしてお花畑になり、くるくる回すと様々に変化する…息をのむ美しさだった。今日は皺だらけの我が手を覗いてみた…、おおっ、すごーい! しわしわの手がベージュ色の花びらになっているではないか。

 万華鏡は種類も多く、色や形の違うビーズを中に入れた<チェンバー>や、目の前にある物を写し取って美しい世界を作りだす<テレイドスコープ>などがある。友人に頂いたミニミニ万華鏡は僅か数㌢。回す度に4色のビーズがくっついたり離れたりしてさまざまな映像をつくる。

 万華鏡の起源は約200年前、スコットランド人のデイビッド・ブリュ―スターという物理学者が偏光の実験中に発明、その僅か3年後には珍品として日本に入ってきたという。明治の頃は、百色眼鏡(ひゃくしょくめがね)とか、万華鏡(ばんかきょう)と呼ばれ、子供の玩具や郷土玩具として急速に広まって行った。

 最近は万華鏡の持つ癒し効果が見直され、ホスピスでは痛みの緩和などにも効果を発揮しているという。安らぎの時を与えてくれる万華鏡、今日もあちこち覗きながら幸せを感じているアカショウビンです。

北野万華鏡ミュージアムより引用


はがき随筆9月度入選

2008-10-22 23:27:13 | 受賞作品
 はがき随筆9月度の入選作品が決まりました。
▽出水市緑町、道田道範さん(59)の「川柳闘争」(7日)
▽肝付町前田、吉井三男さん(66)の「命を絶つ」(14日)
▽鹿児島市唐湊2、東郷久子さん(74)の「あらっ不思議」(5日)
──の3点です。
 このところ「随筆」の素材を自分から探そうとなさる態度がうかがわれます。文章の素材は、自然に向こうからやってくることはあまりありません。知性と感性の積極的な働きかけが必要です。表現してやるぞという姿勢だと、素材も表現してもらいにやってきます。
 道田さんの「川柳闘争」は、近所の子どもにザリガニ捕りを教えたら、白い靴を汚してしまった。母親が怒らないように川柳を送ったら、結局16句ものやりとりになってしまったという、心温まるエピソードです。言葉遊びはなによりのコミュニケーションです。
 吉井さんの「命を絶つ」は、片づけた残りの、鉄線に絡みついたままで枯れている朝顔のつるを見ていたら、アフガニスタンで犠牲になった「若き伊藤さん」を思い浮かべたという内容です。運命の「理不尽」さも唐突に襲ってきますが、それに対する私たちの認識もこのように唐突なものです。
 東郷さんの「あらっ不思議」は、お隣の工事のせいでアリの大群に自宅が襲われたが、ある日アリが一匹もいなくなったという「不思議」が描かれています。本当に自然現象は私たちの理解を越えて起こるもののようです。
 次に印象に残ったものをあげます。
 森孝子さん「夕方の始まり」(12日)は、夕方がいつ始まるかは難しい疑問ですが、「ユウスゲ」が2年目に、夕方5時20分に咲いた。それをもって、さて夕方の始まりだとする感性はすてきだと思います。新屋昌興さん「空港にて」(3日)は、孫の見送りをしていたら、操縦席からパイロットが手を振ってくれていた。それを見たら安心と感動とを覚えたというものです。他人の態度を素直に善意に受け取ることはいいものですね。田中京子さん「夏の思い出」(2日)は、還暦近くなって懐旧の念が強くなったという「回帰現象」についての内容です。還暦は60進法の暦を一に戻すということで、必ずしも過去に戻るということではありません。新しいスタートです。
(日本近代文学会評議員、鹿児島大名誉教授・石田忠彦)


消えた百円

2008-10-22 23:02:33 | はがき随筆
 「あっ、それ私のです」
 その一言が言えなかった小3の暑い夏の日。
 結核を病み家で療養していた父は、何かと用事を言いつけた。精米所に裸麦を持っていき、押し麦にしてもらうようにと10㌔入りの袋と百円札を手渡された。やせて小さい体に10㌔は重くて、途中で一休みした。
 前かがみになり腰を下ろした時、ワンピースの三角形の胸ポケットから百円札が抜け落ちた。拾わなければと見ているうちに、4年の担任の先生が通りかかり、さっと拾ってポケットに入れて行ってしまった。
 極貧時代の、苦い思い出。
   薩摩川内市 森 孝子(66) 2008/10/22 毎日新聞鹿児島版掲載