はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

あなたの花

2008-10-09 15:39:51 | アカショウビンのつぶやき





 「お母さん、キンモクセイが咲いてるぞ、気がついたか」。「ほんとう? あら、いつの間にぃ…」。これが毎年くり返される2人の会話。嗅覚に特に異常があるわけでもないのに、夫に言われるまで、あの大好きな香りに気づかない鈍感な私。いつも教えてくれた夫が居ない今は、花が散り始める頃やっと気づく。「相変わらずの蛍光灯だなー」と夫は笑っているんだろうなあ。

 今年は義母が旅立って10年。告別式が終わって帰ってきた黄昏時、庭全体が黄色の絨毯になり本当に美しかっ光景を思い出す。その日から義母の花は「キンモクセイ」になった。
 軽い認知症気味の義母との生活はいろいろあった。昔の記憶は鮮明に残っているので、私はとっくに亡くなったお母さんやお姉さんになりきって、母の話に合わせて演技した。ところが話の途中で急に現実に戻った義母に「あなたは○○子さんでしょ」と怪訝な顔をされ、慌てたこともあったなあ。

 一方、夫の花は「ピンクの萩」。12年前、夫のメモリアルツアーでスイスに行ったとき、長旅の疲れと寂しさで重い足を引きずりながらたどり着いた我が家、門を開けると満開の萩が出迎えてくれた。思わず頬ずりしたくなるように、いとおしかった。そして夫の花になった。

 山男の最期の願いは、「俺の骨はスイスのグリンジゼーに葬ってくれ」だった。家族で初めて訪れたスイスは本当に美しい国だった。夫が短い期間に2回も旅した気持ちがその時やっと理解できた。逆さマッターホルンが湖面に映る小さな湖の畔に彼は眠る。そしてこの旅が彼の最後のプレゼントだったように思う。

 実は彼の思い出の花はもう一つある。最期の枕べを飾った「白紫陽花」。うっとうしい梅雨の時季は、爽やかな「白紫陽花」、そして秋は真っ青な空に映える「ピンクの萩」。
 「両方ともあなたにふさわしいよ! 来年はあなたの萩をもっと元気に咲かせるからね」。

事務処理

2008-10-09 15:28:41 | かごんま便り
 鹿児島支局が現在地に移って間もなく1年8カ月。それまでは昭和初期の開設から80年近く、鹿児島市小川町にあった。
新聞社の出先という性格上、連日たくさんの郵便物類が届くが、長年の「毎日=小川町」のイメージからか旧住所あての物も少なくない。郵便局や宅急便業者が転送してくれるので助かっているが、その都度、先方には所在地が変わったことを文書(主にファクス)でお知らせするようにしている。
 時折、住所変更を通知したはずのところから再度、旧住所あてに送ってくる。送り主を見ると国の出先や自治体、公民館、学校……。なぜか「官」ばかりだ。再びファクスを送るが、2度目は注意喚起のために「●月●日にもお知らせしましたが……」とあえて断り書きを添えるようにした。
 それでも先日来「3度目」が頻発している。新旧両方のあて先に同じ資料を送ってきた例もあった。さすがに今度はファクス一枚という訳にはいかず、電話で経緯を説明したうえで“事情聴取”した。多くはうっかりミスらしいが、理由が分からずじまいのケースも多々。中にはパソコンの住所録を修正した後に「以前のあて先シールが余っていたから」と上書きもせずそのまま使っていたあきれた役場もあった。
 こういう話を耳にすると普段の仕事ぶりが心配になる。年金記録問題のずさんな事務処理をつい連想してしまう。もう少ししっかりしてほしい!
  ◇   ◇
 1日付の異動で、昨年5月から紙面づくりを統括してきた加藤学デスクが山口支局に転出しました。後任は選挙取材のベテラン、神崎真一・前県政キャップです。新たに福岡から若手の村尾哲(あきら)記者も着任しました。政局の行方はいまだ不透明ですが解散・総選挙の「Xデー」をにらみつつ記者一同、新たな気持ちで取材・執筆に励みます。引き続きご愛読ください。

鹿児島支局長 平山千里 2008/10/6 毎日新聞掲載

命日

2008-10-09 15:09:13 | はがき随筆

 やつはもういない。やつとは雄猫のシュピのこと。
 5月23日、小雨の朝。夜歩きから帰ってきたので猫缶を開けてやる。半分食べたところで水を飲み、また出掛けようとする。いったいどこへと何となく見ていると、30㍍ぐらい先の角で立ち止まり、これらを振り向いた。それっきり、どうなったのか。あの時、もうこれでサヨナラのつもりだったんだね。子猫の時から10年あまり。愛らしいお前と暮らして楽しかったよ。でもでもとても寂しいヨ-。
 せめて大好きだった食べ残しの食事を埋めて、線香をたき命日とした。
   指宿市 宮田律子(74) 2008/10/9 毎日新聞鹿児島版掲載
写真は悠雅さんより