はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

はがき随筆9月度入選

2008-10-22 23:27:13 | 受賞作品
 はがき随筆9月度の入選作品が決まりました。
▽出水市緑町、道田道範さん(59)の「川柳闘争」(7日)
▽肝付町前田、吉井三男さん(66)の「命を絶つ」(14日)
▽鹿児島市唐湊2、東郷久子さん(74)の「あらっ不思議」(5日)
──の3点です。
 このところ「随筆」の素材を自分から探そうとなさる態度がうかがわれます。文章の素材は、自然に向こうからやってくることはあまりありません。知性と感性の積極的な働きかけが必要です。表現してやるぞという姿勢だと、素材も表現してもらいにやってきます。
 道田さんの「川柳闘争」は、近所の子どもにザリガニ捕りを教えたら、白い靴を汚してしまった。母親が怒らないように川柳を送ったら、結局16句ものやりとりになってしまったという、心温まるエピソードです。言葉遊びはなによりのコミュニケーションです。
 吉井さんの「命を絶つ」は、片づけた残りの、鉄線に絡みついたままで枯れている朝顔のつるを見ていたら、アフガニスタンで犠牲になった「若き伊藤さん」を思い浮かべたという内容です。運命の「理不尽」さも唐突に襲ってきますが、それに対する私たちの認識もこのように唐突なものです。
 東郷さんの「あらっ不思議」は、お隣の工事のせいでアリの大群に自宅が襲われたが、ある日アリが一匹もいなくなったという「不思議」が描かれています。本当に自然現象は私たちの理解を越えて起こるもののようです。
 次に印象に残ったものをあげます。
 森孝子さん「夕方の始まり」(12日)は、夕方がいつ始まるかは難しい疑問ですが、「ユウスゲ」が2年目に、夕方5時20分に咲いた。それをもって、さて夕方の始まりだとする感性はすてきだと思います。新屋昌興さん「空港にて」(3日)は、孫の見送りをしていたら、操縦席からパイロットが手を振ってくれていた。それを見たら安心と感動とを覚えたというものです。他人の態度を素直に善意に受け取ることはいいものですね。田中京子さん「夏の思い出」(2日)は、還暦近くなって懐旧の念が強くなったという「回帰現象」についての内容です。還暦は60進法の暦を一に戻すということで、必ずしも過去に戻るということではありません。新しいスタートです。
(日本近代文学会評議員、鹿児島大名誉教授・石田忠彦)


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