女らの囃す声ごゑ黄水仙 ひよどり 一平
(おんなのはやす声ごゑきすいせん)
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男だからという理由だけで、私は中学生時代から柔道を始めた。
友人と一緒に自転車に乗って、隣町の柔道場へ通った。
ひ弱な友人は、丈夫な身体を作りたいという彼の母親の強い気持ちがあったが、私は、「お前は男なんだから・・・」という父親の言葉に従ったのだ。
高校生になったとたん、友人は柔道をやめた。しかし私は柔道部に入り、それなりに努力した。しかし、正選手にはなれなかった。誰かが休んだような折、「おい、お前」と言われて対外試合に出る程度の実力だった。
稽古の前、校外のランニングがあった。汗臭い柔道着を着た10人余りの高校生が、声を上げながら走った。女子高校の前では、一段と大声になった。
女子高生たちは、ほとんど見てくれなかった。それでも時折は、2階、3階あたりの教室の窓から、「頑張って~」という幾人かの嬌声が上がった。私たちはそれだけで満足だった。純情な高校生だった。
大学に入っても、柔道は止めなかった。惰性のようなものだった。
今になって、柔道をやっていてよかったと思っている。特段の理由はない。