春にはまだ早い日、臘梅が咲きはじめる。
枯葉が散りきっていない枝に、蝋に似た硬質な感じの小さな花が咲く。
一帯には、芳しい香りがふわーっと漂い流れる。忘れがたい香りだ。
その香りが、遠い日のぼんやりとした記憶を、ほんのり呼び覚ましてくれた。
若かった日のちょっぴり塩の利いた思い出だ。
あっ、そう言えば、あの日田舎の駅のホームで、小さなロウバイが咲いていたっけ。
臘梅や去りにし人を思ひたる 鵯 一平
甘っちょろいですねえ。
ガン細胞を身体中に住まわせている老青年には、相応しくないとお思いでしょうか?
私も少しばかり照れくさい。
しかし、病気に怯えているのも真情ですし、党首討論に怒っているのも真情。
過ぎ去った日の塩味を感じているのもまた、一つの真情なのですよ。
もっとも、ボケると幼児還りをすると言いますから、そちらの症状かも知れませんね。
もうこうなったら恥の掻きついでです。55年ほど前の高校生時代(私にもあったのですよ、念のため)、ノートに書き留めて諳んじていた詩を書きます。
島崎藤村の詩、「初恋」です。
(一) 略
(二) やさしく白き手をのべて
林檎をわれにあたへしは
薄紅(うすくれなゐ)の秋の実に
人こひそめしはじめなり
(三) 略
(四) 林檎畠の樹(こ)の下に
おのずからなる細道は
誰(た)がふみそめしかたみぞと
問ひたまふこそこひしけれ
孫に会うため、カミさんと二人、いそいそと出かけます。
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