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「野菜を食べろ運動しろ」言説を理論的に裏付ける

2016-02-12 10:19:53 | 読書ノート
ダニエル・E.リーバーマン『人体600万年史:科学が明かす進化・健康・疾病』塩原通緒訳, 早川書房, 2015.

  進化生物学的観点から人体について考察する一般書籍。著者はハーバード大学の人間進化生物学部の教授で、裸足で走ることの効用についての研究業績がある。原書はThe Story of the Human Body: Evolution, Health, and Disease (Pantheon, 2013)。邦訳は訳文がこなれていてとても読みやすい。

  全体は三部構成になっている。第一部では、果実や根菜類を探しまわるために暑いサバンナを長距離移動できる生活に初期人類が適応した結果、現在のような人体構造となったと語られる。特に脳の維持に多大なエネルギーが必要なため、食べ物が見つからない時期でも脳が機能するよう脂肪を蓄積するようになったのだという。第二部になると、農業によって可能となった生活様式と狩猟採集生活に適応した人体とのミスマッチが語られる。農業は食事の内容を偏らせ、集住の帰結としての汚物による飲料汚染、家畜からの伝染病、また天候不良などによる飢饉などをもたらしたと低評価である。歴史的に農業化が進むにつれて平均身長も低くなり、すなわち栄養状態も悪くなっていたと推測されている。

  第三部は現代生活と人体のミスマッチの話。はやい話が、体に負荷をかけない生活と消化の容易な高カロリー食品が、肥満および糖尿病、骨粗鬆症などの先進国特有の病気を生み出しているという。こうした病気は、現代的都市生活の結果ではあるが、陥るのは一部の人だけであって進化の必然ではないという。というわけで、もっと政治的に予防措置を張るべきだと著者はアドバイスする。でもどうやって?リバタリアン・パターナリズムすなわち選択アーキテクチャ(参考)によってである。具体的には、甘いものに税金をかける、大学までの各教育段階で体育の授業を義務化する、などの方法が提案されているが、この部分は本筋ではないところだ。

  個人的には最近になって腰痛を患ったために、役に立つ話が無いかどうか探しながら真剣に読んだ。結論は「椅子に座って仕事するスタイルが悪い、運動しろ」ということのようだ。自転車通勤しているのでそれなりに運動しているつもりなのだが、やはり自転車はサバンナでの生活とは無縁の近代の工業製品であり、腰痛の予防方法としては不十分なのだろう。裸足で走って通勤するか。するかあ?
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