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ビジネスに関する神話を暴いてまっとうな常識に戻す

2013-05-22 00:04:44 | 読書ノート
フリーク・ヴァーミューレン『ヤバい経営学:世界のビジネスで行われている不都合な真実』本木隆一郎, 山形佳史訳, 東洋経済新報, 2013.

  経営の常識や神話を経営学の成果をもとに検証するという内容。基本的につっこみが主で、タイプとしては『ヤバい経済学』(参考)より『反社会学講座』(参考)の方に近い。原著は"Business Exposed"(2010)、著者はオランダ人学者でロンドン・ビジネススクール准教授とのこと。

  トピックは次のようなものである。7~8割のM&Aは失敗するが、経営者の思い込みによって進められてしまいがち。経営者は他社のやっていることをまねしたがる。ストックオプションは経営者を冒険的にするため経営リスクを高める。リストラは、有能な人材の流失と残った人員の士気低下を招くので失敗する。TQMとかISO9000だとかはコストがかかるだけで大した効果は無く、場合によってはビジネス上の発見や革新の目を摘むこともある。給与格差が大きいと業績が悪くなる。などなど。

  データに基づいた話ばかりかと言えばそうではない。著者の直観にもとづく主張もある。例えば、成功にとって重要なのは会社が蓄積した暗黙知であり、他の会社に応用できるようなものではないとか、コンサルタントには気をつけろとか。これらに関しては正しいと思える。だが最後に出てくる、会社は株主のものではない、という話はどうだろうか。俗情にはアピールするかもしれないが、株式会社がこれほど栄え、他の所有形態が特に成功しているとは言えないことを考えると説明不十分だろう。

  確かに面白いけれども、目から鱗の連続というものでもない。どちらかと言うと、これまでマスメディアで賞賛されてきた「先進的」なビジネス手法の胡散臭さを暴き、かわって常識的で穏当な経営論を称揚するという内容である。メディアに取り上げられる成功譚と実証的な経営学の乖離の方を強く感じる。「成功」の予測に学問は使えないということなんだろう。

  
コメント
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