「在来工法」はなぜ生まれたか-3・・・・足元まわりの考え方:基礎

2007-02-09 01:46:27 | 《在来工法》その呼称の謂れ

建物はかならず地面の上に立つ。先ず、そのあたりから調べてみよう。
 
木造軸組工法の足元まわりについて、建築法令では建築基準法施行令第38条で「基礎」について、第42条で「土台と基礎」について規定している。
特に、「基礎」については、2000年の法令の変更で、地耐力別に基礎の仕様が規定された(同時に出された「告示第1347号」が細かく仕様を規定している)。

   註 基礎について、設計者は何をすればよいのか、と考えてしまうほど
      規定が細かい。

木造建築についての基礎の推奨例が図の2段目の「布基礎」「ベタ基礎」である。
法令による「ベタ基礎」の推奨・規定化は今回の変更からのはずである。

従来「布基礎」が推奨されてきたため、現在では、木造建物には「布基礎」を設けるものだという《常識》が一般の人の間にも広まっている。

さらに、これも従来と基本は変わらないが、施行令第42条は、原則として(註1)、最下階の柱の下には「土台」を設け、「土台」は基礎に緊結しなければならない(註2)、としている。

   註1 平屋建てで「足固め」使用の場合、柱を基礎に直接緊結した場合は、
      「土台」を設けなくてもよい。
      「足固め」については、次回に触れる予定。
   註2 軟弱地盤でない敷地で、延べ面積50㎡以下の平屋建ての建物では、
      「土台」を基礎に緊結しなくてもよい。
 
上掲の図で明らかなように、法令の規定する軸組工法では、「布基礎」、「ベタ基礎」にかかわらず、「立上がり」をかならず設け(寸法も推奨値がある)、その「立上がり」上に「土台」を設置することを指示している。

では、「布基礎」の目的は何か。また、なぜ「立上がり」を設け、その上に「土台」を置くようになったのか。
 

明治以降、幕藩体制の崩壊とともに、職を求める人びと(多くは旧武士階級)が都会に集中するようになる。しかし、すでに、居住地向きの土地は都会には少なく、それまであまり人の住まなかった低湿地にも居住地が進出するようになる。しかも、とりあえずの居住が目的であるため、建屋も、いわば応急的な建設が多数を占めた。
そのような状況下で起きた地震(1891年の濃尾地震、1923年の関東大地震など)は、それらの建物に大きな被害を与えた。その一つが、低湿地に建つ建物の「不同沈下」による被害であった。
  
   註 都会の建物に影響があったのは関東大震災であり、
     「建築学者」を最初に驚愕させたのが濃尾地震である。
      この「驚愕の様相と結果」については次回以降説明。

この不同沈下を防ぐために「建築学者」により提案されたのが、「基礎の強化」のための「布基礎」で、現在のようなコンクリート製の「立上がり」をもった「布基礎」が現れるのは、おそらく、コンクリートが普及し始めた関東大地震後ではなかろうか(明治の一般的な矩計図には布基礎はない:次回)。
それまでにも、土台下に「布石」を敷く方法はあったが、石では全体が一体にはならないため、一体成型できるコンクリートが奨められたのである(その基本は、コンクリートの「地中梁」と言ってよい)。

しかし、なぜ、「立上がり」を設けるのか。鉄骨造やRCのように、地中設置の地中梁ではだめなのか。

多分、この「立上がり」は、「土台」を地面から離すことが目的であったと考えられる。「土台」が地面に近いと、腐朽の機会が多くなると考えられたのではなかろうか。

たしかに、地面に近い「土台」は、雨もかかりやすい。
しかし、それだけで腐朽することはない。腐朽菌の繁殖がなければ木材の腐朽は起きないのである。
腐朽は、常に木部に適度な水分と空気:酸素が供給される場面で生じ、普段乾燥状態が維持されていれば、ときおり雨がかかる程度では腐朽は起きない。現に、地面すれすれに置かれた「土台」でも、腐朽しない事例は多数ある。

   註 常に湿潤、あるいは水中にある場合は、酸素の供給が少ないため
      腐朽は起きない。だから、古代の掘立建物の柱脚が残存発見される。

おそらく、この腐朽という現象の詳細な考察抜きで、「立上がり」を設けることが《常識》になってしまったと考えられる。 

ところが、「立上がり」を設けた「布基礎」は、予想外の問題を引き起こした。
すなわち、「土台」面より下が「布基礎の立上がり」で閉鎖され、床下空気が淀んでしまい、床下に位置する木部(土台や柱下部、床束柱など)に腐朽や蟻害、虫害が頻発するようになったのである(木部の腐朽を引き起こす最適な条件がそろってしまったのだ)。

そこで提案されたのが、「布基礎の立上がり」部への「換気口」の設置である。
後に、防火構造や大壁仕様の増加にともない木部の腐朽(蟻害)はさらに起きやすくなり、現在では、布基礎の換気口の設置とともに、防腐・防蟻措置:防腐・防蟻剤の塗布や散布:が法令で指定されている(施行令第49条)。

けれども、「換気口」が満足に機能しないこと、防腐・防蟻剤の塗布、散布がいわば気休めであり、根本的な解決策でないことは、多くの設計者・施工者にとって周知の事実である(防腐・防蟻剤の効能は永遠ではない。しかし、隠蔽された箇所への再度の塗布は不可能である)。

つまり、法令で規定しなければならないほどの問題:木部の腐朽や虫害の多発は、「布基礎」(の「立上がり」)で床下を閉鎖し、床下の木部を外気から遮断したこと、すなわち「布基礎」方式自体に起因している、と考えてよい。

建物の不同沈下ならば、「立上がり」のない普通の地中梁方式でも防ぐことができたはずであり、各柱ごとの基礎:「独立基礎」であっても、不同沈下の防止は十分可能である。
たとえば、既に紹介した北上川の氾濫原に建つ1888年(明治21年)竣工の「登米高等尋常小学校」(1月6日記事)では、「独立基礎」でありながら(2階建てだが「足固め」方式を採用している)、念入りな「地形(地業)」が行われていたため(詳細は同記事にて紹介)、竣工後120年近く経過していたのに不同沈下はなく、「土台」にも腐朽は見られなかった、と報告されている。

   註 「トラス組・・・・古く、今もなお新鮮な技術-2」


このように見てくると、「立上がり」を設けるなど、法令が仕様を一律に規定してしまうことは、fool proof化にほかならず、かえって、設計・施工者を安易に走らせ(自ら現場に合わせて慎重に考える習慣あるいは意思を喪失させ)、悪しき結果を生み、技術を固定化し、技術の進展を途絶えさせてしまう危惧があるのではなかろうか。
 
   註 「法令の規定に合せること」=「設計」になってはいないか?
      昨今の、構造計算偽装事件も、この延長上に発生したのではないか?
 
次回は、なぜ「土台」を「基礎」に緊結する規定が生まれたのか、考えたい。

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