模型づくりで・・・・2 ―― 立体の強さ≧単材・部材個々の強さ

2009-10-10 03:19:46 | 構造の考え方

[註記追加 10日18.54]

敷地模型ができたあと、それを参考にしながら、建物の計画を進めます。

こういうとき、計画案の敷地・環境への整合性の確認のために、いつも計画建物の模型をつくっています。今回は、敷地の縮尺に合わせて1/200。

建物模型は、1/100程度以上なら模型用のバルサも使えます。1/50程度以上の大きさなら、スチレンペーパーも使えます。
しかし、1/200では、それらは無理。
そこで紙を使うことにしました。
普通は白ボール紙:板紙を使いますが、今回は「板目紙(いため・がみ)」を使いました。「板目表紙」とも言うようです。

「板目紙」は、昔から書類などの束を綴り紐で綴じるとき、その表紙に使う紙。
元々は和紙を何枚も重ねて圧縮した紙だったようです。

「板目」の呼び名は、圧縮するときに、台の板の木目が紙の上に残るからか、あるいは、乱暴に扱っても傷みにくいことから「傷め紙」か、その謂れはわかりません。
今は代用品。それでも、普通のボール紙よりも、折れや破れには強いようです。その上、白ボール紙よりは価格も安い!

今回の「板目紙」は、厚さが約 0.7mm。1/200では約15cmにあたります。

計画平面図と断面図に合わせて紙を切って部材をつくり、糊で接着して組立ててゆきます。
後ほど詳しく見て行きますが、ヘナヘナな紙の部材が、組み立ててゆくにつれ、ヘナヘナではなくなります。

学生の頃、模型づくりの巧い先輩が、模型が簡単に壊れなければ、実際も丈夫なはずだよ、と言ったのを覚えています。
実際、「木造軸組の模型」をつくっていると(当然、縮尺は1/30程度以上になります)、その意味がよく分ります。そして私も先輩の言に同意します。
なぜなら、できあがった軸組模型を押さえこんだり、ゆすったりしたときに「手に感じる感覚」は、現場で棟上げ時点の建物の上で「体に感じる感覚」とさほど変らないからです。

逆に言うと、模型に力を加えたときに模型に生じる微妙な「変化」を感じることから、実物に起きるであろう状況・様子をうかがい知り、場合によると、設計を修正することもできる、私の経験では、そのように考えて大丈夫なのです。
それゆえ、「実物大実験」をしなくても、また計器でデータをとらなくても、十分に「手の感覚」で、「どのような状況が起きるか」、自分の感覚器官によって想像できる、と言ってよい、と私は考えています。
これは、実際に木を切ったり、削ったり、孔をあけたり、釘を打ったり・・・ということを通じて、木に対する対し方が徐々に分ってくる、というのと似ています。

もっとも《科学者》たちは、そんな「個人の感覚」や「直観」など、信用できないと言うでしょう。
《科学者》たちは、「力学」などの学問体系が存在しなかった時代、ものごとには何の進展もなかった、Ⅰ 型鋼は「断面二次モーメント」の概念が発見されてから発明された・・・、とでも考えているのでは?(下註参照)

   註 「鋳鉄の柱と梁で建てた7階建てのビル・・・・世界最初の I 型鋼」


木造建築ではない場合の模型でも同じ。
今回は1/200でしかも「板目紙」。
今回は、実際の模型のほかに、手順を追って説明するために、説明用に模式的な模型で、手順ごとの写真を撮りました。

先ずはじめに、平面を「板目紙」に写して「基盤」をつくります。
板紙1枚ですからヘナヘナのまま。
これを模式的な模型で説明すると上掲の[A-1]に相当します。
支えになっている台の間隔は約20cm、つまり約40m。

ヘナヘナですから、重いものを載せると[A-2]のように撓みます。
この重石(おもし)は、ホッチキスの針で7.5グラムが2本(1本あたり100個の針)、計15グラム。

次に、部屋の「間仕切」を貼り付けます。模式的模型の[B-1]。
当然間仕切が重石になって、若干「基盤」つまり「床」が撓みます。
先ほどの重石を載せると、当然ですが、さらに撓みます。その状態が[B-2]です。

次に、開口部面を貼り付けます。
今回の「模式的模型」では、簡単にするため、「窓台」の「腰壁」だけをつくりました。[C-1]がその様子です。

こうなると様子が変ってきます。
重石を置いても撓まないのです。それが[C-2]の状態。
もちろん、目では確認できませんが、若干は撓んでいるはずです。
撓みの大きさは、窓台の「腰壁」の高さによって変ります。もしも、開口部を全部塞いでしまえば、まったく撓まないでしょう。
「腰壁」ではなく、「小壁」、つまり開口を「掃き出し」窓としても、ほぼ同じです(模型はつくってありません)。

撓まないのは、1枚の床に単なる重石になってしまう「間仕切」が載っているのではなく、いわば「引き出し」に「仕切り」が付いた形に変った、つまり「引き出し」状の「箱状の立体」に「仕切り」が付いたからなのです(「小壁」の場合は、逆さにした「引き出し」になります)。
こうなると、[B]の状態では単なる重石にすぎなかった「間仕切」も、窓台の「腰壁」と合わさったことで(つまり、L型、U型を構成したことによって)、重石に堪える役割を担うようになったのです。
こんな模型でなくても、私たちは、「箱」型は丈夫だ、ということを、日常で知っています。物を容れる段ボール製の箱です。あんな薄い段ボール紙の箱で、重いものを運べるのです。これと同じこと。

   註 現在の構造学では、多分、腰壁(小壁)は構造には役立たない、と
      見なされるはずです。[註記追加 10日18.54]

さて、間仕切、開口部の組立が終ると、今度は「屋根」を架けます(もう少し大きな縮尺なら、天井をつくる場合もあります)。
今回は、屋根を「切妻型」で考えています。

「切妻型」:逆V型は、模型では1枚の紙に切れ目をいれて二つ折りにしてつくります。[D-1]がその模型です。
二つ折りにした紙は、平らな紙とはまったく違い、[D-2]のように、重石を載せても撓みません(これは見た目での判断です。精密に測れば若干は撓んでいるでしょう。なお、この写真は撮る角度を誤まったため、二つ折りの様子が見えません!)。
「切妻」の勾配が急なほど、撓みにくくなります。逆に言えばより重い重石を載せられます。この模型は勾配5/10、つまり5寸勾配。

もっとも、重石を重くしてゆくと、「切妻型」:逆V型は開いて平らになろうとします。
開かないようにするには、底辺にあたる部分に両辺の開きに抵抗するものを設ければよいことになります(模型ならば「糸」を張ってもよい)。
段ボール箱も、蓋をするかしないかで、大きく違います。

この屋根部を先の[C]に接着して模型としてできあがりです。それが[E]。

こうなるときわめて丈夫になります。
[E-1][E-2]は、[A][B][C][D]に載せた重石のそれぞれ1.5倍、2倍にしたときの様子です。まったく撓みません(もちろん、見た目での判断で、精密に測れば若干は撓んでいるでしょう)。

これは、「切妻型」の屋根が、[C]に接着したことで、「床」「間仕切」「腰壁(あるいは「小壁」)、そして「屋根」が一体になった「立体」を形づくり、段ボール箱で言えば蓋をした状態になったからです。
そしてそのとき「間仕切」は、いわば「竹」の「節」の役割をはたしているのです。

以上のことは、「薄い紙」でつくった模型でさえ、「立体」になると、紙1枚の強さからは考えられないほど、きわめて強固になる、ということを示しています。

しかし、これは模型だから、ではありません。
実際の建物でも、木造でもRCでも・・・同じこと、すなわち、「単材」を集めて「立体」に仕上げる、これが「建築」の基本と言ってよいのですが、同じことが起きている、と考えられます。
「立体」に仕上げられた建物は、使われている「単材」あるいは「部材」個々の「強さ」とは比べものにならない「強さ」を獲得することを予想させます。それは、「単材・部材それぞれの強さの足し算」以上の強さだ、ということです。


もちろん、実際の切妻型の「屋根」は、紙の二つ折りのような簡単・単純なものではありません。
だから、おそらく《科学者》からは、こんな小さな模型での現象・状況を、実際の建物に援用できるわけがない、そんな「感覚」や「直観」に頼るなんて何と非科学的な・・・という「声」が上がるでしょう。

長くなりましたので、それについては、次回、私も同意する模型づくりの先輩の「模型が壊れなければ実物も丈夫」という「言」、すなわち、模型での現象・状況を、実際の建物に援用できる、と考える「理由」を書くことにします。

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