理解不能・・・・ものを吊下げるアンカーボルト!

2012-12-06 10:33:05 | 構造の考え方
先回の記事に、注目すべき東京新聞社説を追加・転載しました。[6日 18.25]

前線が通過する前の朝陽の差す今朝の谷向うの風景。


「日本家屋構造」の紹介の続き、編集が遅れています。
その間に、笹子トンネル事故への感想。

笹子トンネルは、今の現場へのルートの手前、東京寄りにあります。
トンネルは1977年の完成とのこと。最初の建物の竣工が1983年、現場への往復によく使っていました(今は、車での東京横断は疲れるだけなので鉄道を使っています)。
鉄道:中央東線は、日本の鉄道の中でもかなり早い頃の建設で、甲州街道(国道20号)に沿ってごく自然なルートを採っています。だからカーブが多く、急な坂道を避けるためにトンネルが多い。トンネルも無理をしないルートを採り、当初のものは石積や煉瓦積。鉄道の笹子トンネルは、戦後に増設されたのを含め2本ありますが、当初のは煉瓦積のようです。

中央線から、中央道がよく見えます。中央線と比べると、まさに近代土木技術による建設。
特に目に付くのが長大で巨大な鉄骨(立体)トラスの橋桁。中には100m近い距離を飛ばしているようです。
いつも、部材がスレンダーだな、近代初頭なら、そして、建築でやったら、こうはゆかないだろうな、と思いながら見ています。
と同時に、いつも、あの巨大な橋桁の塗装の補修は大変だろうな、と思ってもいました。実際、褪めて塗り替えた方がよさそうに見える箇所がたくさんあります。

そんな時に起きた事故。
最初はどういうことか分らなかった。崩落というので、トンネルの壁が崩れた、何故、と思ったら違っていた。天井が落ちたという。
これも最初はどういうことか分らなかった。天井がある、とは思っていなかったからです。
詳細を知るに及んで、今度は、目を疑いました。
天井を吊るために、鉄骨をトンネル本体にアンカーボルトで留めてある。それが落ちたらしい・・・。
アンカーの字義は錨。船を繋留するための用具。
基準法仕様の木造建物や鉄骨造の建物を基礎(多くの場合はコンクリート製)に固定するのが通常のアンカーボルト。
私は、物体をコンクリート製の構築物に吊下げるためにアンカーボルトを使う例があることは知りませんでした。そして、トンネルのコンクリートの壁にアンカーボルトを据え付けるのは大変だったろうな、と思いました。
鉄骨建築の基礎のアンカーボルト据付の精度を確保することは、地上でさえ難しいことだからです。
と思っていたら、なんと、このアンカーボルトは後付けなのだという。後付けなら、たしかに寸法を採るのは簡単です。

機械の据付けにもアンカーボルトを使いますが、その場合、後付けの方法がよく採られます。言ってみれば、機械の横ずれを防げばよいからです。
後付けは、ドリルで孔を穿ち、そこへ直の(棒状の)ボルトを埋め込む。
叩き込んで先を拡げる方法(木造の場合の地獄枘のような方法)が普通でしたが、近年、ケミカルアンカーと称する接着剤を使う方法が増えています。
どうやら、このトンネルでは、天井吊下げのために、ケミカルアンカーを使っていたらしい。

上から重さが掛かる地上ならともかく、引きぬく力がかかる天井に使う、この「発想」が、私には皆目理解できませんでした。理解不能!
   基礎に植えられたアンカーボルトに引き抜こうとする力が掛からないわけではありません。
   しかしそれは、常時ではない。起きることもある、程度です。
   吊るす場合は、常時、引き抜く力が掛かっているのです!!
建物の基礎に設けるアンカーは、コンクリートに埋る部分を、棒状ではなく、L型あるいはU型に加工します。簡単に抜けないようにするためです。天井なら当然そうするだろう、だから施工が大変だったろうな、そう思った。
しかしそうではなかったのです。

私は、以前から、土木構築物の構造計画は、建築の構造計画よりも一歩先に進んでいる、と思っていました。図体の大きさに見合って、全体を見渡す目がすぐれている、そう思っていたのです。
ところが、今回の事故で一変しました。
現代技術は、近代初頭の技術よりも、衰えている。これは、土木界でも同じだった!

近代初頭、鉄やコンクリートなどの新しい材料が使われだした頃、人びとは、ものごとの当否を、それぞれの感性で判断した
幸か不幸か「学」が発展途上?だったからです。
しかし、現在は、「学の成果」に依拠すれば何の問題もない、として一切を疑わなくなってしまった!
今回の場合、引張れば簡単に抜けることを承知の上で(もしかしたら、承知していなかった?)、接着剤が防いでくれる、と判断した。
おそらくその「判断」は、接着剤の試験データに拠ったものと思われます。
容易に引き抜くことができる形状を、モノを天井に吊る際に使う、つまり、下から垂直の孔を穿ち、そこへ真っ直ぐな棒を差込み、その先にモノを吊せば、当然、棒は簡単に抜ける、それを防ぐにはノリで接着すればいい、そういう「発想」を平気でする、そして何ら疑わないことに、私は驚きました
   小さなものを吊るすときに使う先がフックになっているヒートンという金具があります。
   これには、埋まる部分にネジが切ってある。それは、相手に密着するためです。
   ネジがあるのとないのとでは、吊るすことのできる物体の重さに大きく差が出ます。
   ネジの方法は、木材や鉄材では可能ですが、コンクリートには使えません。材質が緻密でないからです。

多分、いろいろな場面で、同様なことが起きている、そしてこれからも起きるだろう、そんなふうに感じています。
考えてみれば、いや、考えて見るまでもなく、原発安全神話もこの一つ。


どうしたらこういう状態を抜け出せるのか。
人びとの持つ感性を信じること、人びとの感性を埋没させるような動きから撤退すること、
そして、多くの実体験の機会に恵まれるようにすること、ではないかと思っています。
   たとえば、建築の仕事の場合で言えば、ソフトに頼らないこと!
   先ず手仕事:手描き、見よう見まねの手描き、次いで習熟したらソフト、
   この手順が必要なのではないでしょうか。
   何のことはない、これは、はるか昔、ものごとの修得について、世阿弥が語っている要諦です。
   

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