日本の建物づくりを支えてきた技術-20の補足・・・・「小根ほぞ差し」「胴突(胴附)」

2009-01-09 19:20:26 | 日本の建物づくりを支えてきた技術

[文言追加][解説文言再追加 1月10日 13.27][註記追加 1月11日 12.09]

上掲の上段の図は、昔から当たり前に行われてきた「柱に横材を取付ける」方法の一つです。隅の柱を例にしています。

この図は、「柱の径:幅と、横材の幅がほぼ等しい」ときの仕口例。

「柱の径が、横材の幅よりある程度大きい」ときは、
①柱の端部に「枘」を設け、
②柱に横材の断面と同じ大きさで深さ5分(15mm)程度の穴を彫り、
  横材の「枘」を差す「枘穴」をあけます。
このような横材の断面と同じ大きさの穴をあけ、横材を取付ける方法を「大入れ」「大入れにする」などと呼びます。[文言追加 12日 7.47]
当然、横材の長さは、柱にのみこまれる「深さ5分」を計算の上、加工します。

上掲の図のように、「柱の径が横材の幅とほぼ等しい」場合には、「大入れ」にすることはできません。その部分が欠きとられ、見えがかりが悪くなります。
その場合、柱にのみこませる部分を、横材の断面より一まわり小さく刻みます。図に色を付けた部分です。[文言追加]
この部分を「胴突(どうづき)」と呼びます(人や地域により、呼び方が違うようです)。

「大入れ」あるいは「胴突」を設けるのは、横材の柱へのかかりを大きくするためと(そうしないと、幅の狭い「枘」だけが力を受けることになってしまいます)、組み上がり後の横材の変形(「枘」の幅の延長上に「割れ」が入ったり、平角自体が歪む)を押さえるための二つの目的があると考えられます。

「大仏様」の場合は、「枘」にあたる部分自体が「平角」材ほどあるため、そういう心配をする必要がなかったものと思われます。
また、「胴張り」を徐々にしぼりこむ(たたむ)ため、断面に急激な変化がなく、「枘」にあたる部分からの「割れ」も入りにくいのではないかと思います。

   註 [註記追加 1月11日 12.09]
      「日本建築辞彙」によると、
      「胴突」は地形(地業)の「地固め」のこと、を言い、
      「枘」根元に設ける場合は「胴付(附)」と表記する、とあり、
      「胴付(附)」とは「枘の根元まわりの平面をいう」、
      「英語では shoulder 」とあります。
      要するに、「首根っこ」:「肩」なのです。
      納得しました! 以後、こちらで表記します。

材が細身になってくる近世には、力の伝え方はもちろん、材の変形を防いだり、より合理的に対応するため、「継手・仕口」に対して様々な工夫がなされています。これについては、いずれ紹介したいと思います。

また、全高を「枘」にするのではなく、その一部だけを「枘」にする場合を「小根枘(こねほぞ)」と呼びます。上図の場合は、全高の半分を使っています。
上側に設けるか、下側に設けるかによって、頭に「上」「下」を付けて区別します。
図の「名称」に付けた振り仮名は、大工さんの普通の呼び方です。[文言追加]

上の図では、片方を「割楔締め(わりくさびしめ)」、もう片方は「込栓打ち(こみせんうち)」とした場合を書いています。
もちろん、両方とも「割楔締め」、あるいは「込栓打ち」とすることもできます。
また、「込栓打ち」の場合は、柱を貫通させず、少し手前で終らせる方法もあります。そうすると、外側に「枘穴」が見えません。

   註 「割楔締め」
      「枘」の先端に、鋸で割れ目をつくっておき、「枘」を差した後、
      その割れ目に「楔」を打ち込むと、「枘」の先端が広がろうとして
      「枘穴」に密着し抜けにくくなります。
      その楔を「割楔」と呼び、鋸で開けた割れ目を「楔道」と言います。
      小さな「枘」の場合は、「割楔」は1枚でも構いません。
           以上[解説文言再追加 1月10日 13.27]


なお、下段の図は、同じような場所の、建築を学ぶ学生用教科書「構造用教材」(日本建築学会 編)が「在来工法」の項で紹介しているやりかたです。
そこでは、私たちの先達が重ねてきた工夫は、まったく考えられていないことが分ると思います。
手間はたしかに減りますが、単に「手間を減らす」ことは決して「合理化」ではありません。これは、「理」がない「手抜き」と言う方がよいでしょう。[文言追加 13.27]


追記
例の「伝統的構法住宅実物大実験」について書いた5回の記事のうち、はじめの3回分を、「実験」の主催者「日本住宅・木材技術センター」宛、年末に、「ご異議があれば反論を」との旨の添え書きとともに、メールで送りましたが、今現在、返答はありません。あとの2回は、送るのもムダと考え、やめました。

ただ、異議、反論がないということは、当方の指摘を「無視する」という形をとってはいますが、実は、認めた、ということにほかならないと考えてよいのではないでしょうか。

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