「建物の性能」と「建材の性能」――不燃材、透湿・防水材・・・で建物の性能がよくなるか

2007-11-02 11:11:10 | 建物づくり一般

[字句追加、11月2日、12.55および15.55]

ある建材メーカーで、水で濡らした《不燃材》が性能試験をクリアし、「不燃材」として認証され、「認定番号」をもらっていたそうだ。
別に驚くこともない。十分予想のつくことだ。似たような例は他にもあるだろう。

本当の問題は、「認証・認定制度」そのものにあるように思う。
なぜなら、これは、燃えないようにするにはどうしたらよいか、について一切考えることもせず(考えて設計をせず)、「認証されて認定番号の付いた不燃材料を使えば建物が不燃になる」と考える「安易な設計、安易な設計者の増加を促す制度」だからだ。
それに乗じるメーカーが出てくることは、今の世では、容易に想像できる。今の世には、かの「近江商人」は、ほとんどいないのである。
また、いつであったか、漆喰塗り壁の設計で、漆喰の認定番号を、と言われて愕然としたことがある。だから、「安易な検査官の増加を促す制度」でもある。

この制度は、一見「科学的」「合理的」な方策であるかのように見えて、実は、「きわめて非科学的、非合理的な行為:『思考停止・判断停止』を助長している」と言ってよい(今問題になっている食品の「消費期限」「賞味期限」の表示制度も、同様な側面をもっているのではないか)。[字句追加:15.55]


「透湿・防水紙」というのがある。これを張らない建物は建物でない、かのように最近の木造建築では張るのが流行っている。

   註 私はこれをまったく使わない。理由は後述。

もちろん、この「流行」は、軸組工法の木造建築で、軸組間に「断熱材」を封入し、外壁を大壁仕上げにした事例で木部の腐朽が目立ったことから導入された材料。理屈は、水蒸気は通すが水は通さない、という点。要は、材料に空いている孔の大きさ。
かつてアスファルトフェルトが張られていた箇所が、最近はこの材料にすべて置き換えられているようだ。

日本で大々的に「透湿紙」が使われるようになったのは、寒冷の地・北海道で、木造住居の保温性を向上させるため、1985年(昭和60年)頃から使われだしたらしい。元はアメリカ産の材料。
その工法は「新在来木造工法」と呼ばれ、軸組間に「断熱材」を封入し、天井、床にも「断熱材」敷き詰め、内部の壁を気密にして室内の暖かく水蒸気を含んだ空気が軸組内に逃げないようにする、外壁部には「透湿紙」を張り通気層を設け、軸組内の水蒸気を外に逃がそう、という現在北海道以外でも一般化しつつある工法である。要点は、通気層もさることながら、「気密」性が肝要。

私は、かねてから、「気密」と「透湿」が、どの程度確保でき、どのくらいの期間その性能を維持できるのか、疑問に思っている。
「気密」については、どうやら、「絶対」が求められるようだ(コンセントまわり、隅部、シートの継目を気にするようだ)。少しでも暖かく水蒸気を伴った空気が漏れると「断熱材(主としてグラスウール)」に結露する。

しかし、「絶対」が可能なのだろうか?
「気密シート」は「絶対」に傷まないのだろうか?継目にテープを貼れば「絶対」なのだろうか?施工後、あるいは竣工後、気密が破れることはまったくないのだろうか?

また、「透湿」機能:水蒸気は通すが水は通さないという性能:は、それを維持し続けることができるのだろうか。
なぜなら、外側の通気層を通るのは、新鮮な空気・水蒸気だけではあるまい。ドラフトが生じているのだから、地面近辺のきわめて微細な埃も通るはずだ。たとえ埃で「透湿紙」の孔が塞がれないとしても、表面全体に付着し、埃の層ができることは十分あり得る。そして、それが湿気を帯びたらどうなるか。「透湿」効果は激減するだろう。竣工後長い時間を経過した実際の建物で、中を覗いてみた人はいるのだろうか。通気扇・換気扇のエアフィルターだって、点検が必要なのだ。[字句追加]

どうやら「透湿防水紙」の瑕疵保障期間は10年らしい。10年経ったらどうするのか。張替えよ、ということなのか?
では、外装は、張替えが可能な、もしくは、張替えが容易な方法でつくられているか?それへの十分な対応のしてある例は見たことがないし、張り替えたという事例も知らない。そのような仕様で「200年住宅」などと言わないこと!

こういう仕様を見ていると、一般に、「良い性能の建材はいつまでもその性能を維持し続けることができる」、そして「そのような良い性能の建材を集めてつくれば良い性能の建物になる」と信じられているようだ。そしてまた、その背後には、「絶対確実」な施工ができる、という信仰が潜んでいる。


では、科学的データも「理論」もなかった時代、「性能のよい建物」はつくれなかったのか?
そんなことはない。木造主体のわが国で、わが国の環境を体感で熟知していたから、地域なりに、地域の特徴に適った長く性能を維持できる手法をいろいろと考案していた。

たとえば、中国山地や東北の寒冷の地では、「塗り家つくり」「蔵つくり」「土蔵つくり」などと呼ばれる古代から引継いできた建物全体を土壁で塗り篭めるつくりがある。普通は壁だけだが、ときには屋根面も塗り篭める例がある(上の写真の山梨県の例はその一つ)。
会津・喜多方(盆地のため寒冷になる)では、明治中頃からは土で塗り篭める代りに煉瓦を使うようになった。これもきわめて恒温恒湿性にすぐれた建物となる。こういうつくりが、なぜ北海道で使われなかったのだろうか。

土で塗り篭めるつくりは、同時に立派な防火構造でもあるから、江戸をはじめ、町なかの商店では大いに利用された(埼玉県・川越は、大火後、明治になって江戸の町家を模してつくられた土蔵造りが並ぶ街)。

しかし、土壁は風雨、風雪で傷む。特に、壁の下部が傷みやすい。これは大壁でも真壁でも同じ。
そこで、先ず深く軒を出して吹き降りの雨が壁にあたらないようにした上で、土壁の外側に、保護用の板壁を設ける方法が生まれる。
防火のための土蔵でも、保護の板壁が燃えても、土蔵は燃えない。さらには、万一の場合には、火を避けるために、土壁のところどころに「塩かます」をかけるための金具が仕込まれていた。

壁の保護には、場所によると、板ではなく平瓦を張る例が多々ある(通称「なまこ壁」:岡山県倉敷、静岡県伊豆下田など)。
また、土に比べ雨に比較的強い上質な漆喰を土壁上に塗る場合もある。一般に土蔵はこのつくりだが、漆喰も長いこと雨に洗われば傷む。以前紹介した近江八幡・西川家の土蔵では、それを避けるため、壁の中途に「水切」のための凹部を設けている(7月22日に紹介。水切瓦をまわす場合もある)。
この保護板壁(あるいは平瓦張り)は、風雨、風雪が弱いところでは壁の下部だけ、強いところでは全面に使われる。

上掲の三重県伊勢市は風雨が強い地域。ここでは、真壁つくりの外壁全面を羽目板で保護したうえ、妻側では、軒の出いっぱいに屋根型に「雨除け板」(「雨囲い」とも言うらしい)を下げている(今話題の「赤福」の店もこのつくり)。
これらの保護壁は絶対不滅なものとは最初から考えられてはおらず、板壁の場合は、土壁側に設けた下地に取付け、朽ちたり傷んだりしたら、取り替えることが出来るようになっている。

群馬県沼田は、雪の多い土地。上掲の例は、土壁の上を、伊勢の例同様板壁で蔽うのだが、ここでは板壁の取替えや土壁の点検・補修が容易になるように、最初から雨戸様のパネルを土壁の上に掛ける方法を採っている。これは、関東地方でも、土蔵の下部の保護板壁などでも見ることができる。

山梨県の例は、山梨でも寒冷の地。寒冷地対策として屋根まで土で塗り篭めてあるが、屋根が土塗では雨水に弱いから、土で塗り篭めた屋根の上に、新たに屋根を設けている。
こういうつくりは信州諏訪地方にもあり、今でも見ることができる。また関東平野・武蔵野の農家の土蔵でも見かけたことがある。
なお、この覆い屋は、陽の直射を避け、室内環境の維持に効果があると同時に、冬場、土塗り屋根面と覆い屋の間に外気が通じ、寒冷地で発生しがちな屋根上の雪が室温で溶けて凍ってダムとなり、水溜りとなって生じる雨漏り(すがもれ)を防ぐ効果もあるという。

土壁で塗り篭めた建物のすぐれた恒温恒湿性能は、昔から知られている。ただ、施工に時間がかかるのが難。これに代った会津の煉瓦蔵は、土蔵同様の性能で、なおかつ施工時間が短い、しかも耐久性がよい、ということから、煉瓦が造られ始めると一気に会津盆地一帯に広まった。
北海道でも良質の煉瓦ができる。「野幌(のほろ、のっぽろ)煉瓦」(野幌は地名:良質な粘土が産する)と言われ、明治に生産が始まっている。
これを使えば、数等暖かく、しかも耐久性のある建物がつくれたはずなのだが、煉瓦造は地震に弱いという「風説」が流されたため、ブロック造はあるものの、煉瓦造はほとんどつくられていない(ブロック造に比べ、保温性能は数等すぐれる)。
「断熱材」にたよる「新在来木造工法」も結構だが、耐久性にもすぐれる煉瓦利用を考えてみてもよいのではないか。維持管理等を含めたトータルコストでは、決して高いものではないはず。

ここで例示した例に共通しているのは、どれも、力ずくで環境を我が物にしてやろう、という考え方ではなく、当然、建材の性能を永久だなどとも決して過信してはいない。
しかも、この点が重要なのだが、使われているのは、すべて身近な周辺にある材料だ、ということ。しかも、朽ちたり傷んだりした材料の処理もきわめて容易。いわゆる産業廃棄物は出ない。

このあたりで、すぐに「高断熱・高気密・高換気・・」「高性能断熱材」・・の使用に走る前に、もう一度、建物をつくるという原点に立ち帰って、建築材料の選択、使い方を考え直す必要があるのではないだろうか。

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