日本の建築技術の展開-9・・・・何が変ったか

2007-04-02 01:26:06 | 日本の建築技術の展開

[補足追加:9.07AM]

 東大寺の復興にあたり採用されたいわゆる「大仏様(だいぶつよう)」の実施例については、すでに昨年10月20日、11月28~30日に載せている。
 ここでは、「大仏様」が、それ以前の方法とどこがどのように変ったか、という点で触れる。
 そのためには、図面を並べて見るのが一番分かりやすい。かと言って、この画面上に全部を横並びはできないから、文章で述べることになる。

 南大門の架構方式
 1.柱を屋根面近くまで伸ばして、「斗組」は柱の上から下に組む。
     註 従来の工法は、「斗組」を柱の上に順に組上げてゆく。
 2.伸ばした柱の上部に、梁行方向に貫通する孔を開け、差し通した横材(「挿
   肘木:さしひじき」と呼ぶ)の先端に「出桁:でげた」を流し、「垂木を受
   ける。
 3.「出桁」を受ける「肘木」の上に、さらに短い「挿肘木」を設け、柱列と
   「出桁」との中間の「桁」:母屋に相当:を受ける。
 4.「出桁」を受ける「挿肘木」の下にも「挿肘木」が何段も設けられ、その内
   の一または二段おきの「挿肘木」は、柱を貫き内側に伸ばされ、反対側の柱
   に至り、柱を貫通して「挿肘木」となる。
   この柱を貫く部分を、通常「貫(ぬき)」と呼ぶ。
   「貫」は柱に楔(くさび)で締め付けられる。
     註 言い換えれば、「貫」の両端が側柱の外側で「挿肘木」になる。
   この「貫」と同じレベルで、桁行方向にも「貫」を通す(補足追加)。
   柱相互が、縦横に「貫」で縫われた結果、柱が撓む(挫屈)恐れはなくな
   り、「柱」と「貫」で強固な立体に仕上がる。
     註 木製の梯子(はしご)を想像すればよく分かる。
       二本の細い材を何段もの横材でつないだ梯子は、梯子面の側面から
       押しても撓まない(横にして梯子の面を垂直に置けば、梁にも使え
       る:細い材でつくる「合成梁」の一種。通常、内法上の小壁も合成
       梁になっている。

       柱相互を何段も「貫」で縦横に縫うと、梯子四本で直方体をこさえ
       たことと同じになり、全体が強固な立体になる。
       それゆえ、壁がなくても壊れにくい。南大門が《耐力壁》がなくて
       も強い理由。
 5.「挿肘木」を何段も設けたときに、柱を貫通する孔が接近しすぎないように
   するため、「挿肘木」間の「斗」の下部に皿上の繰り出しを設けて「斗」の
   高さを高くしている(「皿斗」と言う)。
 6.側柱の中間で(桁行方向の柱と柱の中間で)、「頭貫」の上に「蟇股(かえ
   るまた)」様の座を支点として垂木勾配なりの独立した斜材を桁行方向に据
   え、柱間中間の母屋を受ける。
   この斜め材を、「遊離尾垂木(ゆうりおだるき)」と呼ぶ。
   この呼称は、材が独立していることからの命名。
   この材は、垂木が架けられてはじめて安定し、効力を発揮する。
     註 通常の「尾垂木」は、後端を上部の小屋組で押える。
       「遊離尾垂木」は「浄土寺浄土堂」でも用いている。
 7.軒を支えるために深く突き出た「斗組」相互を、肘木数段おきに横材(「通
   し肘木」)を流してその横振れを防ぐ(上掲写真参照)。
 8.垂木の先端に「鼻隠し」を設ける。
   「鼻隠し」は、「出桁」からの垂木の出が短いことを隠し、また垂木先端の
   狂いを防ぐ意味があったと考えられる。
     註 従来の架構と比べ、軒桁からの垂木の出が少ない。

 以上が「南大門」にみる「大仏様」の特徴である。なお、「浄土寺浄土堂」と「南大門」は、軒先部分が異なる。

 以上の特徴の中で特筆すべき点は、「貫」の工法である。これにより、部材が一体の立体に組立てられ、「長押」の時代に比べ、格段に頑強な架構が確保できるようになったからである。
 それゆえ、「大仏様」そのものは広まることはなかったが、「貫」の効能は、その後広く民間にまで行き渡る。
 その意味で、その後の「日本の建築技術の展開」の礎になったことは間違いない。


 なお、一般に、「大仏様」は、「貫」を含めて、中国「宋」の技法の影響と言われているが、「図像中国建築史」を通観したところ、「貫」に類する技法は見当たらないので、もう少し調べてみたい。
 ただ、先回紹介の「山西五台山 仏光寺」(唐の時代)の断面で、柱頭に何段もの肘木と梁を縦横に架け渡しているところは、若干似た雰囲気があり、それは「宋」の時代でも同様である(挿肘木ではない)。折を見て、中国の「仏光寺」以外の時代の例を紹介する。
 

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