小笠原、父島(その8)

 ネガシートに挿んであったメモには「笹本さん」と書いてある。畑を見せていただき小屋の中で話を聞かせていただいた記憶がある。ネガのコマを追うと畑の端から未開のジャングルを抜けて鉄筋コンクリート製の廃屋にも案内していただいているようである。最初にお願いはしたが、間近での撮影を厭う風もなかったと記憶している。

 

 

 スキャナで読み込んだ画像を見ていると、現像液の中の印画紙に少しずつ像が浮かんでくるように、記憶の深い底からぼんやりとだが当時の事が浮かびあがってくる。それが正しい記憶なのか、勝手な想像や脚色によって歪められたものなのかはわからないが甦ってきたのは「戦前に父島に住んでいた。割と最近島に帰ってきてここで農業をしている」と聞いた記憶。

 

 「農業」と云うには余りにも荒れた「畑」である。余りにも粗末なこの小屋で生活をしている様子はない。書いているうちに、帰島者用の鉄筋のアパートに住んでいると来たような気がしてきた。牛がいたような記憶はないが、写真には搾った生乳を入れるタンクが写っている。そこには「笹本誉」と書かれているが、当時として既にかなり古いもののように見える。とすると、笹本さんが戦前に父島で乳牛を飼っていた時のものがそのまま残されていたと云う事か。今となっては知るすべもない。

 

 PENTAX SL。メモにはレンズは書かれていないがこの画角から28mm F3.5であることは間違いない。フィルムはTRI-XD761:123度で8分とメモされていた。

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