マルガリータ

 久しぶりにじっくり腰を据えて読むに相応しい本に出会った。

 1582(天正10)年に九州のキリシタン大名、大友宗麟・大村純忠・有馬晴信によってローマへ派遣された天正遣欧少年使節の四人の少年の内、帰国後に唯一棄教した千々石ミゲル(棄教後は千々石清左衛門)のその後を、妻となった「珠」を通して語らせた小説である。キリシタンとして殉教した他の三人とは異なり、千々石ミゲルの棄教後の史料が少ないことから、著者の自由な創造により長編小説となったものである。

 厳しいキリシタン弾圧の史実を紐解きながら書かれた長編ではあろうが、最も肝心なミゲルの棄教の経緯が十分に描ききれていないのが残念である。またキリシタン弾圧の歴史について予備知識のない読者にとってはやや説明不足な点があるなど、物語の組み立てや描写の甘さが散見される。とは云え、遠藤周作の独擅場であったキリシタン物に取り組みながら、清左衛門の妻、珠を通して語らせる物語は大方成功したものと思われる。

『マルガリータ』
村木 嵐(むらき らん)
文藝春秋社
ISBN 978-4-16-329510-7
発行年月日 2010年6月25日
四六判上製カバー装/304頁
1,500円(税別)
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