陽だまりの旅路イスキア

あ、slice of life…日向香を感じる日々の暮らし…

錦繍 読んで切なく観て切なく 

2009年12月15日 | slow culture

師走の或る日
梅田は茶屋町の梅田芸術劇場
シアタードラマシティへ
舞台“錦繍”を観に行く。

好きな作家の好きな作品
宮本輝原作「錦繍」の舞台化。
演出は英国のジョンケアード氏。

劇場はほぼ満席。後ろの方の席が
若干空席になっていた位か。
観客はほぼ中高年女性が大半だった。
母娘親子連れや熟年夫婦も。

この“錦繍”という小説。
ご存知の方も多かろうが
これ全編手紙形式の小説。
主人公の元夫婦が、偶然
蔵王どっこ沼のダリア園で再会する。
それから、二人が交わした
手紙のやりとりがずっと続いていく
という構成の小説なのである。

恵まれた環境にいたはずの夫婦が
夫の身に起こったある悲劇によって
その後悲しい運命に翻弄されてしまう。

愛の途上にありながら
別れることになってしまった二人が
その空白と解決できていない
心の齟齬を埋めてゆく過程が
記されてゆく。その底流には
今でも、灰の下で眠る“おき“
のようにくすぶり続ける
深い愛を感じずにはいられない。
そして最後には
お互いが別の道ながらも
再生への道を歩もうとすることを
示唆するような手紙で終わるのだ。

蔵王のダリア、西宮は
香露園の邸宅のミモザアカシア
そして京都の料亭での紅葉が
この小説に、驚くほど
いとも鮮やかな彩りを添えている。
その対比で、元夫がかつて暮らした
舞鶴のどんよりした鉛色の空…。
この色のコントラストが、図らずも
二人の運命の対比を際立たせている。

この舞台(小説)の主題
“生きていることと死んでいることは
同じことかもしれない”
がくっきりと浮かび上がるのだ。

音楽はもちろんモーツアルト。
色と音が美しい物語りである。

舞台は、それらの小説の要素を
極めて忠実に表現していると思う。
さながら私は
また、小説を再読しているような
感覚に陥ってしまったのだ。

車座に並べた椅子に俳優が陣取り
その場面場面でひとり何役も演じる
という演出も、往復書簡小説だけに
違和感なく感情移入することができた。

鹿賀丈史は別にしても
星島亜紀役の小島聖や
瀬尾由加子役の中村ゆりは
私が描いていた主人公のイメージに
ほとんど近いことも嬉しかった。

私にとって宮本輝の“錦繍”とは
云わば、恥ずかしながら告白すると
わたくし的“冬ソナ”なのである。

■観劇記 

舞台 錦繍
いま よみがえる 深い愛と業の物語

原作宮本輝×演出ジョンケアード

有馬靖明……鹿賀丈史
星島亜紀……小島聖
瀬尾由加子……中村ゆり
勝沼壮一郎(亜紀の再婚相手)石母田史朗
清高(亜紀の知恵遅れの子…植田真介
星島亜紀の父、一代で
築き上げた星島建設の社長…高橋長英
喫茶店モーツァルトの主人…清水幹生
喫茶店モーツァルトの夫人…神保共子

音楽・尺八演奏……藤原道山

平成21年12月5日 13時開演
梅田芸術劇場
シアタードラマシティ 19列にて
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