俳人、長谷川櫂さんの著書を読む。
ちょっとおおざっぱな言い方であるが。
自らの癌体験を契機に俳人としての著者が
死生観を考察しながら著したエッセイである。
色んな所で語られてはいるが、芭蕉に対する考察は
やはり一読の価値。勉強になった。
秋深き隣は何をする人ぞ
有名なこの一句は、死の前月9月28日(旧暦)に
大阪・本町の之道の家で作られた。
歌仙の発句として出句されたという。
ただしこの時の歌仙の資料は残っておらず
第二句以下がどう付けられたのかは不明とか。
大坂に来て芭蕉は病に臥せっていた。
隣の部屋で弱る体を横たえていたのだろう。
その状況を思えばこの句の鑑賞も深みを増す。
和泉式部、西行、定家などの和歌も繙きながら
日本人の死生観についても解説してくれる。
「詩歌とは本来人々のために祈り、その喜びや
悲しみに寄り添うものなのだ。」と櫂さんは言う。
正に御意。俳句も詩歌である。
ここに詩としての本分があるとつくづく思う。
此の事をどこかに意識して詠むのが詩人である。
■俳句と人間 長谷川櫂
岩波新書 2022年1月初版