今回は、「源氏物語」の書かれた一条朝を描いた、歴史エッセイを紹介いたします。
☆源氏物語の時代 ー一条天皇と后たちのものがたり(朝日選書 820)
著者・山本淳子 発行・朝日新聞社 税込み価格・1365円
本の内容紹介
『源氏物語』を生んだ一条朝は、紫式部、清少納言、安倍晴明など、おなじみのスターが活躍した時代。藤原道長が権勢をふるった時代とも記憶されているが、一条天皇は傀儡の帝だったわけではなく、「叡哲欽明」と評された賢王であった。皇位継承をめぐる政界の権謀術数やクーデター未遂事件、当時としてはめずらしい「純愛」ともいうべき愛情関係。ドラマチックな一条天皇の時代を、放埓だった前代・花山天皇の、謀略による衝撃的な退位から書き起こし、現存する歴史資料と文学作品、最新の研究成果にもとづいて、実証的かつ立体的な「ものがたり」に紡ぎあげる。『源氏物語』が一条朝に生まれたのは、決して偶然ではない。
[目次]
序章 一条朝の幕開け
第1章 清涼殿の春
第2章 政変と悲劇
第3章 家族再建
第4章 男子誕生
第5章 草葉の露
第6章 敦成誕生
第7章 源氏物語
終章 一条の死
紹介文にもありますようにこの本は、花山天皇の衝撃的な退位から筆を起こし、一条天皇の即位、定子との結婚、中関白家没落と道長の登場、そして彰子入内、「源氏物語」の誕生、一条天皇の退位と死に至るまでの激動の時代を、「日本紀略」といった史書、「小右記」「御堂関白記」「権記」といった貴族の日記、「枕草子」「大鏡」「栄花物語」といった古典文学に基づき、一条天皇と彼の二人の后、藤原定子(藤原道隆女)、藤原彰子(藤原道長女)を中心に描いた歴史エッセーです。小説ではありませんが、物語風に書いてある場面もあり、親しみやすくわかりやすいです。それでいてとても正確で、この時代を理解する上で最適の本だと思いました。
この本を読んで感じたことは、主役である3人…、一条天皇、藤原定子、藤原彰子の人間的な魅力でした。特に、一条天皇と定子の純愛については力を入れて書かれています。
一条天皇は学問に優れ、人間的にも立派な人物であったこと、そしてその一条天皇の魅力にさらにみがきをかけたのが定子との愛情であったことが繰り返し語られています。定子は話題豊富で、明るくユーモラスな性格の女性でした。一緒にいて楽しい女性だったのでしょうね。そんな定子に、一条天皇が深い愛情を感じたことはごく自然なことだったのかもしれません。
定子の実家、中関白家が没落してからも、一条天皇は定子に変わらぬ愛情を注ぎ、必死に守り抜こうとします。二人の純愛には胸を打たれます。
一方彰子は、定子の崩御の1年前に入内したのですが、12歳という幼さのため、権力者道長の娘という立場がかえって痛ましく感じました。しかし、何もわからないお人形で終わらなかったところが彰子のすばらしいところです。
彰子が紫式部に漢籍の講義を頼んだ本当の理由は、漢籍を学ぶことによって一条天皇の話し相手になりたい、そして、一条天皇の真の后になりたいという願いからだった…と、この本に書かれていましたが、私も同感です。彰子の一人目の子、敦成親王は、一条天皇が「道長との融和のため、何としてでも彰子を身ごもらせなくては」という必要に迫られてできた子であるのに対し、二人目の子である敦良親王は、二人の真の愛情によってできた子でした。しかし、それでも一条天皇が最も愛した女性はやはり定子であり、彼の辞世の句は定子に捧げられたものだったようです。
その他、清少納言や紫式部も登場します。清少納言と定子は、信頼し合った友人同士という関係だったのに対し、紫式部と彰子は、「頼りない中宮さまを守ってあげなくては」という関係だったというのも面白いです。
また、一条天皇が崩御したあとの彰子、清少納言、紫式部にも触れられていました。彰子が権力を持った立派な后になっていく姿には感動します。
このように、各人物の性格や行動が具体的に描かれていますので入りやすい本だと思います。「源氏物語」は知っているけれど、物語の書かれた時代のことはよく知らないという方には入門書として最適です。もちろん、この時代や人物のファンの方にも、新しい発見がたくさんある本だと思います。お薦めです。
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☆源氏物語の時代 ー一条天皇と后たちのものがたり(朝日選書 820)
著者・山本淳子 発行・朝日新聞社 税込み価格・1365円
本の内容紹介
『源氏物語』を生んだ一条朝は、紫式部、清少納言、安倍晴明など、おなじみのスターが活躍した時代。藤原道長が権勢をふるった時代とも記憶されているが、一条天皇は傀儡の帝だったわけではなく、「叡哲欽明」と評された賢王であった。皇位継承をめぐる政界の権謀術数やクーデター未遂事件、当時としてはめずらしい「純愛」ともいうべき愛情関係。ドラマチックな一条天皇の時代を、放埓だった前代・花山天皇の、謀略による衝撃的な退位から書き起こし、現存する歴史資料と文学作品、最新の研究成果にもとづいて、実証的かつ立体的な「ものがたり」に紡ぎあげる。『源氏物語』が一条朝に生まれたのは、決して偶然ではない。
[目次]
序章 一条朝の幕開け
第1章 清涼殿の春
第2章 政変と悲劇
第3章 家族再建
第4章 男子誕生
第5章 草葉の露
第6章 敦成誕生
第7章 源氏物語
終章 一条の死
紹介文にもありますようにこの本は、花山天皇の衝撃的な退位から筆を起こし、一条天皇の即位、定子との結婚、中関白家没落と道長の登場、そして彰子入内、「源氏物語」の誕生、一条天皇の退位と死に至るまでの激動の時代を、「日本紀略」といった史書、「小右記」「御堂関白記」「権記」といった貴族の日記、「枕草子」「大鏡」「栄花物語」といった古典文学に基づき、一条天皇と彼の二人の后、藤原定子(藤原道隆女)、藤原彰子(藤原道長女)を中心に描いた歴史エッセーです。小説ではありませんが、物語風に書いてある場面もあり、親しみやすくわかりやすいです。それでいてとても正確で、この時代を理解する上で最適の本だと思いました。
この本を読んで感じたことは、主役である3人…、一条天皇、藤原定子、藤原彰子の人間的な魅力でした。特に、一条天皇と定子の純愛については力を入れて書かれています。
一条天皇は学問に優れ、人間的にも立派な人物であったこと、そしてその一条天皇の魅力にさらにみがきをかけたのが定子との愛情であったことが繰り返し語られています。定子は話題豊富で、明るくユーモラスな性格の女性でした。一緒にいて楽しい女性だったのでしょうね。そんな定子に、一条天皇が深い愛情を感じたことはごく自然なことだったのかもしれません。
定子の実家、中関白家が没落してからも、一条天皇は定子に変わらぬ愛情を注ぎ、必死に守り抜こうとします。二人の純愛には胸を打たれます。
一方彰子は、定子の崩御の1年前に入内したのですが、12歳という幼さのため、権力者道長の娘という立場がかえって痛ましく感じました。しかし、何もわからないお人形で終わらなかったところが彰子のすばらしいところです。
彰子が紫式部に漢籍の講義を頼んだ本当の理由は、漢籍を学ぶことによって一条天皇の話し相手になりたい、そして、一条天皇の真の后になりたいという願いからだった…と、この本に書かれていましたが、私も同感です。彰子の一人目の子、敦成親王は、一条天皇が「道長との融和のため、何としてでも彰子を身ごもらせなくては」という必要に迫られてできた子であるのに対し、二人目の子である敦良親王は、二人の真の愛情によってできた子でした。しかし、それでも一条天皇が最も愛した女性はやはり定子であり、彼の辞世の句は定子に捧げられたものだったようです。
その他、清少納言や紫式部も登場します。清少納言と定子は、信頼し合った友人同士という関係だったのに対し、紫式部と彰子は、「頼りない中宮さまを守ってあげなくては」という関係だったというのも面白いです。
また、一条天皇が崩御したあとの彰子、清少納言、紫式部にも触れられていました。彰子が権力を持った立派な后になっていく姿には感動します。
このように、各人物の性格や行動が具体的に描かれていますので入りやすい本だと思います。「源氏物語」は知っているけれど、物語の書かれた時代のことはよく知らないという方には入門書として最適です。もちろん、この時代や人物のファンの方にも、新しい発見がたくさんある本だと思います。お薦めです。
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