平安夢柔話

いらっしゃいませ(^^)
管理人えりかの趣味のページ。歴史・平安文学・旅行記・音楽、日常などについて書いています。

百人一首の作者たち

2007-10-30 14:28:11 | 図書室2
 今回は、百人一首関連の本の紹介です。

百人一首の作者たち(角川ソフィア文庫)
 著者=目崎徳衞 価格=700円 発行=角川学芸出版

内容
激情型の小野篁、女好きな在原業平、何ごとにも秀でた大納言公任、単純な陽成院…。王朝時代を彩る百人一首の作者たちは百人百様だ。王朝和歌の碩学が、『古今集』『後撰集』『大鏡』などに描かれる人間模様や史実、説話を読み解きながら、作者の新たな魅力を紹介。歌だけではうかがい知れない、百人一首の雅な世界へと誘う。作者の心に触れ、百人一首をより深く味わうエッセイ。

[目次]
 序章 王朝文化の系譜―百人一首とはいかなるものか
 1章 万葉歌人の変貌―人間化と神化と
 2章 敗北の帝王―陽成院・三条院・崇徳院
 3章 賜姓王氏の運命―良岑父子と在原兄弟
 4章 古代氏族の没落―小野氏と紀氏と
 5章 藤氏栄華のかげに―夭折の貴公子たち
 6章 訴嘆の歌と機智の歌―文人と女房の明暗
 7章 遁世者の数奇―能因より西行へ
 終章 定家と後鳥羽院―百人一首の成立


 この本は、著者の目崎先生のお言葉を借りると、「百人一首」の解説書ではなく、百人一首の作者たちの人間模様と、400年にわたる文化史を描いたものです。なので、特に奈良・平安時代の歴史に興味のある方は楽しく読める本だと思います。私も興味深く、楽しく読ませていただきました。

 特に私が興味を引かれたのは、2章と5章です。

 2章では、タイトルの通り陽成天皇、三条天皇、崇徳天皇について述べられていますが、もっとも紙数が裂かれているのは陽成天皇です。

 陽成天皇は藤原氏の謀略によって退位させられたこと、陽成天皇と宇多天皇の対立、更には陽成天皇の皇子元良親王の破天荒な生き方にも触れられています。元良親王と、宇多天皇の出家後の寵姫である藤原芳子(藤原時平女)の密通の話も興味深いです。

 5章では、文字通り藤原氏の人たちについて触れられています。

 「百人一首」の作者の藤原氏の人たちのうち、政界に君臨したのは藤原師輔と藤原忠通だけだという記述はなるほどと思いました。藤原伊尹も摂政になっていますが、2年足らずで世を去ってしまった上、子孫が不遇だったために数には入れなかったのだそうです。

 このように、藤原氏の百人一首の歌人には、不遇な人たちが多いとのこと。そしてその中で、左近衛中将という将来を期待された官職に昇りながらも、突然陸奥守に左遷されてしまった藤原実方の伝説に彩られた生涯について詳しく紹介されていました。

 この他にも、天智天皇が百人一首の冒頭におかれた理由、在原行平・業平兄弟のこと、記氏や大江氏などの古代豪族の末裔歌人のこと、僧侶や女房たち、後鳥羽院と定家の関係と百人一首の成立事情など、興味深い論考が収められています。特に女房たちに関して、平安中期の女房たちの歌は生活の中で詠まれたもの、それに対して院政期の女房たちの歌は歌合わせで詠まれたものという記述は、その時代時代の女房たちの立場がわかって興味深く感じました。

 このようにこの本は、百人一首に興味のある方はもちろん、最初の方でも書きましたが奈良・平安時代の歴史に興味のある方にもお薦めの1冊だと思います。ご興味を持たれた方はぜひ手に取ってみて下さい。

☆トップページに戻る