平安夢柔話

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波のかたみ ー清盛の妻ー

2005-01-19 23:31:52 | 図書室3
 本日は本の紹介です。

 ☆波のかたみ ー清盛の妻ー
  著者・永井路子 発行・中央公論新社
  定価・永井路子歴史小説全集七=3466円
     文庫=940円(文庫版は限定復刊だそうですのでお早めに。)

題名の通り、清盛の妻、時子さんを主人公にした小説です。

 内容と感想を述べる前に、清盛と時子の系譜について簡単にお話ししますね。

 平安遷都を行った桓武天皇には、多くの皇子皇女がいました。そのうちのひとり、葛原親王の子息や孫達が「平」の姓を賜姓されて、臣籍に下ったわけです。このうち、平高棟(葛原親王男)は都で大納言にまで昇進しました。その子孫も公卿になったり、有能な実務官人を輩出して中級貴族になって活躍しています。平時子はこの高棟の子孫です。また、平高望(葛原親王孫 平高棟甥 高見王男)は関東に土着し、その子孫は武士として活躍することになります。平清盛はこの高望の子孫です。

系譜の説明はこのくらいにして、本の紹介に移らせていただきますね。

 この小説では、平家の栄華と没落を、時子の目を通して描かれています。つまり、清盛が保元の乱に出陣するところから始まり、時子が安徳天皇を抱いて壇之浦で入水するところで終わります。
 この小説での清盛は、貴族に気を遣い、後白河上皇に気を遣い……と、とにかく気配りのある人物に描かれています。そして、意外に思われるかもしれませんが、なかなかの愛妻家です。そんな清盛を陰で支えているのが時子です。
 しかし、時子が主役になるのは清盛の没後だと思いました。特に都落ちしてからは、平家の中心となって冷静に事を進めていきます。人間は、逆境になるとここまで強くなれるのだ……ということを感じさせられます。

 また、この小説で私が面白いなと思った人物は、時子の弟の時忠です。時子と時忠の妹滋子が、後白河上皇との間にもうけた皇子(のちの高倉天皇)を皇太子にしようとした時忠なのですが、失敗して出雲に流されていきます。その時、まるで物見遊山にでも出かけるようにして流されていくのです。都に返り咲いたあとは、「平家にあらずんば人にあらず」などという軽口をたたきますし…。野心家なのですが、ちょっとおっちょこちょいなところが人間味あっていいなと思います。
 それから、都落ちした平家の公達は寿永二年八月六日に官位を剥奪されてしまうのですが、唯一時忠だけは剥奪されませんでした。これは、どうしても安徳天皇と三種の神器を平氏の陣から取り戻したかった後白河上皇の意向のようです。時忠は高棟流平氏で、清盛の兄弟や子供達とは別系統だったので、後白河天皇も説得する相手としては適切だと考えたのでしょう。しかし時忠は、「都が平定されてからでないと、帝も神器も還御できない」という旨を書状に書き、後白河上皇の許に送ったので、同年八月十六日に官位を剥奪されてしまいます。しかし、説得の相手として後白河天皇に選ばれたことは血筋もあったのでしょうけれど、やはり一目置かれていたのかな……と思ってしまいます。

 この小説は、藤原兼実の日記「玉葉」や、藤原経房の日記「吉記」を参考にして書かれたのだそうです。なので、史実にかなり忠実だと思います。興味がございましたら、ぜひどうぞ♪私も久しぶりに再読してみようと思っています。