紫式部が探偵となって事件を解決するシリーズ、第3弾です。
☆望月のあと 覚書源氏物語『若菜』
著者=森谷明子 発行=東京創元社 価格=1890円
本の内容紹介
紫式部が物語に忍ばせた、栄華を極める道長への企みとは?平安の都は、盗賊やつけ火が横行し、乱れはじめていた。しかし、そんな世情を歯牙にもかけぬかのように「この世をばわが世とぞ思う…」と歌に詠んだ道長。紫式部は、道長と、道長が別邸にひそかに隠す謎の姫君になぞらえて『源氏物語』を書き綴るが、そこには時の大権力者に対する、紫式部の意外な知略が潜んでいた。
「千年の黙 異本源氏物語」「白の祝宴 逸文紫式部日記」に続くシリーズ第3弾。この小説では、寛弘八年(1011)から寛仁三年(1019)までの出来事が物語られています。
前半は、一条天皇崩御と三条天皇即位を背景に、道長が東三条殿の南殿に隠している謎の姫君を巡る物語、後半は三条天皇退位と一条天皇即位、それに続く敦明親王の東宮事態を背景に、都に頻発する貴族の邸宅や内裏への放火や強盗事件をミステリータッチで描いています。
細かいストーリーを書くとものすごいネタバレになりますので、今回は私の気づいたことや感想に移りますね。ただ、感想の中に一部ネタバレが含まれていますのでご注意を。
まず今作では、「白の祝宴」には登場しなかった承香殿の女御元子さまと、侍女の小侍従が物語の前半部分で登場します。元子さま、頼定さんに感化されたのか、すっかり明るい女性になっていて、「源氏物語」の熱狂的な愛読者になっていました。
そして元子さまと頼定さんの駆け落ちの背景に、道長が隠していた謎の姫君の存在があったと、この小説では描かれていました。
びっくりしたのは、その謎の姫君の出自です。
確かに、東宮時代の三条天皇の尚侍だった綏子が密通によって身ごもった子供がどうなったかは不明ですし、子供の父親が本当に頼定さんだったのかは今となっては謎なので、「ああ、こういう想像も出来るんだ~」と、目からうろこ状態でした。そして紫式部が、その姫君の幸福を願って「玉鬘十帖」を書いたというのも面白いなあと思いました。
後半部分には、修子内親王と敦康親王が登場してきます。「白の祝宴」では屈折したところがありましたが、2人とも立派に成長していました。
そしてもちろん、阿手木や義清、小仲、糸丸、ゆかりの君も登場します。特に糸丸が大活躍します。
後半部分では、内裏再建のために田舎から木材を運んできたり、その日の食べ物のために内裏や邸宅の建築に借り出される庶民たちの姿にスポットが当てられます。竹三条殿で修子内親王に仕える糸丸は、貴族たちと庶民たちのかけ橋のような役目をします。
藤原道長が栄華を極める蔭で、まるで道具のように軽く扱われ、惨めな思いをしていた庶民たちの姿があったのだと、改めてはっとさせられました。そして自分の思うように世の中を動かす道長さん、ああやっぱり、このシリーズでの道長さんは悪役です。特に今作では本当に腹黒という感じでした。
そして紫式部がそんな道長への皮肉を込めて、「若菜上」で光源氏が女三宮という、最高の身分、しかも藤坪の姪を妻にするという、栄華の極みを書き、「若菜下」でその栄華が一つ一つ消えていく物語を書いた、うん、そういう考えもできるのねとちょっと納得しました。
全体の感想。
今作も前の2作と同様、ストーリーに引き込まれ、楽しく読むことが出来ました。そして紫式部さん、さらに名探偵ぶりを発揮しています。
それからいい味出しているのが和泉式部。特に前半部分の謎の姫君を巡る物語では大きな鍵を握っていました。
この小説は寛仁三年、当時の太宰権帥の藤原隆家の家人である義清が、妻の阿手木を伴い、太宰府に到着するところで幕を下ろします。
寛仁三年の太宰府というと、刀伊の襲来を間近に控えた時期です。義清がどうなるかは「千年の黙」のラストで明かされているのでわかっているのですが、阿手木たちと一緒に太宰府に下った小仲は?阿手木たちと太宰府で再会した瑠璃とその夫はどうなるのか?著者のあとがきによると、このシリーズはまだ続くようです。次回作が楽しみです。
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☆望月のあと 覚書源氏物語『若菜』
著者=森谷明子 発行=東京創元社 価格=1890円
本の内容紹介
紫式部が物語に忍ばせた、栄華を極める道長への企みとは?平安の都は、盗賊やつけ火が横行し、乱れはじめていた。しかし、そんな世情を歯牙にもかけぬかのように「この世をばわが世とぞ思う…」と歌に詠んだ道長。紫式部は、道長と、道長が別邸にひそかに隠す謎の姫君になぞらえて『源氏物語』を書き綴るが、そこには時の大権力者に対する、紫式部の意外な知略が潜んでいた。
「千年の黙 異本源氏物語」「白の祝宴 逸文紫式部日記」に続くシリーズ第3弾。この小説では、寛弘八年(1011)から寛仁三年(1019)までの出来事が物語られています。
前半は、一条天皇崩御と三条天皇即位を背景に、道長が東三条殿の南殿に隠している謎の姫君を巡る物語、後半は三条天皇退位と一条天皇即位、それに続く敦明親王の東宮事態を背景に、都に頻発する貴族の邸宅や内裏への放火や強盗事件をミステリータッチで描いています。
細かいストーリーを書くとものすごいネタバレになりますので、今回は私の気づいたことや感想に移りますね。ただ、感想の中に一部ネタバレが含まれていますのでご注意を。
まず今作では、「白の祝宴」には登場しなかった承香殿の女御元子さまと、侍女の小侍従が物語の前半部分で登場します。元子さま、頼定さんに感化されたのか、すっかり明るい女性になっていて、「源氏物語」の熱狂的な愛読者になっていました。
そして元子さまと頼定さんの駆け落ちの背景に、道長が隠していた謎の姫君の存在があったと、この小説では描かれていました。
びっくりしたのは、その謎の姫君の出自です。
確かに、東宮時代の三条天皇の尚侍だった綏子が密通によって身ごもった子供がどうなったかは不明ですし、子供の父親が本当に頼定さんだったのかは今となっては謎なので、「ああ、こういう想像も出来るんだ~」と、目からうろこ状態でした。そして紫式部が、その姫君の幸福を願って「玉鬘十帖」を書いたというのも面白いなあと思いました。
後半部分には、修子内親王と敦康親王が登場してきます。「白の祝宴」では屈折したところがありましたが、2人とも立派に成長していました。
そしてもちろん、阿手木や義清、小仲、糸丸、ゆかりの君も登場します。特に糸丸が大活躍します。
後半部分では、内裏再建のために田舎から木材を運んできたり、その日の食べ物のために内裏や邸宅の建築に借り出される庶民たちの姿にスポットが当てられます。竹三条殿で修子内親王に仕える糸丸は、貴族たちと庶民たちのかけ橋のような役目をします。
藤原道長が栄華を極める蔭で、まるで道具のように軽く扱われ、惨めな思いをしていた庶民たちの姿があったのだと、改めてはっとさせられました。そして自分の思うように世の中を動かす道長さん、ああやっぱり、このシリーズでの道長さんは悪役です。特に今作では本当に腹黒という感じでした。
そして紫式部がそんな道長への皮肉を込めて、「若菜上」で光源氏が女三宮という、最高の身分、しかも藤坪の姪を妻にするという、栄華の極みを書き、「若菜下」でその栄華が一つ一つ消えていく物語を書いた、うん、そういう考えもできるのねとちょっと納得しました。
全体の感想。
今作も前の2作と同様、ストーリーに引き込まれ、楽しく読むことが出来ました。そして紫式部さん、さらに名探偵ぶりを発揮しています。
それからいい味出しているのが和泉式部。特に前半部分の謎の姫君を巡る物語では大きな鍵を握っていました。
この小説は寛仁三年、当時の太宰権帥の藤原隆家の家人である義清が、妻の阿手木を伴い、太宰府に到着するところで幕を下ろします。
寛仁三年の太宰府というと、刀伊の襲来を間近に控えた時期です。義清がどうなるかは「千年の黙」のラストで明かされているのでわかっているのですが、阿手木たちと一緒に太宰府に下った小仲は?阿手木たちと太宰府で再会した瑠璃とその夫はどうなるのか?著者のあとがきによると、このシリーズはまだ続くようです。次回作が楽しみです。
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