平安夢柔話

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小袖日記

2008-06-02 12:16:19 | 図書室3

          

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 今回は、最近読んだ異色の平安小説を紹介します。

☆小袖日記
 著者・柴田よしき 発行・文藝春秋 価格・1600円

本の内容紹介
 不倫に破れて自暴自棄になっていたあたしは、平安時代にタイムスリップし、『源氏物語』を執筆中の香子さまの片腕として働くことに…。平安の世も、現代も、女は哀しくて強い―。「夕顔」「末摘花」「葵」「明石」「若紫」をめぐる物語。


 この小説を歴史・時代小説に入れるのは異論があるかもしれませんが、一応、平安時代が舞台であり、「源氏物語」をあつかっているので、ここで紹介することにしました。

 主人公は現代の京都に住む29歳のOLの「あたし」です。会社の上司との不倫に破れ、自暴自棄になり、「死んでやる!」と思った「あたし」は、ふとしたことから平安時代にタイムスリップしてしまいます。そして、小袖という名の17歳の少女の体内に入ってしまうのです。
 そんな「あたし」に目をかけてくれるのが「源氏物語」を執筆中の香子さま(紫式部)。そこで「あたし」は、香子さまのアシスタント役となり、「源氏物語」のモデルになりそうな女性たちのもとに取材に行き、物語のネタを提供していく…というのが、この小説のストーリーです。

 この小説を読み始めたところ、平安時代の歴史が好きな私としては「あれ?」と思う点が所々ありました。彰子が中宮だった時代の左大臣は藤原道長のはずなのに、道長はすでに太政大臣、左大臣と右大臣は別に登場し、それが歴史上の人物たちとはまるで関係ない人のようなのです。左大臣の息子なども登場しますが、当然、歴史上の人物に該当する人が見あたりませんでした。

 ただ、夕顔のモデルになった女性の恋人であり、光源氏のモデルであるらしい胡蝶の君という人物は、天皇家の血を引いていることなどから具平親王なのかな?と思いましたが、物語が進むにつれ、そうではないらしいとわかります。そして、「あたし」がタイムスリップをしてきた平安時代は現代よりも重力が小さい、つまり現代とはつながっていないらしいと実感する、すなわちこの小説は史実の平安時代を描いているのではなく、完全なフィクションなのです。そう思うと道長が左大臣でないことも妙に納得しました。

 それはともかく、現代の女性が突然、平安時代にタイムスリップした事への驚きやとまどいが面白かったです。周りはみんなおかめ顔、そして独特のにおいがします。食事は質素で、「スイーツが食べたい」と思ってもそんなものは平安時代にはない、そのため「あたし」は唐菓子をいつもふところに入れています。
 用事をしながらついつい小柳ゆきのバラードを口ずさんでいると、突然香子さまが忍びより、「悪霊がついた」と大騒ぎ、たちまち加持祈祷が始まってしまいます。確かに、平安時代の人たちにとっては、今の流行歌は奇妙に聞こえるのだろうなあ。「平安時代のメインストリートは今の千本通り、つまり平安京の中心地は今の市街地よりも西にずれている感じ」など、平安京と今の京都の地理を対比させる描写も興味深く感じました。

 でも、この小説の読みどころはやっぱり、著者による「源氏物語」の新しい解釈がストーリーに盛り込まれているところだと思います。「こんな解釈ができるんだ~」とうならされます。夕顔や葵の上の死の原因など、「そういうのもありかもしれない」と納得しました。そして、千年経っても変わらない女性の哀しみや強さ、男性のエゴ、さらには男女の愛の不可思議さも描かれています。「源氏物語」と同じく、魅力的な女性も登場します。特に、六条御息所のモデルとなった女性が素敵でした。

 そして最大のクライマックスは、「あたし」が現代に戻れるかどうかということですが、「あたし」はある日、小紫という、紫の上のモデルになり得るような少女と出会い、思いがけない話を聞かされることになります。それがどんな話かはネタ晴れになるのでここには書きませんが、小説のラストはとてもさわやかでした。「辛いことがあっても自分の人生を強くたくましく生きなくちゃ」という気持ちになります。切ないけれどさわやかな風が吹いている、この小説はそんな一編です。

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