平安夢柔話

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千年の黙 異本源氏物語

2013-04-18 10:34:00 | 図書室3
 今回は、源氏物語と紫式部を題材にした小説の紹介です。

☆千年の黙 異本源氏物語
 著者=森谷明子 発行=東京創元社(創元推理文庫) 価格=987円

☆出版社による本の内容紹介
 帝ご寵愛の猫はどこへ消えた?出産のため宮中を退出する中宮定子に同行した猫は、清少納言が牛車に繋いでおいたにもかかわらず、いつの間にか消え失せていた。帝を虜り左大臣藤原道長は大捜索の指令を出すが―。気鋭が紫式部を探偵役に据え、平安の世に生きる女性たち、そして彼女たちを取り巻く謎とその解決を鮮やかに描き上げた絢爛たる王朝推理絵巻。鮎川哲也賞受賞作。

☆目次
 第一部 上にさぶらふ御猫 長保元年
 第二部 かかやくひの宮 寛弘二年
 第三部 雲隠 調和二年~寛仁四年

*この本は、2003年に単行本が刊行され、その後文庫化されました。現在は文庫のみ入手可能です。
 なお私は単行本の方を読みました。最後の方にも書きますが、単行本と文庫版では、人物明や表記に違いがあるそうです。私は、文庫版は未読ですので、単行本に沿って内容や感想を書かせていただきます。ご了承下さいませ。

 紫式部や夫の宣孝、女房のあてきが探偵役となり、定子中宮のもとからいなくなってしまった猫や、彰子中宮に献上した「源氏物語」の中から、なくなってしまった「かかやくひの宮」の巻を探すという、王朝ミステリーです。

*以下、ネタばれがあります。ご注意を…。

 第一部のさわりのストーリーです。

 出産のため平生昌の邸に行啓された定子中宮のもとから、主上(一条天皇)寵愛の猫の命婦がいなくなり、それから程なくして、主上への入内を控えていた左大臣道長の娘、彰子のもとからも猫がいなくなってしまいます。

 そこで探索を命じられたのが紫式部(その頃は宮仕えに出ていないので藤原香子さまなのですが、便宜的に紫式部で通させていただきます。なおこの小説では、彼女に使える女童の視点で物語が展開する場面が多いので御あるじと記してありましたが)の夫、藤原宣孝でした。そして、紫式部とその女童、あてきも捜査に協力することになるのです。

 そんなある日、あてきは内裏の近くで、猫を抱いて雨宿りをしていた承香殿の女御、藤原元子さまに使える女童、いぬきという少女と出会います。猫の処分に困っていたいぬきをみて、あてきは猫を紫式部の邸にこっそり持ち帰るのですが、さて…。

 感想。「枕草子」にもあるように、平生昌の邸の門は小さく、車が門を通ることが出来ず、女房たちは車を降り、邸まで歩かなければならなかったのですよね。なので門に入れなかった車がその後どうなったのかという、この小説の視点はとてもユニークに感じました。確かに誰かが「ちょっと拝借」と思って、こっそり使ってしまったかも。

 第二部のストーリーのさわりです。

 猫の事件から6年後、宣孝はすでに世を去っています。

 源氏物語「桐壺」「かかやくひの宮」「若紫」「紅葉賀」「花宴」「葵」「榊」「花散里」「須磨」「明石」「澪標」の11帖を書き上げた紫式部は、主上の中宮となっている彰子さまに物語を献上します。そして、彰子さまの女房5人が物語を写本し、物語は都中に広まっていきます。

 ところが、物語を読んだ人たちから、「物語のつじつまが合わない」という感想が紫式部のもとに寄せられます。
 不審に思ったあてき改め小少将は探索に乗り出します。そしてどうやら、「かかやくひの宮」の巻がなくなってしまったということに気がつきます。

 一方、いぬき改め小侍従は、主人の元子さまの住む堀河殿にて、元子さまの母の月命日の夜になると笛の音が聞こえるのに不審を抱き、小少将に相談するのですが…。

 感想。「源氏物語」のうち、空蝉や夕顔・末摘花、玉鬘の出てくる巻はあとから書かれたという、この小説の下敷きになっている説は興味深いなあと私は前から思っていました。
 そして、「桐壺」と「若紫」との間にもう一つ、巻が存在したという説も興味深いです。もし存在していたら私も読んでみたいです。
 確かに印刷機がなかったこの時代、書き写す仮定で移し間違ったり、巻きを一帖隠したりして、物語が作者の手を離れ、だんだん違った物に作り替えられてしまうということはあったかもしれませんよね。

 第三部のストーリーのさわりです。

 第三部は第二部の後日談と言えると思います。紫式部が「雲隠」という巻を書き始めるのですが、それを道長の前で燃やしてしまう場面と、小少将が紫式部の娘、賢子と無量寿院で再会する場面が中心となっています。

 感想。実は、この小説の道長は悪役です。なので永井路子さんの小説「この世をば」の影響で道長のファンになってしまった私には少し読むのが辛い部分がありました。でも、「これも権力者道長の一面なのだ」と思って読みました。悪役になるってことはそれだけ魅力があるということですものね。それに私は紫式部も大好きですので。

 紫式部は反道長派の実資と彰子を結びつける役をしたことから道長に疎まれ、宮中を追われたと書いてある本もありましたが、この小説では「雲隠」を焼くことで道長に復讐し、自ら宮中を去っていきます。その潔さにはちょっと胸がすかっとしました。

 全体の感想ですが、猫がいなくなったり本がなくなったりするという、身近にも起こりそうな題材をミステリーに仕立ててありますが、ストーリーにぐんぐん引き込まれ、楽しく読むことが出来ました。
 また、定子中宮の行啓や彰子の入内を物語の背景にしたりなど、時代考証もしっかりしていて、その点でも楽しめました。

 登場する歴史上の人物も、紫式部や道長、彰子はもちろん、清少納言、平惟仲、藤原元子、藤原実資など、バラエティーに富んでいます。紫式部は明るくて行動的、彰子は頭が良くて心の優しい女性で魅力的でした。
 ほんのちょっとですが、具平親王が出てきたのには驚きました。具平親王は、同時代を扱った他の小説では名前や噂話で登場するだけなのに、この小説ではしゃべって動いています。嬉しかったです。

(付記)
 最初の方でも書きましたが、私の読んだ単行本と、現在入手可能の文庫版では、人物名や表記に違いがあるそうです。

 この小説の姉妹編の「白の祝宴 逸文紫式部日記」のあとがきによりますと、小少将という名前の女房が、彰子中宮の女房に実在するところから、文庫版では紫式部の女房、、小少将は女童時代は「あてき」、成人してからは「阿手木」と記述されているそうです。
 なお「白の祝宴」も最近読みましたので、こちらで紹介したいと考えています。

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