漢方薬剤師の日々・自然の恵みと共に

漢方家ファインエンドー薬局(千葉県)
http://kampo.no.coocan.jp/

時が滲む朝・楊逸(ヤンイー)覚書

2008-09-02 | 
在日20年の中国人女性楊逸(ヤンイー)さんが今年の芥川賞を受賞した。
芥川賞と言えば日本の純文学の新人賞だ。
どんな文章なんだろうと期待いっぱいで全文掲載の「文芸春秋」を購入した。

読んでみると、はっきり言ってしまうが、
中国人と話しているような気分になる。比喩表現がしばしば中国語発想のせいだからだろう。
だけど日本は中国の漢字をつかって今の言葉を作ってきたのだから、中国表現が本家本元とも言える。それにしてもこの文章に芥川賞を与えたのはかなりの勇気だ。

しかしその中身には、大きな時代の流れを十分に感じることができる。

1990頃、中国では民主化を目指した若者たちの運動がおこった。その純真な気持ちは現代の日本では奇異にさえ感じる。
国を立て直すという誇り高い理想を掲げて集会に没頭する大学生と、食べていくことだけで精いっぱいな町の人々とのギャップも切実だ。
活動のリーダーとしてほとんど家に帰ることのなかった甘先生に、母親が病死したことを知らせる息子の手紙の中、
「妻も息子も省みることができない、そんな人は国を愛せるだろうか」
というセリフは、胸が痛む。

難しいなあ。
きっと妻や子を振り返っていたら国をひっくり返すことはたぶんできないんだろうとも思う。
たとえば今人気の東国原知事もあの状態では、家庭は無理だと思うもの・・・

尾崎豊の「I love you」やテレサテンの歌が登場して当時を身近に感じさせてくれる。

ところでまた、はっきり言ってしまうが、
この小説よりずっとおもしろかったのが、彼女の生い立ちを語ったインタビュー記事だ。

共産党の指示で住む所や仕事はその日に言われてその日にでも変えさせられるそうだが、中国だけでなく日本へ来てからもその人生はまさに波乱万丈だ。

「あなたみたいな人生、私だったらとっくに自殺してる」と日本人に言われたそうだ。

これに対して楊逸さんの答え。
「日本人は生真面目、物事を深刻にとらえ過ぎる」とあっけらかんとしているのは、やはり広大な中国大陸ではぐくまれるものなのだろうか。

これから、もっともっと書いてほしい。