漢方薬剤師の日々・自然の恵みと共に

漢方家ファインエンドー薬局(千葉県)
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森絵都「いつかパラソルの下で」覚書

2010-02-08 | 
「いつか浜辺のパラソルの下で、気分よくビールを一杯やりたい」
っていう主人公「野々」のセリフが題名になっています。

超厳格な父親が事故でぽっくり死んだ。
残された主人公「野々」と妹、兄そして母親の、新しいスタートを切るまでの「あがき」を描いた作品です。

超厳格さに苦しめられ続けたと思っていたのに、そんな父親に死後、浮気の事実が発覚。

そりゃ、裏切られたと思うよね。
だって、父親の超厳格さのせいで、自分の人生こんなになっちゃってる、
って思いながら、家族それぞれが暮らしてたんだから。
母親のすっかり力の抜けてしまった生活がリアル。
子供たちにしても、身の置き所もない。

      
親が死んでやっと、親を一人の人間としてとらえてみる。
そして、な~んだ親父もひとりのふつうの人間だったんだ、と思う。
と同時に、これまで父親のせいにしていた自分の人生を、どうしようと戸惑う。

いくつになっても誰かのせいにしながら、自分の弱いところを正当化している。
そうかもしれない、でもわかっちゃいても、甘えグセはなかなか変えられないもんです。

      
以下、本文からの書き出しです。

『・・・自分のダメなところから目を逸らすための言い訳。たとえば、
ストイックすぎる親に育てられるとこうなるんだって、心のどこかで
居直ってたんだ。ほんとは自分に自信がないだけなのに』

『人は等しく孤独で、人生は泥沼だ。愛しても愛しても愛されなかったり、
受け入れても受け入れても受け入れられなかったり。それが生きるとい
うことで、命ある限り、誰もそこから逃れることはできない』

『めったに顔を合わせない間柄でも会えば会ったで各自がすんなりと
本来のポジションへ収まる。おのおのの血が役割を記憶している』

『誰だって親には恨みの一つもあるけど忘れたふりしてるんだ、親が老いて
弱っちくなるのを見てしょうがなく許すんだ、それができないでこれからの
高齢化社会をどうすんだ、みみっちいトラウマふりかざして威張ってるん
じゃねえ』
森絵都さん、こういうセリフをするっと書いちゃうところが、好きだなあ。