1997年10号の雑誌「科学」で「原発震災」という概念を初めて提唱したのは、現神戸大学名誉教授石橋克彦です。
今年の「世界」5月号の中で、次の様に書いている。『「原発震災」とは、地震によって原発の大事故と大量の放射能放出が生じて、通常の震災と放射能災害が複合・増幅し合う破局的災害である。それが本格的な場合、震災地の救援・復旧が強い放射能のために不可能になるとともに、原発の事故の処理や住民の放射能からの避難も地震被害の為困難を極めて、無数の命が見捨てられ、震災地が放棄される』と。
今福島第一原発を中心に生じている事象は、「原発震災」近似の事態です。あるシステムに関し、最悪の事態を想定し、それを回避すべきだとする説・理論と、このシステムは絶対に安全であるとする説・理論が対立する中で、システムが安全でなかった事を事実が証明してしまった以上、私は、まず警告を発して来た側の理論から理解しよう考え、この「原発震災」に目が行きました。
石橋克彦教授の活動のほんの一部を書き連ねます。
1994年の著作「大地動乱の時代」(岩波新書)を読みました。その著作の中で、過去に日本列島で発生した多くの地震動を分析した結果『日本列島は20世紀末から21世紀初め以降には首都圏直下大地震の活動期がやってくる』ことを説きました。
又2005年の予算委員会公聴会でも『日本列島はほぼ全域で大地震の活動期に入りつつある、と殆どの地震学者が共通に考えている』と述べ、原発震災の恐ろしにも言及しています。
2011年の公聴会では『東京電力は、基準地震動を1000ガル(ガルは地震波の加速度の単位)にまで引きあげる補強工事をしたから、原子炉の地震に対しての安全は十分であると述べているが、2007年に柏崎刈羽原子炉を襲った新潟県中越沖地震のときは、1号機の真下では1699ガルを記録し、今後もそのレベルの地震が起こる可能性は十分にある。
又1854年に起こった東海安政地震の際は、東海地方では2m~3m隆起した土地がある。今後予想される東海地震でもそのレベルの隆起は当然予想され、そうなったとき原子炉内各施設の隆起度の違いによって、原子炉は津波が来る前に地震によって破壊される可能性がある』と述べていました。
そして今年の5月号「世界」で『最低でも浜岡原発、若狭湾の古い原発は早急に閉鎖すべきである』と書いてます。
私たちは日常実感するように、世界でも有数の、地震頻発地帯の上に住んでいます。その頻発する地震の中で、国の定めた安全基準を上回る地震が過去に起こった事実を考えると、不安は増大します。中期・長期戦略としても原発からの総退却を開始すべきときが到来し、総退却を前提として、今後のエネルギー問題・生活様式の在り方などへの英知を集めるのがベストかと思います。