6月13日(月)に出掛けた、新橋演舞場六月大歌舞伎夜の部の演目は次の三つ。
一 吹雪峠
二 夏祭浪花鑑
三 色彩間苅豆(いろもようちょっとかりまめ)かさね
二は、団七九郎兵衛を吉右衛門が、一寸徳兵衛を仁左衛門が演じ、夜の部はこの看板役者二人が目玉ですが、私には吹雪峠と色彩間苅豆が、殊の外、分かりやすく面白かった。(右:吉右衛門 左:仁左衛門)
吹雪峠は新作歌舞伎で、直吉を染五郎、助蔵を愛之助、おえんを孝太郎と、若手3人が演じます。幕が開け、周り舞台が姿を現すと、荒れ狂う吹雪の中、必死の思いで峠の山小屋に辿り着く二人の男女、助蔵とおえん。
実はおえんは、助蔵の兄貴分直吉の女房でしたが、助蔵と密通を重ねる仲となり、駆け落ちの逃避行の最中なのでした。暖を取る二人の前に、偶然にも直吉が現れます。ひたすら詫びる二人を許す直吉。おえんが、咳がむせ薬が飲めない助蔵に口移しで薬を飲ませるなど、仲睦まじい二人の姿を目の当たりにして、嫉妬心からか耐えられなくなり、殺気立った形相の直吉は「許した俺の気持ちに免じて、ここを出ていけ」と怒鳴ります。
二人は已む無く猛吹雪の外へ転がり出ますが、耐えきれず直吉の居る小屋に舞い戻り、刀を抜いた直吉に二人は銘々に命乞いを始めます。最後には死の恐怖から、自我を剥き出しにして、互いに罵り合しあう始末。固く結ばれていたかに見えた二人の、瞬時に激変する姿。直吉は小屋を飛び出し、小屋には二人が残されますが・・・。ここで幕。その後二人にはどんな世界・会話が待っているのかと。ここからは観たものの想像の世界です。
小説家や映画なら、山小屋でのあまりの偶然の出会いに白けてしまいそうですが、偶然に出会ってしまった場面設定のなかでの、3人の心理の変化の表現こそが歌舞伎の見せ場だと知ります。前から14列目で、表情の変化が確とは読み取れませんが、十分に伝わってくる雰囲気。3人の心境に合わせるかの様な音響と照明の効果。見応えある出来栄えでした。