(続き)
3)強制起訴に関する法手続上の問題点
①検察官以外の公訴
基本的な大原則として、検察官の独占的公訴権がある。
▼刑事訴訟法 第二百四十七条
公訴は、検察官がこれを行う。
検察審査会には「公訴権」は存在していない。刑事訴訟法上には、検察審査会による公訴権限の規定は存在していないからである。
検察官による公訴以外については、例外規定が刑事訴訟法に設けられている。
▼刑事訴訟法 第二百六十二条
刑法第百九十三条から第百九十六条まで又は破壊活動防止法(昭和二十七年法律第二百四十号)第四十五条若しくは無差別大量殺人行為を行った団体の規制に関する法律(平成十一年法律第百四十七号)第四十二条若しくは第四十三条の罪について告訴又は告発をした者は、検察官の公訴を提起しない処分に不服があるときは、その検察官所属の検察庁の所在地を管轄する地方裁判所に事件を裁判所の審判に付することを請求することができる。
例えば刑法194条の特別公務員職権濫用罪や195条の特別公務員暴行陵虐罪(先日のこ告訴が報じられた)について、検察官が不起訴としたような場合に「身内だから庇ったんだろう」というような疑いを向けられないとも限らないわけである。
そうすると、この262条規定によって公訴提起しなかったという処分に対する不服を申立てることができ、地方裁判所の審判請求で公訴するかどうかを決めてもらう、という手続きをとるわけである。この規定で公訴が発動される場合があり、それは、やはり刑事訴訟法の規定による。
▼刑事訴訟法 第二百六十六条
裁判所は、第二百六十二条第一項の請求を受けたときは、左の区別に従い、決定をしなければならない。
一 請求が法令上の方式に違反し、若しくは請求権の消滅後にされたものであるとき、又は請求が理由のないときは、請求を棄却する。
二 請求が理由のあるときは、事件を管轄地方裁判所の審判に付する。
▼刑事訴訟法 第二百六十七条
前条第二号の決定があつたときは、その事件について公訴の提起があつたものとみなす。
このように、「公訴提起があったものとみなす」場合には、刑事訴訟法上での規定が定められているわけである。これが検察官以外の公訴権についての例外、ということであって、検察審査会の議決については「公訴提起があったものとみなす」とは書かれていない。
②「刑訴法266条第二号」による公訴は検察審査会と類似
前項で述べた「刑訴法第266条第二号」の決定が裁判所で行われた場合には、同267条により自動的に公訴提起となり、この検察官役を弁護士から指定する、という仕組みになっている。これは、検察審査会の強制起訴の場合と、ほぼ同様のものである。
▼刑事訴訟法 第二百六十八条
裁判所は、第二百六十六条第二号の規定により事件がその裁判所の審判に付されたときは、その事件について公訴の維持にあたる者を弁護士の中から指定しなければならない。
○2 前項の指定を受けた弁護士は、事件について公訴を維持するため、裁判の確定に至るまで検察官の職務を行う。但し、検察事務官及び司法警察職員に対する捜査の指揮は、検察官に嘱託してこれをしなければならない。
○3 前項の規定により検察官の職務を行う弁護士は、これを法令により公務に従事する職員とみなす。
(以下略)
条文を比べてみる。
▼検察審査会法 第四十一条の九
第四十一条の七第三項の規定による議決書の謄本の送付があつたときは、裁判所は、起訴議決に係る事件について公訴の提起及びその維持に当たる者を弁護士の中から指定しなければならない。
○2 前項の場合において、議決書の謄本の送付を受けた地方裁判所が第四十一条の七第三項ただし書に規定する地方裁判所に該当するものではなかつたときも、前項の規定により裁判所がした指定は、その効力を失わない。
○3 指定弁護士(第一項の指定を受けた弁護士及び第四十一条の十一第二項の指定を受けた弁護士をいう。以下同じ。)は、起訴議決に係る事件について、次条の規定により公訴を提起し、及びその公訴の維持をするため、検察官の職務を行う。ただし、検察事務官及び司法警察職員に対する捜査の指揮は、検察官に嘱託してこれをしなければならない。
○4 第一項の裁判所は、公訴の提起前において、指定弁護士がその職務を行うに適さないと認めるときその他特別の事情があるときは、いつでもその指定を取り消すことができる。
○5 指定弁護士は、これを法令により公務に従事する職員とみなす。
○6 指定弁護士には、政令で定める額の手当を給する。
制度としては似ているが、検察審査会の強制起訴については、刑訴法266条第2号のような刑訴法上の特例としての扱いにはなっていないのである。また、裁判所が決定を下すのと、一般人のみの構成からなる検察審査会が議決を出すのは、当然意味合いが異なっている。
③「刑訴法266条第二号」のみなし公訴に関する法の支配
請求は裁判所に出され、裁判所が決定を下すものだ。裁判所は、裁判所法に支配されており、上級組織である最高裁判所の指揮監督も当然受けることになる。また、刑訴法に基づく刑事事件の手続きであって、最高裁判所規則の適用も受けるわけである。
▼最高裁判所規則 第百七十四条
法第二百六十六条第二号の決定をするには、裁判書に起訴状に記載すべき事項を記載しなければならない。
2 前項の決定の謄本は、検察官及び被疑者にもこれを送達しなければならない。
▼最高裁判所規則 第百七十五条
裁判所は、法第二百六十六条第二号の決定をした場合には、速やかに次に掲げる処分をしなければならない。
一 事件をその裁判所の審判に付したときは、裁判書を除いて、書類及び証拠物を事件について公訴の維持にあたる弁護士に送付する。
二 事件を他の裁判所の審判に付したときは、裁判書をその裁判所に、書類及び証拠物を事件について公訴の維持にあたる弁護士に送付する。
また、最高裁判所というのは、最高裁判事が国民審査の対象となっていることから、間接的には国民の監視監督を受けている、という制度になっているわけである。
つまり、このみなし公訴というのは、刑訴法、裁判所法、最高裁規則、などで支配されており、国民からの監督は最高裁を通じて間接的に効いている、ということになっているわけである。
④検察審査会の強制起訴はどのような支配を受けているのか
そもそも、検察審査会議決による公訴提起については、刑訴法上では規定がない。最高裁規則にもない。組織としての指揮命令については、前記1)及び2)から、行政組織でなく、司法組織の一部のようではあるけれども、最高裁の指揮命令権が及んでいるとも言えない。検察審査会法には、そのような規定が存在しないからである。更に、裁判所法にも規定がない為、法文上では全くの「自主独立機関」に近いように見受けられる。
指揮命令は前述した検察審査会法20条第四項の通りに、「検察審査会長」ということになっており、この会長は互選であるから、上位機関からの指揮命令は効いていない、というふうに解釈せざるを得ないのである。そうすると、間接的にも国民からの統制は及ばない組織、ということになり、指揮監督権が独立した存在ということになってしまうのである。
唯一あるのは、検察審査会法、である。
(続く)
3)強制起訴に関する法手続上の問題点
①検察官以外の公訴
基本的な大原則として、検察官の独占的公訴権がある。
▼刑事訴訟法 第二百四十七条
公訴は、検察官がこれを行う。
検察審査会には「公訴権」は存在していない。刑事訴訟法上には、検察審査会による公訴権限の規定は存在していないからである。
検察官による公訴以外については、例外規定が刑事訴訟法に設けられている。
▼刑事訴訟法 第二百六十二条
刑法第百九十三条から第百九十六条まで又は破壊活動防止法(昭和二十七年法律第二百四十号)第四十五条若しくは無差別大量殺人行為を行った団体の規制に関する法律(平成十一年法律第百四十七号)第四十二条若しくは第四十三条の罪について告訴又は告発をした者は、検察官の公訴を提起しない処分に不服があるときは、その検察官所属の検察庁の所在地を管轄する地方裁判所に事件を裁判所の審判に付することを請求することができる。
例えば刑法194条の特別公務員職権濫用罪や195条の特別公務員暴行陵虐罪(先日のこ告訴が報じられた)について、検察官が不起訴としたような場合に「身内だから庇ったんだろう」というような疑いを向けられないとも限らないわけである。
そうすると、この262条規定によって公訴提起しなかったという処分に対する不服を申立てることができ、地方裁判所の審判請求で公訴するかどうかを決めてもらう、という手続きをとるわけである。この規定で公訴が発動される場合があり、それは、やはり刑事訴訟法の規定による。
▼刑事訴訟法 第二百六十六条
裁判所は、第二百六十二条第一項の請求を受けたときは、左の区別に従い、決定をしなければならない。
一 請求が法令上の方式に違反し、若しくは請求権の消滅後にされたものであるとき、又は請求が理由のないときは、請求を棄却する。
二 請求が理由のあるときは、事件を管轄地方裁判所の審判に付する。
▼刑事訴訟法 第二百六十七条
前条第二号の決定があつたときは、その事件について公訴の提起があつたものとみなす。
このように、「公訴提起があったものとみなす」場合には、刑事訴訟法上での規定が定められているわけである。これが検察官以外の公訴権についての例外、ということであって、検察審査会の議決については「公訴提起があったものとみなす」とは書かれていない。
②「刑訴法266条第二号」による公訴は検察審査会と類似
前項で述べた「刑訴法第266条第二号」の決定が裁判所で行われた場合には、同267条により自動的に公訴提起となり、この検察官役を弁護士から指定する、という仕組みになっている。これは、検察審査会の強制起訴の場合と、ほぼ同様のものである。
▼刑事訴訟法 第二百六十八条
裁判所は、第二百六十六条第二号の規定により事件がその裁判所の審判に付されたときは、その事件について公訴の維持にあたる者を弁護士の中から指定しなければならない。
○2 前項の指定を受けた弁護士は、事件について公訴を維持するため、裁判の確定に至るまで検察官の職務を行う。但し、検察事務官及び司法警察職員に対する捜査の指揮は、検察官に嘱託してこれをしなければならない。
○3 前項の規定により検察官の職務を行う弁護士は、これを法令により公務に従事する職員とみなす。
(以下略)
条文を比べてみる。
▼検察審査会法 第四十一条の九
第四十一条の七第三項の規定による議決書の謄本の送付があつたときは、裁判所は、起訴議決に係る事件について公訴の提起及びその維持に当たる者を弁護士の中から指定しなければならない。
○2 前項の場合において、議決書の謄本の送付を受けた地方裁判所が第四十一条の七第三項ただし書に規定する地方裁判所に該当するものではなかつたときも、前項の規定により裁判所がした指定は、その効力を失わない。
○3 指定弁護士(第一項の指定を受けた弁護士及び第四十一条の十一第二項の指定を受けた弁護士をいう。以下同じ。)は、起訴議決に係る事件について、次条の規定により公訴を提起し、及びその公訴の維持をするため、検察官の職務を行う。ただし、検察事務官及び司法警察職員に対する捜査の指揮は、検察官に嘱託してこれをしなければならない。
○4 第一項の裁判所は、公訴の提起前において、指定弁護士がその職務を行うに適さないと認めるときその他特別の事情があるときは、いつでもその指定を取り消すことができる。
○5 指定弁護士は、これを法令により公務に従事する職員とみなす。
○6 指定弁護士には、政令で定める額の手当を給する。
制度としては似ているが、検察審査会の強制起訴については、刑訴法266条第2号のような刑訴法上の特例としての扱いにはなっていないのである。また、裁判所が決定を下すのと、一般人のみの構成からなる検察審査会が議決を出すのは、当然意味合いが異なっている。
③「刑訴法266条第二号」のみなし公訴に関する法の支配
請求は裁判所に出され、裁判所が決定を下すものだ。裁判所は、裁判所法に支配されており、上級組織である最高裁判所の指揮監督も当然受けることになる。また、刑訴法に基づく刑事事件の手続きであって、最高裁判所規則の適用も受けるわけである。
▼最高裁判所規則 第百七十四条
法第二百六十六条第二号の決定をするには、裁判書に起訴状に記載すべき事項を記載しなければならない。
2 前項の決定の謄本は、検察官及び被疑者にもこれを送達しなければならない。
▼最高裁判所規則 第百七十五条
裁判所は、法第二百六十六条第二号の決定をした場合には、速やかに次に掲げる処分をしなければならない。
一 事件をその裁判所の審判に付したときは、裁判書を除いて、書類及び証拠物を事件について公訴の維持にあたる弁護士に送付する。
二 事件を他の裁判所の審判に付したときは、裁判書をその裁判所に、書類及び証拠物を事件について公訴の維持にあたる弁護士に送付する。
また、最高裁判所というのは、最高裁判事が国民審査の対象となっていることから、間接的には国民の監視監督を受けている、という制度になっているわけである。
つまり、このみなし公訴というのは、刑訴法、裁判所法、最高裁規則、などで支配されており、国民からの監督は最高裁を通じて間接的に効いている、ということになっているわけである。
④検察審査会の強制起訴はどのような支配を受けているのか
そもそも、検察審査会議決による公訴提起については、刑訴法上では規定がない。最高裁規則にもない。組織としての指揮命令については、前記1)及び2)から、行政組織でなく、司法組織の一部のようではあるけれども、最高裁の指揮命令権が及んでいるとも言えない。検察審査会法には、そのような規定が存在しないからである。更に、裁判所法にも規定がない為、法文上では全くの「自主独立機関」に近いように見受けられる。
指揮命令は前述した検察審査会法20条第四項の通りに、「検察審査会長」ということになっており、この会長は互選であるから、上位機関からの指揮命令は効いていない、というふうに解釈せざるを得ないのである。そうすると、間接的にも国民からの統制は及ばない組織、ということになり、指揮監督権が独立した存在ということになってしまうのである。
唯一あるのは、検察審査会法、である。
(続く)