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法律家にお願いしたいこと

2008年08月06日 21時14分53秒 | 法と医療
モトケン先生のコメント欄経由で知りました。

MRIC 臨時 vol 105 「診療関連死の死因究明制度創設に係る公開討論会」に参加して

(以下に一部引用)

 ここで、法案大綱の内容について、一点のみ、極めて重大な問題があるので指摘したい。それは、大綱では新たな刑事処罰規定が登場しているという点である。第30の(1)~(5)である(他にも刑罰規定はあるが、この規定に絞って述べる)。

 これらは、虚偽報告罪、検査拒否罪、虚偽陳述罪、関係物件提出拒否罪などと呼称してもよい新たな刑罰規定であるが、明らかに憲法上の基本権を侵害する憲法違反の規定なのである。現行憲法上、供述を強制されないことは基本的人権として保障され(38条、黙秘権保障)、また、所有物をむやみに捜索押収されないことも基本的人権として保障されている(35条、令状主義)。「何人(なんびと)」に対しても保障された権利である。大綱のこれら新たな処罰規定は、このような憲法上の基本権を正面から否定するものと言ってよい。

 憲法上のこれら基本権は、何人にも保障されているのであるから、極端なことを言えば、組織的暴力集団やテロリストにも保障された権利である。なのに、何故、医療者だけがこれら憲法上の権利を制限されるのであろうか。黙秘権保障、令状主義が、医師・医療関係者については格別保障されなくてもよいと考える理由を昨日のシンポで、是非とも法案大綱に賛成される立場の方に尋ねたかったのである。

 大野病院事件の悪夢が亡くなるという根拠のない安易な妄想によって、組織的暴力集団やテロリスト以下の立場に医療者を置こうとしていることに気づいているのであろうか。まさに本末転倒、「角を矯めて牛を殺す」の類である。

 なお、討論会では、医療者側から、「医療不信、医療不信」という言葉が連呼されていたが、これも根拠ない誇大妄想に医療界全体が陥っていると言えないか。我が国において、圧倒的に多数の患者(=国民)は、医師から受けた医療に満足し、感謝して帰っている。このような日常の「声なき声」を聞き取れない人たちには新たな制度設計など任せられない。極端な病理的現象上の議論をもって、通常の生理的現象に当てはめようとすることは、容易に生理を病理に変質させるという、大いなる誤ちを招来することになる。医療崩壊という現象を助長することは明らかである。

====

恐らく医療崩壊を防ごうという立場から活動されている弁護士の方ではないかな、と思いましたが、法曹の中にもこうした医療への理解を示しておられる方がおられることは心強い限りではないかと思います。医療従事者以外に理解を求めていくということは、中々大変なことであると思いますので。

大野病院事件に強い危惧をお持ちであることは文章を拝見すれば一目瞭然で、医療へのご理解を頂いていることはよく判ります。医療者は法学の基礎的知識や理解が十分ではないことはよくあり、できれば法曹の方々には正しい知識を広めてもらえるようにと思い、記事に書いてみます。法学素人の人間が弁護士の方に申し上げるのが差し出がましいということも重々承知の上で書きますので、ご容赦願います。


ご指摘の「大綱では新たな刑事処罰規定が登場しているという点」で、「これらは、虚偽報告罪、検査拒否罪、虚偽陳述罪、関係物件提出拒否罪などと呼称してもよい新たな刑罰規定」と述べておられます。これが憲法違反規定ということで、38条の黙秘権や35条の令状主義に反する規定であるとする見解ではないかということです。「何故、医療者だけがこれら憲法上の権利を制限されるのであろうか」と厳しく糾弾されておられるのですが、これは誤解ではないかと思います。

行政側への報告、検査、質問等への返答、関係物提出という規定は、様々な法令で一般的に見られる条文です。業種等に大きな違いというはあまりなく、基本的には行政側に広範な権限が与えられています。一般社会でよくありがちなのは、消防の検査なんかでしょうか。所管省庁の行政職員には「捜査権限」は附与されませんが(当たり前ですが)、行政上の管理権限として各種の調査・検査・質問・報告を徴する等があります。裏を返せば、行政側に不作為を問うことが行われるのもその為ではないでしょうか。ありがちなのは、「何故問題企業を調査しなかったんだ、立入検査を行えば防げたはずだ、調べて営業停止処分にするべきだった」などといったご意見でしょうか。

話を戻しますが、ご指摘の「虚偽報告罪、検査拒否罪、虚偽陳述罪、関係物件提出拒否罪などと呼称してもよい新たな刑罰規定」というのは、ほぼ定型的な条文であると思いますので、以下に例示してみます。


まず銀行法。

○銀行法 第六十三条
次の各号のいずれかに該当する者は、一年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。
一  第十九条、第五十二条の二十七又は第五十二条の五十第一項の規定に違反して、これらの規定に規定する書類の提出をせず、又はこれらの書類に記載すべき事項を記載せず、若しくは虚偽の記載をしてこれらの書類の提出をした者
(中略)
二  第二十四条第一項(第四十三条第三項において準用する場合を含む。)、第二十四条第二項、第五十二条の七、第五十二条の十一、第五十二条の三十一第一項若しくは第二項若しくは第五十二条の五十三の規定による報告若しくは資料の提出をせず、又は虚偽の報告若しくは資料の提出をした者

三  第二十五条第一項(第四十三条第三項において準用する場合を含む。)、第二十五条第二項、第五十二条の八第一項、第五十二条の十二第一項、第五十二条の三十二第一項若しくは第二項若しくは第五十二条の五十四第一項の規定による当該職員の質問に対して答弁をせず、若しくは虚偽の答弁をし、又はこれらの規定による検査を拒み、妨げ、若しくは忌避した者

四  第四十三条第一項(同条第二項において準用する場合を含む。)の規定による命令に違反した者

五  第四十五条第三項の規定による検査を拒み、妨げ、若しくは忌避し、又は同条の規定による命令に違反した者

六  第四十六条第三項において準用する第二十五条第一項の規定による当該職員の質問に対して答弁をせず、若しくは虚偽の答弁をし、又は同項の規定による検査を拒み、妨げ、若しくは忌避した者

八  第五十二条の三十七第一項の規定による申請書又は同条第二項の規定によりこれに添付すべき書類に虚偽の記載をして提出した者
(以下略)


医師ばかりではなく、公認会計士でも同様です。

○公認会計士法 第五十三条
次の各号のいずれかに該当する者は、百万円以下の罰金に処する。
一  第三十四条の二十五第一項の登録申請書又は同条第二項の書類に虚偽の記載をして提出した者

二  第四十六条の十二第一項又は第四十九条の三第一項の規定による報告若しくは資料の提出をせず、又は虚偽の報告若しくは資料の提出をした者

三  第三十四条の五十一第一項、第四十六条の十二第一項又は第四十九条の三第二項の規定による立入検査を拒み、妨げ、又は忌避した者
(以下略)

○同法 第五十三条の三
次の各号のいずれかに該当する者は、二十万円以下の罰金に処する。
一  第三十四条の四十七第一項の規定による参考人に対する処分に違反して出頭せず、陳述をせず、又は虚偽の陳述をした者
二  第三十四条の四十七第二項又は第三十四条の五十第三項において準用する民事訴訟法第二百一条第一項 の規定による参考人又は鑑定人に対する命令に違反して宣誓をしない者
三  第三十四条の四十九第二項の規定による物件の所持人に対する処分に違反して物件を提出しない者
四  第三十四条の五十第一項の規定による鑑定人に対する処分に違反して鑑定をせず、又は虚偽の鑑定をした者

○同法 第五十五条
次の各号のいずれかに該当する者は、三十万円以下の過料に処する。
一  第三十三条第一項第一号の規定(第十六条の二第六項、第三十四条の十の十七第三項、第三十四条の二十一第四項、第三十四条の二十一の二第七項及び第三十四条の二十九第四項において準用する場合を含む。)による事件関係人又は参考人に対する処分に違反して出頭せず、陳述をせず、虚偽の陳述をし、報告をせず、又は虚偽の報告をした者

二  第三十三条第一項第二号の規定(第十六条の二第六項、第三十四条の十の十七第三項、第三十四条の二十一第四項、第三十四条の二十一の二第七項及び第三十四条の二十九第四項において準用する場合を含む。)による鑑定人に対する処分に違反して、出頭せず、鑑定をせず、又は虚偽の鑑定をした者

三  第三十三条第一項第三号の規定(第十六条の二第六項、第三十四条の十の十七第三項、第三十四条の二十一第四項、第三十四条の二十一の二第七項及び第三十四条の二十九第四項において準用する場合を含む。)による物件の所持者に対する処分に違反して物件を提出しない者

四  第三十三条第一項第四号の規定(第十六条の二第六項、第三十四条の十の十七第三項、第三十四条の二十一第四項、第三十四条の二十一の二第七項及び第三十四条の二十九第四項において準用する場合を含む。)による立入検査を拒み、妨げ、又は忌避した者



事故調と似た組織の公取でも同じです。

○独占禁止法 第九十四条
次の各号のいずれかに該当する者は、一年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。
一  第四十七条第一項第一号若しくは第二項又は第五十六条第一項の規定による事件関係人又は参考人に対する処分に違反して出頭せず、陳述をせず、若しくは虚偽の陳述をし、又は報告をせず、若しくは虚偽の報告をした者

二  第四十七条第一項第二号若しくは第二項又は第五十六条第一項の規定による鑑定人に対する処分に違反して出頭せず、鑑定をせず、又は虚偽の鑑定をした者

三  第四十七条第一項第三号若しくは第二項又は第五十六条第一項の規定による物件の所持者に対する処分に違反して物件を提出しない者

四  第四十七条第一項第四号若しくは第二項又は第五十六条第一項の規定による検査を拒み、妨げ、又は忌避した者



医療関係でも、同様な罰則は昔からありました。

○健康保険法 第二百八条
事業主が、正当な理由がなくて次の各号のいずれかに該当するときは、六月以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
一  第四十八条(第百六十八条第二項において準用する場合を含む。)の規定に違反して、届出をせず、又は虚偽の届出をしたとき。

二  第四十九条第二項(第五十条第二項において準用する場合を含む。)の規定に違反して、通知をしないとき。

三  第百六十一条第二項又は第百六十九条第七項の規定に違反して、督促状に指定する期限までに保険料を納付しないとき。

四  第百六十九条第二項の規定に違反して、保険料を納付せず、又は第百七十一条第一項の規定に違反して、帳簿を備え付けず、若しくは同項若しくは同条第二項の規定に違反して、報告せず、若しくは虚偽の報告をしたとき。

五  第百九十八条第一項の規定による文書その他の物件の提出若しくは提示をせず、又は同項の規定による当該職員の質問に対して、答弁せず、若しくは虚偽の答弁をし、若しくは同項の規定による検査を拒み、妨げ、若しくは忌避したとき。

○同法 第二百九条
事業主以外の者が、正当な理由がなくて第百九十八条第一項の規定による当該職員の質問に対して、答弁せず、若しくは虚偽の答弁をし、又は同項の規定による検査を拒み、妨げ、若しくは忌避したときは、六月以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。

○同法 第二百十条
被保険者又は被保険者であった者が、第六十条第二項(第百四十九条において準用する場合を含む。)の規定により、報告を命ぜられ、正当な理由がなくてこれに従わず、又は同項の規定による当該職員の質問に対して、正当な理由がなくて答弁せず、若しくは虚偽の答弁をしたときは、三十万円以下の罰金に処する。



単に反対の立場とする前に、できれば全体について理解を深めて頂き、医療者の理解不足の部分は専門家である法曹の方々が正しく解説してもらえれば、問題点が絞り込めていくのではないかと思われます。修正すべき部分があるならば、そこはよく議論をしていけばいいと思います。医療者を組織的暴力集団とかテロリスト以下に貶めるつもりなのか、というような手厳しい批判は当たらないのではないか、ということをまずご理解下さればと思います。医療者と同じく「医療崩壊を食い止めねばならない」という立場を取るのに、過った批判を掲げれば同じ立場の人間たちが同様の「誤解集団に過ぎない」といった逆効果を生むことになりかねず、できるだけ誤りのない批判を心掛けていただければと思います。このことは、医療者側にある各種批判や反対意見についても同様であると思います。


最後に、医療不信の連呼を見咎められていますけれども、今世紀以降の医療への厳しい目というものを医療者側が実感する故ではなかろうか、と思ったりします。勿論、マスメディアの喧伝効果のようなものもあるのかもしれませんが、国民には「医療不信」があるのではないか、という印象を受けてきたのだろう、と思います。文中で述べておられる通りに、「圧倒的に多数の患者(=国民)は、医師から受けた医療に満足し、感謝して帰っている」というのが現実であろう、と思う一方で、ごく少数の例外的事例(たとえば大野病院事件)が司法を通じて医療に恐怖心や萎縮をもたらしたのだ、ということだと思います。100万人が満足したとしても、100人か1000人がトラブル(民事・刑事訴訟等)になれば、全体から見れば0.1%~0.01%に過ぎない出来事であったとしても、医療を崩壊へと導く危険性のあるものである、というのが医療世界の特殊性ではないかと思うのです。

法学の世界では8割~9割といった大雑把な水準で何でも通用してしまうのかもしれませんが、医療者にとっては「重箱の隅をつつく」ような小さな事象であっても、決して無視できるような水準のものでもない、ということなのかもしれません。多分、そうした訓練を受けてきたせいではないか、と勝手に推測しています。0.1%の事象の改善、というような、ほんの僅かの前進を常に求めてしまうというような習性によるのかもしれません。それは「たった1人でもいいから救いたい」ということの意味です。医療とは、同じ病気の患者が千人いようが或いは1万人いようが、1人でもいいから救いたいということの積み重ねでしかないから、ではないでしょうか。




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4 コメント

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Unknown ()
2008-08-10 12:50:32
まぁ、法学的に反論するのであれば、
他にも同じ規定がある~という方向よりは、

そもそも黙秘権・令状主義とはなにか?というところから論証した方が効果的でしょうね。
そこまでする価値はないでしょうが…
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論証なんてそんな (まさくに)
2008-08-11 13:44:51
私は素人に過ぎませんので、日本最難関と言われた司法試験に合格された弁護士先生に、論証できるほどには詳しいわけではございません。
でも、法曹の方々の主張というのは、結構???ということがあるのだな、とは思います。これは意外でございました。資格を持っていることと、主張・意見が正当であるということは別なんだな、と。
返信する
Unknown ()
2008-08-13 08:57:09
まぁ、司法試験の性質上やむをえないことですけどね。特に旧司ですと…

一般に、弁護士の場合、その人が普段手がけている分野(の実務的な処理)以外の話については、
かなり割り引いて聞く必要があるかと思います。
それに、(クライアントのために)筋の悪い主張・論理でも無理矢理たてる
ということが染みついちゃっている人もいますしね。

学問としての法学・法律学(学者)側も、いろいろありますが…
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色々 (まさくに)
2008-08-13 23:37:12
あるものなのですね。業界内部のお話をお教え下さりありがとうございました。
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