判決内容に疑問を感じたので、取り上げる。判決全文は見つけられなかったので、記事からだけしか判らない。
日赤に賠償命令 男児感染死で説明怠る 姫路
(以下に一部引用)
悪性リンパ腫と診断され姫路赤十字病院(姫路市)に入院、肺炎に感染し死亡した同市内の男児=当時(9つ)=の両親が、病院に過失があったとして、日本赤十字社(東京都)などに約九千四百万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が二十六日、神戸地裁であった。下野恭裕裁判長は「医師らは治療について、両親に説明する義務を怠った」として、赤十字社に一千万円の支払いを命じた。判決によると、男児は一九九九年十一月、悪性リンパ腫の治療で入院。抗がん剤を使う化学療法で症状が改善したとして、入退院を繰り返しながら治療を続けたが、〇〇年十月、入院中に肺炎に感染し死亡した。
同病院は当時、悪性リンパ腫の治療実施計画書を作成した小児白血病研究会に参加してなかったが、下野裁判長は判決理由で「被告は研究会に参加してないことを患者側に告げる義務があった。研究会に参加してない病院では何か問題が起きても、研究会に判断を求めることができない。患者側はほかの研究会参加の病院で、高度な治療を受けることもできた」などとした。さらに裁判長は、肺炎予防の薬の服用についても「男児が薬を内服しやすい環境をつくる義務を怠った」として病院側の過失を認定した。
この記事から判ることで、重大なことが2つありますので、それを順に見ていきます。
1)研究会加入の問題とその告知義務
①「小児白血病研究会」なる団体があって、それに加入していなかった
②その団体が作成していた治療実施計画書を用いて治療を行っていた
③未加入ゆえ、病院は団体に「意見を求められない」
④当該団体未加入であることを告知する義務があった
⑤研究会参加の病院でならば「高度な治療を受けられた」
①について:
今回初めて知りましたが、「小児白血病研究会」なる団体があるのですね。裁判所が認定するのであるから、「医学的には権威ある団体」ということなのでしょうか。つまり、当該団体に未加入であれば「小児の白血病治療を行う」べきでない、ということになります。しかし、これは日本全国でそうしたことを信じている医師は殆どいないのではないかと思えます。本格的に「権威を認められた」団体であれば、「学会」として多くの医師たちに認められるからです(日本医学会?加盟の、だったか)。中には「?」な学会も勿論存在しているようですが、「研究会」というレベルであると「勉強会」といった意味合いが強くなりますので、どうなんでしょうか。出発点として、裁判官の思い込みがあるのではないかと思えます。つまり、団体加入の医師は「能力がはるかに高い」が、未加入の医師は「能力が低い」ということです。それは、裁判官に立証責任があるでしょう。「小児白血病研究会」未加入の医師は必然的に「能力が低い」と信じている医師が、一体どこにいるんでしょう?
②について:
研究会が作成していた「治療計画書」というのは実態がよく判りませんけれども、恐らく治療マニュアル的なものなのではなかろうか、と思います。一応、それを想定して述べていきます。
これに類似した「治療指針」「ガイドライン」「診断基準」「治療マニュアル」等はたくさんあります。例えば、有名なところでは、「厚生労働(旧厚生)省~~研究班」などが作成した「治療指針」とか「難病診断基準」なんかは多数あるでしょう。高血圧症の診断と治療などは「日本高血圧学会」が作っていた治療指針みたいなのが標準的です。救急蘇生関連なんかだと、AHA(American Heart Association)の定めるCRP、日本のBLSとかACLSなど、いくつかありますね。こういうのは、使いやすいとかあると便利というものであって、「絶対基準」なんかではないし、その場その場で外れてることだってあるでしょう。もしもマニュアル通りに全て上手くいくのであれば、殆どの医者なんていらないわけです(笑)。マニュアル通りにできる「誰か」が存在してさえいればいいんですから。
基本的な考え方として、これら指針やガイドラインというのは、所謂「集合知」を活かせるということなんですよね。一人の医者だけで考えると、「経験数が不足しがち」「考えが偏りがち」「自分というバイアス」なんかの可能性は高くなるでしょう。そういうのを回避し、エラーの確率を低くしていく為に複数の専門家たちが膨大な論文などを検証したり、議論して作られていることが多いでしょう。それが一般的な医療現場の中で「標準化」されたモデルとして取り入れられる、ということですよね。でも、医療機関ごとに「若干の付け加え」とか変更とか、そういう独自の工夫がなされるかもしれませんけど。でも、「絶対的な正解」なんかではありませんよ。あくまで「参考解答」でしかありません。そんなに人間というのは単純じゃないんですよ。
③について:
未加入ゆえ病院は意見を「団体に求められない」というのは、殆どの場合そうですよね。上に例示した「高血圧症」の指針に基づいて治療していく時、仮に個別の患者で困ったことがあった時に「日本高血圧学会で答えを教えてくれ」みたいなことはありませんよ。治療指針を作った厚生労働省の研究班でも、個別の症例について「こうしなさい」とか「これが正解です」などと答えてはくれませんよ。少なくとも、「小児白血病研究会」より厚生労働省の研究班の方が、治療指針や診断基準に関しての権威はかなり上だと思いますけど。AHAの基準で治療していく時、AHAに未加入だったら「答えを聞けなくて」、加入している医師ならば「個別の症例について正解を教えてもらえる」なんてこともありませんね。団体に参加していさえいれば「答えを知る事ができる」というのは、裁判官の空想か錯覚です。裁判官は、どうやら「研究会」が治療してくれる、と思っているフシがありますね。ならば、日本を5ブロックくらいに分けて、それぞれ研究会を一つ作り、研究会の人たちだけが治療をやればいいのではないでしょうか(笑)。それならば、裁判官のご希望に沿うことが可能になるかと思います。
④について:
本判決のクライマックスでもありますが、当該団体未加入の告知義務という新たな義務を追加してきました。これまでの法学分野で「医科系の学会に加入しているか否かについての告知義務」というのがある、というのは既出なのでしょうか?あれですか、「当店は日本チェーンストア協会加盟です」とか「東京商工会議所加盟です」といった告知義務を課しているのでしょうか?日本調理師協会加盟でなければ、「協会加盟の、もっと美味い店で食べる権利を有していたのに、店側が告知義務を果たさなかったので義務違反につき損害賠償せよ」となってしまう、と?(例示したこれら団体はあくまで架空です。仮に実在しても何ら関係ありません)
患者またはその家族には、医師や医療機関に関しての「全てを知る権利」は存在していないと思います。最低限告知すべき義務とは、「医療法に規定されている内容」だろうと思います(診療科名とか医師名とか時間とか、・・・そういうようなヤツだったはず)。正式な「学会」だけでも日本医学会加盟団体は100以上あったはずです。それらについて、患者側が必ず正確に判断できるということを想定してはいない為、逆に「~~学会」といった怪しげな権威付けによって患者側が騙されてしまうという不利益の方が問題になるでしょう。恐らく医療法上での想定というのは、「過剰な広告」を禁止する旨だったと思いますけれども、こうした欺瞞に引っ掛かりやすいという患者側の特性があって、患者側利益を保護する意味合いの方が優先されている為だろうと思われます。「振り込め詐欺」で「法務省~~」とか「財務局~~」みたいな「権威付け」名称に、アッサリと引っ掛かってしまっている人々が多く存在していることが明らかです。「あるある~」の納豆騒動でも同じです。何かの権威付けによって、「簡単に騙されてしまう」ということなんですよ。危険性の方が問題だろうと思えます。
こうした研究会だのといった団体加盟の有無について告知義務が法的にあるとは思えません。個別に聞かれた場合には、「答える」というのが常識的であると思います。
参考までに、「健康エコナ」だかの「食用油」のテレビCMがありますよね?あれの「日本人間ドック学会」推薦(?だったと思うがうろ覚えだ)という「権威付け」が行われていますが、「日本人間ドック学会」は「日本医学会」の加盟団体ではありません。「小児白血病研究会」もそうです。裁判官は健康診断を受ける際などに、医療機関が「日本人間ドック学会」に未加入なのかどうかを聞いて回っているのでしょうか?そうした場合に、「日本人間ドック学会未加入の病院を受診し、告知義務を果たされなかった結果、高度な健康診断を受けられなかった」と主張するんですね?仮に、明日にでも「日本高齢者高度先進医療研究会」みたいなのがボコボコと誕生し、告知義務を果たして「ウチは研究会加入の素晴らしい医療機関です」みたいにやってくれ、と、こういう主張をするんですね?
⑤について:
「小児白血病研究会」というのがどういった団体なのかは、私には全く判りません。熱心な先生方が頑張って治療ガイドラインみたいなものを一生懸命作成していて、それは携わっている医師たちにとって「とても有り難い」ものなのかもしれません。小児の白血病自体、絶対数がそんなに多いとも思えませんし(症例数=経験数が少ないと知見も乏しくなりがちなんだろうな、とは思うので)。そうであるとしても、研究会に未加入な医師や医療機関が「未熟」であり、加入していると「高度」である、ということを「一般原則」と認めるには相当の根拠を必要とするでしょう。裁判官はこの立証を行う義務がありますよ。これは同じく、「~学会」加入と未加入においても、同義ですよね?つまりは、全ての団体について「同じ傾向がある」ということを立証せねばならないでしょう。例えば、「日本人間ドック学会」加入だと、未加入の医師や医療機関よりも「高度」なんですね?著名な医療機関はみな「小児白血病研究会」に参加しているハズなんですよね?本当なのでしょうか。
2)肺炎予防の薬を内服しやすい環境を作る義務
肺炎の原因や治療経過などについてはよく判りませんけれども、「内服しやすい環境を作る義務」というのはどうなんでしょうか。血液疾患だけに、肺炎の合併は避けがたいものであったかもしれず、「結果的に」肺炎になってしまったら義務違反、というのがあらゆる場面で認定されてしまいます。
例えば、変性疾患などの場合、死亡原因のかなりの割合に「肺炎」というのがあると思いますが、こうした時でも主たる疾患Xがあって、そのありがちな合併症として「肺炎」になってしまうと、「予防する薬を内服しやすい環境になっていなかったから」肺炎になってしまったのだ、ということになってしまいます。普通に薬の副作用なんかで「間質性肺炎」などもあるわけですが、こうした時でも「肺炎が合併することは十分予期できたのに、肺炎を予防する薬を内服しやすい環境を作っていなかったから義務違反だ」となってしまいます。つまり、肺炎の発症は、「薬を内服しやすい環境になっていなかったから」というのがその重要な要因と認定している、と思われるのです。これは誤解ではないかと思われます。「内服しやすい環境」になっていてもいなくても、無関係に「肺炎」は生じてしまいます。そして、時には致死的となってしまうのです。肺炎は死亡原因の中で、稀な疾患なんかではないいのです。むしろ上位と言えるでしょう(高齢になればなるほど死亡数は増える)。免疫異常などが元々疾患としてあるのであれば、そのリスクは高まります。エイズだって、エイズそのもので死ぬわけではありません。多くは肺炎などの別な「感染症」で死亡するのです。そうした時、「予防する薬を内服”しやすい”環境」を作っていなかったからだ、と裁判官は仰るわけです。これは極めて深刻な事態を招きます。念のため、「肺炎予防の薬を内服しやすい環境」とはどのような環境であるのか、必要な要件を法的解釈に基づいて規定してみて下さい。>法曹の方々なら、誰でも可能なのですよね?
これと同じような理屈を、広い範囲で用いることができてしまいます。
「糖尿病が悪化したのは、糖尿病の悪化を予防する薬を内服しやすい環境になっていなかったからだ。義務違反につき、損害賠償せよ」というのも可能ですね。これは医療側の問題というより、「患者側努力」に関わる面であっても、責任を負わされる、ということでもあります。「糖尿病の薬をちゃんと飲んでいないと、悪くなったら大変だからね」とか言っても、患者が怠けて飲んだり飲まなかったりしていて、そのうち「病状悪化で腎不全」になっちゃったりすれば、「飲まなければ人口透析になるなんて聞いてなかった」とか主張するってことなんですよ。で、「内服しやすい環境になってなかった」という理屈が適用されてしまうのです。本気で患者を医師にするくらいの教育を施さないと、「義務違反」地獄からは逃れられないとしか思えません。
こんなに次々と義務を課されるということであれば、パソコンのトリセツみたいな分厚いやつに、こと細かに書いて全部読んでもらうとかしないと無理だ。それか、前に書いたけど、双方治療前に代理人を立てて契約を締結した方がいいよ。
日赤に賠償命令 男児感染死で説明怠る 姫路
(以下に一部引用)
悪性リンパ腫と診断され姫路赤十字病院(姫路市)に入院、肺炎に感染し死亡した同市内の男児=当時(9つ)=の両親が、病院に過失があったとして、日本赤十字社(東京都)などに約九千四百万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が二十六日、神戸地裁であった。下野恭裕裁判長は「医師らは治療について、両親に説明する義務を怠った」として、赤十字社に一千万円の支払いを命じた。判決によると、男児は一九九九年十一月、悪性リンパ腫の治療で入院。抗がん剤を使う化学療法で症状が改善したとして、入退院を繰り返しながら治療を続けたが、〇〇年十月、入院中に肺炎に感染し死亡した。
同病院は当時、悪性リンパ腫の治療実施計画書を作成した小児白血病研究会に参加してなかったが、下野裁判長は判決理由で「被告は研究会に参加してないことを患者側に告げる義務があった。研究会に参加してない病院では何か問題が起きても、研究会に判断を求めることができない。患者側はほかの研究会参加の病院で、高度な治療を受けることもできた」などとした。さらに裁判長は、肺炎予防の薬の服用についても「男児が薬を内服しやすい環境をつくる義務を怠った」として病院側の過失を認定した。
この記事から判ることで、重大なことが2つありますので、それを順に見ていきます。
1)研究会加入の問題とその告知義務
①「小児白血病研究会」なる団体があって、それに加入していなかった
②その団体が作成していた治療実施計画書を用いて治療を行っていた
③未加入ゆえ、病院は団体に「意見を求められない」
④当該団体未加入であることを告知する義務があった
⑤研究会参加の病院でならば「高度な治療を受けられた」
①について:
今回初めて知りましたが、「小児白血病研究会」なる団体があるのですね。裁判所が認定するのであるから、「医学的には権威ある団体」ということなのでしょうか。つまり、当該団体に未加入であれば「小児の白血病治療を行う」べきでない、ということになります。しかし、これは日本全国でそうしたことを信じている医師は殆どいないのではないかと思えます。本格的に「権威を認められた」団体であれば、「学会」として多くの医師たちに認められるからです(日本医学会?加盟の、だったか)。中には「?」な学会も勿論存在しているようですが、「研究会」というレベルであると「勉強会」といった意味合いが強くなりますので、どうなんでしょうか。出発点として、裁判官の思い込みがあるのではないかと思えます。つまり、団体加入の医師は「能力がはるかに高い」が、未加入の医師は「能力が低い」ということです。それは、裁判官に立証責任があるでしょう。「小児白血病研究会」未加入の医師は必然的に「能力が低い」と信じている医師が、一体どこにいるんでしょう?
②について:
研究会が作成していた「治療計画書」というのは実態がよく判りませんけれども、恐らく治療マニュアル的なものなのではなかろうか、と思います。一応、それを想定して述べていきます。
これに類似した「治療指針」「ガイドライン」「診断基準」「治療マニュアル」等はたくさんあります。例えば、有名なところでは、「厚生労働(旧厚生)省~~研究班」などが作成した「治療指針」とか「難病診断基準」なんかは多数あるでしょう。高血圧症の診断と治療などは「日本高血圧学会」が作っていた治療指針みたいなのが標準的です。救急蘇生関連なんかだと、AHA(American Heart Association)の定めるCRP、日本のBLSとかACLSなど、いくつかありますね。こういうのは、使いやすいとかあると便利というものであって、「絶対基準」なんかではないし、その場その場で外れてることだってあるでしょう。もしもマニュアル通りに全て上手くいくのであれば、殆どの医者なんていらないわけです(笑)。マニュアル通りにできる「誰か」が存在してさえいればいいんですから。
基本的な考え方として、これら指針やガイドラインというのは、所謂「集合知」を活かせるということなんですよね。一人の医者だけで考えると、「経験数が不足しがち」「考えが偏りがち」「自分というバイアス」なんかの可能性は高くなるでしょう。そういうのを回避し、エラーの確率を低くしていく為に複数の専門家たちが膨大な論文などを検証したり、議論して作られていることが多いでしょう。それが一般的な医療現場の中で「標準化」されたモデルとして取り入れられる、ということですよね。でも、医療機関ごとに「若干の付け加え」とか変更とか、そういう独自の工夫がなされるかもしれませんけど。でも、「絶対的な正解」なんかではありませんよ。あくまで「参考解答」でしかありません。そんなに人間というのは単純じゃないんですよ。
③について:
未加入ゆえ病院は意見を「団体に求められない」というのは、殆どの場合そうですよね。上に例示した「高血圧症」の指針に基づいて治療していく時、仮に個別の患者で困ったことがあった時に「日本高血圧学会で答えを教えてくれ」みたいなことはありませんよ。治療指針を作った厚生労働省の研究班でも、個別の症例について「こうしなさい」とか「これが正解です」などと答えてはくれませんよ。少なくとも、「小児白血病研究会」より厚生労働省の研究班の方が、治療指針や診断基準に関しての権威はかなり上だと思いますけど。AHAの基準で治療していく時、AHAに未加入だったら「答えを聞けなくて」、加入している医師ならば「個別の症例について正解を教えてもらえる」なんてこともありませんね。団体に参加していさえいれば「答えを知る事ができる」というのは、裁判官の空想か錯覚です。裁判官は、どうやら「研究会」が治療してくれる、と思っているフシがありますね。ならば、日本を5ブロックくらいに分けて、それぞれ研究会を一つ作り、研究会の人たちだけが治療をやればいいのではないでしょうか(笑)。それならば、裁判官のご希望に沿うことが可能になるかと思います。
④について:
本判決のクライマックスでもありますが、当該団体未加入の告知義務という新たな義務を追加してきました。これまでの法学分野で「医科系の学会に加入しているか否かについての告知義務」というのがある、というのは既出なのでしょうか?あれですか、「当店は日本チェーンストア協会加盟です」とか「東京商工会議所加盟です」といった告知義務を課しているのでしょうか?日本調理師協会加盟でなければ、「協会加盟の、もっと美味い店で食べる権利を有していたのに、店側が告知義務を果たさなかったので義務違反につき損害賠償せよ」となってしまう、と?(例示したこれら団体はあくまで架空です。仮に実在しても何ら関係ありません)
患者またはその家族には、医師や医療機関に関しての「全てを知る権利」は存在していないと思います。最低限告知すべき義務とは、「医療法に規定されている内容」だろうと思います(診療科名とか医師名とか時間とか、・・・そういうようなヤツだったはず)。正式な「学会」だけでも日本医学会加盟団体は100以上あったはずです。それらについて、患者側が必ず正確に判断できるということを想定してはいない為、逆に「~~学会」といった怪しげな権威付けによって患者側が騙されてしまうという不利益の方が問題になるでしょう。恐らく医療法上での想定というのは、「過剰な広告」を禁止する旨だったと思いますけれども、こうした欺瞞に引っ掛かりやすいという患者側の特性があって、患者側利益を保護する意味合いの方が優先されている為だろうと思われます。「振り込め詐欺」で「法務省~~」とか「財務局~~」みたいな「権威付け」名称に、アッサリと引っ掛かってしまっている人々が多く存在していることが明らかです。「あるある~」の納豆騒動でも同じです。何かの権威付けによって、「簡単に騙されてしまう」ということなんですよ。危険性の方が問題だろうと思えます。
こうした研究会だのといった団体加盟の有無について告知義務が法的にあるとは思えません。個別に聞かれた場合には、「答える」というのが常識的であると思います。
参考までに、「健康エコナ」だかの「食用油」のテレビCMがありますよね?あれの「日本人間ドック学会」推薦(?だったと思うがうろ覚えだ)という「権威付け」が行われていますが、「日本人間ドック学会」は「日本医学会」の加盟団体ではありません。「小児白血病研究会」もそうです。裁判官は健康診断を受ける際などに、医療機関が「日本人間ドック学会」に未加入なのかどうかを聞いて回っているのでしょうか?そうした場合に、「日本人間ドック学会未加入の病院を受診し、告知義務を果たされなかった結果、高度な健康診断を受けられなかった」と主張するんですね?仮に、明日にでも「日本高齢者高度先進医療研究会」みたいなのがボコボコと誕生し、告知義務を果たして「ウチは研究会加入の素晴らしい医療機関です」みたいにやってくれ、と、こういう主張をするんですね?
⑤について:
「小児白血病研究会」というのがどういった団体なのかは、私には全く判りません。熱心な先生方が頑張って治療ガイドラインみたいなものを一生懸命作成していて、それは携わっている医師たちにとって「とても有り難い」ものなのかもしれません。小児の白血病自体、絶対数がそんなに多いとも思えませんし(症例数=経験数が少ないと知見も乏しくなりがちなんだろうな、とは思うので)。そうであるとしても、研究会に未加入な医師や医療機関が「未熟」であり、加入していると「高度」である、ということを「一般原則」と認めるには相当の根拠を必要とするでしょう。裁判官はこの立証を行う義務がありますよ。これは同じく、「~学会」加入と未加入においても、同義ですよね?つまりは、全ての団体について「同じ傾向がある」ということを立証せねばならないでしょう。例えば、「日本人間ドック学会」加入だと、未加入の医師や医療機関よりも「高度」なんですね?著名な医療機関はみな「小児白血病研究会」に参加しているハズなんですよね?本当なのでしょうか。
2)肺炎予防の薬を内服しやすい環境を作る義務
肺炎の原因や治療経過などについてはよく判りませんけれども、「内服しやすい環境を作る義務」というのはどうなんでしょうか。血液疾患だけに、肺炎の合併は避けがたいものであったかもしれず、「結果的に」肺炎になってしまったら義務違反、というのがあらゆる場面で認定されてしまいます。
例えば、変性疾患などの場合、死亡原因のかなりの割合に「肺炎」というのがあると思いますが、こうした時でも主たる疾患Xがあって、そのありがちな合併症として「肺炎」になってしまうと、「予防する薬を内服しやすい環境になっていなかったから」肺炎になってしまったのだ、ということになってしまいます。普通に薬の副作用なんかで「間質性肺炎」などもあるわけですが、こうした時でも「肺炎が合併することは十分予期できたのに、肺炎を予防する薬を内服しやすい環境を作っていなかったから義務違反だ」となってしまいます。つまり、肺炎の発症は、「薬を内服しやすい環境になっていなかったから」というのがその重要な要因と認定している、と思われるのです。これは誤解ではないかと思われます。「内服しやすい環境」になっていてもいなくても、無関係に「肺炎」は生じてしまいます。そして、時には致死的となってしまうのです。肺炎は死亡原因の中で、稀な疾患なんかではないいのです。むしろ上位と言えるでしょう(高齢になればなるほど死亡数は増える)。免疫異常などが元々疾患としてあるのであれば、そのリスクは高まります。エイズだって、エイズそのもので死ぬわけではありません。多くは肺炎などの別な「感染症」で死亡するのです。そうした時、「予防する薬を内服”しやすい”環境」を作っていなかったからだ、と裁判官は仰るわけです。これは極めて深刻な事態を招きます。念のため、「肺炎予防の薬を内服しやすい環境」とはどのような環境であるのか、必要な要件を法的解釈に基づいて規定してみて下さい。>法曹の方々なら、誰でも可能なのですよね?
これと同じような理屈を、広い範囲で用いることができてしまいます。
「糖尿病が悪化したのは、糖尿病の悪化を予防する薬を内服しやすい環境になっていなかったからだ。義務違反につき、損害賠償せよ」というのも可能ですね。これは医療側の問題というより、「患者側努力」に関わる面であっても、責任を負わされる、ということでもあります。「糖尿病の薬をちゃんと飲んでいないと、悪くなったら大変だからね」とか言っても、患者が怠けて飲んだり飲まなかったりしていて、そのうち「病状悪化で腎不全」になっちゃったりすれば、「飲まなければ人口透析になるなんて聞いてなかった」とか主張するってことなんですよ。で、「内服しやすい環境になってなかった」という理屈が適用されてしまうのです。本気で患者を医師にするくらいの教育を施さないと、「義務違反」地獄からは逃れられないとしか思えません。
こんなに次々と義務を課されるということであれば、パソコンのトリセツみたいな分厚いやつに、こと細かに書いて全部読んでもらうとかしないと無理だ。それか、前に書いたけど、双方治療前に代理人を立てて契約を締結した方がいいよ。
プロトコールの置かれていた背景等を知ることができました。ただ、「確立された治療法はない」ということは、どのプロトコールを選択しても、過失を問うことはできないのではないかと思えます。どのような治療法であっても、「最初」というのが存在していると思いますし。
本研究会でのプロトコールは、「人体実験」という意味合いのものではないとすれば、(現時点である程度の可能性のある)「治療法」の一つに過ぎない、と思えますが…。
参加施設以外には公開していないというのは、Yosyan先生のコメントで教えて頂いたのですが、非公開にすることで「~法」「~メソッド」みたいな独占的治療法の確立を目指していたとも思われないのです。もしも「危険な治療法だから真似しちゃダメ」という治療法を、研究会が主導して「実験的に」行っていたのではないとすれば、法的に「医師の禁止行為」であるとは言えないのではないか、と思えるのです。
例えば、腹腔鏡手術が出始めの頃、特別に全部が「公開されていた手技」でもなかったでしょうし、当然事故も多く起こったと推測されます。治療法がある程度確立されるまでは、「手探り」「やってみないと判らない」という部分はかなりあったのではないかと思われます。近年事件になった大学病院もありましたが、あの場合でも「うまくいけば」事件などにはなりません。「その医療施設で初めて行った腹腔鏡手術」というのは、どのような場合でもあるのですから。つまりは、法的な禁止行為などではないと理解しています。結果が現在の(標準的)医療水準を下回ることがなければ、法的規制を受けるものではない、と思われます。ただ実施する医療側の「準備」として、アクシデントに対応可能な態勢をとるのが倫理的には当然であろうとは思います。
他の疾患でもそうでしょうが、Yosyan様も書かれた通り、小児白血病・悪性リンパ腫は症例が少ない難治性疾患であり、100%治癒させることが出来る確立した治療法はありません。従って、日本だけではなくヨーロッパやアメリカでも、たくさんの症例を、多施設あるいは単施設にて、同一プロトコールで臨床試験として治療し、その結果を踏まえて治療法を修正して新しいプロトコールとし、臨床試験を行うということが繰り返えされてきました。その結果、かつてはほぼ全滅だった治療成績が、タイプによっては8-9割以上も生存する疾患が出てくるなど予後が改善してきました。そして現在でも、さらに予後を改善するべく、あるいは予後の良いものでは、治療に伴う後遺障害を減らすべく、臨床試験が行われています。
従って、臨床試験中のプロトコールは、専門家たちにより有効性や安全性が向上するだろうと判断されて作成されていますが、現実には結果は出ておらず、分からない性質のものです。ですから、事前に患者さんには十分な説明を口頭及び文書にて行い、同意書も作成します。最近では、各プロトコールについて、日本小児血液学会での審査を経たり、各参加施設にその施設の倫理委員会に通すことを求めたりしていると聞きます。
今回の新聞記事の判決文は非常にコンパクトになってしまっていますが、原文では、上に書いた状況や前回のコメントに書いたことを背景にして、研究会に参加していないことを事前に説明するべきであったとする前提に、“臨床試験中のプロトコールを使用するのであれば”ということが述べられているのではないかと思っています。まあ、これは飽くまで想像なので、判決文の全文を読まないと分かりません。
また、既に試験が終了して有効性や副作用を含めた結果がpublishされているプロトコールは国内外を問わずたくさんありますし、それでもやはり臨床試験中のプロトコールで治療することが必要と主治医の先生が判断されるのなら、十分な説明をして同意を得れば、非参加施設でも治療出来るのではと考えます。
それから、上のコメント欄で「広く公開され」と書かれています。公開という言葉の表す範囲の問題だとは思いますが、小児白血病研究会は、参加施設以外にはプロトコールを公開していなかったと記憶しています。
これをどのように捉えたらよいのか、私にはちょっとよく判らないですが、所謂治験と同様な形で事前に患者サイドに「参加」の説明を十分行ってやるもの、ということなのでしょうか。
そのプロトコールを選ばないとして、別な良い治療法が存在していたということなのでしょうか。方法があったのであれば、当然それをやるべきであったろうと思えますが、特に「決定的な治療法は他に選択があったかどうか不明」ということなのであれば、「効果が期待できるかもしれない」と思える方法を選ぶのは理解できるような気がします。治療法A、B、Cがどれも安全性や効果の程度が確立されておらず、治療成績がどれも違いがハッキリしないのであれば、比較的多い医師たちが選んでいたAという方法を選んだことを非難するのは難しいのかな、と思ったりもします。
また宜しくお願い致します。
従って、参加施設でのプロトコール実施に伴う副作用や有害事象は研究会によりモニタリングされ、各参加施設にフィードバックされる仕組みになっています。実際に、事前に予想出来なかった副作用が多く出たために、試験中に薬剤の投与方法が変更されたこともありますし、有効性や安全性に重大な問題が生じた場合には試験そのものの中止する規定もあります。
記事の判決文はあまりにコンパクトになり過ぎていて、今回問題となっている治療でそのようなことがあったかどうかは分かりませんが、一般論として、参加施設でない治療施設が臨床試験中のプロトコールを使用しても、こういったフィードバックは受けられません。
恐らく遺族感情以外にも、裁判官側がそういう「雰囲気」を感じ取っていたのかもしれません。でも、それを判決内で言うには、医学の「言葉」を理解していない裁判官には難しかったのかも。私には記事から読み取れる範囲では、「他で診てもらう」という選択肢がどうだったのか、というのは判りませんでした。
出発点として、「ウチではここまでやる、それ以上は症例数を積んでる所で」というようなことを、どの程度被告となった医師たちが考えていたのか、ということなんでしょうか。ひょっとすると、裁判官にはそこが見えなかった、即ち「自分たちの力量の限界」を超えて(厳しく認識せずに、ということかもしれませんが)治療に当たっていたのではないか――、もしそうであるなら義務違反とするべきだろう、という解釈なのかもしれません。
研究会参加の告知義務とかではなく、主として医師の倫理に関する部分が問われたものかと。指摘されるべきは「債務不履行」のようにも思えます。
例えば、「30階建てビルを建設」と思って建築士に依頼したのに、4階建てビルくらいまでしかやったことない建築士だった、と。で、後で「2級建築士だった」と判明した、と。初めからそれを宣言してくれれば、もっと別な1級建築士を探しに行けただろうに、と。建築士であれば1級と2級で法的区分がありますが、医療ではその区分は存在しませんので、専ら「医師の良心」になってしまうでしょう。これも状況なんかにもよりますので、画一的な線引きは難しいだろうと思いますけれども…。
でも、依頼主の「30階建てビルを建ててくれ」に対して、「判りました、やります」ということは、本来「(相当の水準で)できる」を意味しているはずだろう、と。裁判官の意図はそういうことなのかもしれません。
スケジュールを遅らせたり、doseを減らす事は再発の危険性が増しますし、愚直にやれば治療死の可能性が増大します。この辺は化学療法の成否を決める支持療法の自信との兼ね合いともなり、無菌室等の設備も考慮に入ります。
小児血液腫瘍のプロトコールは成人に較べて遥かに強力です。もし内科の医師が読めば目を剥くような内容です。そういう意味でJACLSのプロトコールを行なうには十分な経験とサポートチームが必要とされています。
JACLSが加盟施設以外のプロトコールの使用を戒めているのは「十分な経験が無いと痛い目にあいますよ」ぐらいの意味合いです。プロトコールというマニュアルには書ききれない経験と臨機応変の処置が必要ですよと言う意味合いです。
正直なところで言えば、わざわざ姫路日赤が手を出す必要は無かったと言うのが本音です。家族が強力に要請したのならともかく、そうでなければ小児血液腫瘍チームにいる病院に委ねるべきだったとは思います。
この判決による応用JBMは多大な影響を及ぼしますが、小児血液腫瘍治療だけに限定して言えば、JACLS加盟施設に殺到されてもドミノは起きません。なんと言っても少ないですからね。
昔の話で言えば、「長谷川式スケール」だの「オギノ式」だのみたいなのを「勝手に利用」していた人たちはそれこそたくさんいたと思いますし。これを公開しないで使わない不利益の方が大きかったのではないかと思えます。
当初は各施設がバラバラのプロトコールで治療していましたが、研究データの精度を高めるために連携施設で共通プロトコールを作成して治療に当たることにしました。
当初は地域グループとして成立し、OCLSG、TOCSGなどが作られましたが、これを全国規模に拡げた連絡会がJACLS(小児白血病研究会)です。JACLSと言っても実体は従来の地域グループの連合組織で、'90年代の後半に成立していますが、未だにALLのプロトコールの統一は出来ていません。
小児腫瘍の世界では有名な研究会ですが、決して独裁的な強権組織ではありません。成立過程を振り返ってもらえばわかるとおり、性質的には情報管理センターにすぎないものです。
原告家族からはJACLSのNHL-98プロトコールを非加入の会員が無断で盗み、軽犯罪に等しい行為との非難も出ているようですが、ご存知の通り医療ではこの手の事に特許も独占権もありません。広く公開され、誰もが参考にして治療に当たれるものです。
またJACLSの内規では所属していないメンバーがプロトコールを使用しないようにの注意書きが存在していると家族は主張しておりますが、これも当然ことですが何の法的拘束力もありません。
長くなりましたが補足とさせて頂きます。