電脳筆写『 心超臨界 』

想像することがすべてであり
知ることは何の価値もない
( アナトール・フランセ )

今の時代に求められる賢慮型経営者――本田宗一郎

2024-06-30 | 08-経済・企業・リーダーシップ
電脳筆写『心超臨界』へようこそ!
日本の歴史、伝統、文化を正しく学び次世代へつなぎたいと願っています。
20年間で約9千の記事を収めたブログは私の「人生ノート」になりました。
そのノートから少しずつ反芻学習することを日課にしています。
生涯学習にお付き合いいただき、ありがとうございます。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
東京裁判史観の虚妄を打ち砕き誇りある日本を取り戻そう!
そう願う心が臨界質量を超えるとき、思いは実現する
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■超拡散『世界政治の崩壊過程に蘇れ日本政治の根幹とは』
■超拡散『日本の「月面着陸」をライヴ放送しないNHKの電波1本返却させよ◇この国会質疑を視聴しよう⁉️:https://youtube.com/watch?v=apyoi2KTMpA&si=I9x7DoDLgkcfESSc』
■超拡散記事『榎本武揚建立「小樽龍宮神社」にて執り行う「土方歳三慰霊祭」と「特別御朱印」の告知』
■超拡散『南京問題終結宣言がYouTubeより削除されました』
■超拡散『移民受入れを推進した安倍晋三総理の妄言』
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


日経新聞「やさしい経済学」が日本の企業家を特集しています。今回の企業家は、夢と情熱によって人をうごかした本田宗一郎。解説は、一橋大学教授・野中郁次郎さん。野中教授は知識経営論の観点から、本田宗一郎は、今の時代に求められる賢慮型経営者の先駆的人物であった、と結論づけています。以下にダイジェストを記します。


◆今の時代に求められる賢慮型経営者――本田宗一郎

………………………………………………………………………………
野中郁次郎(のなか・いくじろう)
35年生まれ。早稲田大卒。経営学博士。専門は知識経営論
………………………………………………………………………………

年表・本田宗一郎
1906 静岡県に生まれる
1922 高等小学校を卒業、東京都内のアート商会に入る
1939 東海精機重工業社長に
1946 本田技術研究所を開設。その後自転車用補助エンジン生産
1948 本田技研工業設立
1949 藤沢武夫入社
1958 スーパーカブ発売
1961 英マン島レースで上位独占
1962 四輪S360、T360など発表
1965 F1メキシコGPで優勝
1972 CVCCエンジンの全容発表
1973 社長退任、藤沢と最高顧問に
1989 日本人初の米自動車殿堂入り
1991 死去


[1] 破天荒と繊細 2006.01.26
私がある講演を行っていたとき、一人の聴衆に目が引き付けられた。彼は私の話に対して実に絶妙な間合いでうなずき、笑い、思慮するのである。つい私も彼に同調して気合の入った知的パーフォーマンスを演ずることになった。彼は、講演が終わったとたんに「本田です」と、一言私に挨拶して去っていった。本田宗一郎は、その数分の仕草だけでも人をひきつける独特の雰囲気を持っていた。

彼の数々のエピソードや残された言葉からは、破天荒さと繊細さを併せ持った極めて人間的で魅力的な経営者像が浮かび上がってくる。現場では口より先に手が出てしまうような激情家であったにもかかわらず、「おやじさん」の愛称で多くの人に慕われた。それは、確固とした人生哲学や豊かな人間性を持っていたからである。

宗一郎は、大きな夢を掲げ、情熱をもってそれを語り、周囲の人をその熱気に巻き込んで実現してしまう人心掌握術に長(た)けていた。例えば、国際レースである。1954年に当時のオートバイメーカーとしては無謀ともいえる英マン島TTレース挑戦を宣言し、61年には優勝を勝ち取った。その後のF1もしかり。夢と情熱によって人をうごかした経営。それを象徴するように、現在のホンダでは“The Power of Dreams”という言葉を世界共通の企業メッセージに掲げている。


[2] 「善」を知る 2006.01.27
宗一郎は、技術者ではあったが技術偏重主義者ではなかったし、経営者ではあったが利益優先の姿勢ではなかった。彼は、何が社会的に「善」なのかを体験的に知っていた。

彼の一貫した姿勢は、「何が善いことか」という、いわば企業の絶対的存在価値の追求である。口癖のように言っていたのは、「お客さんのために」「世の中のために」であって、それを製品にどのように具体化して反映させるのかを意識し、開発に携わる技術者と徹底して議論を繰り返していた。

「まず人ありき」という大原則は一貫していた。ある車種を開発する際、エンジニアがスイッチで自動的に出てくるアンテナをつけたところ、宗一郎はそれが持ち上がるのを見たとたんに、もぎ取ってしまった。そのアンテナの高さから、宗一郎は「もし、子供の目でも突いたらどうするんだ」と激怒したという。

彼のエッセー『俺の考え』では、「技術よりもまず大事にしなければいけないのは思想だと思う」、「人間を根底としない技術は意味をなさない」と、思想・哲学の重要性を説いている。これらは、ホンダの「M・M(マン・マキシマム、マシン・ミニマム=高い居住性を追及する思想)」の原則や、「三つの喜び(買う喜び・売る喜び・創(つく)る喜び)」の哲学などに、見事に表現されている。


[3] 審美体験 2006.01.30
優秀な経営者は経験に裏打ちされた鋭敏な感覚と広い視点をもっているものである。この点、本田宗一郎は、実体験から様々なものを身につけていた。静岡の高等小学校を出て勤めた東京の自動社修理工場(アート商会)では、当時最先端技術を備えた外国車の整備・修理に携わり、そのノウハウを血肉化した。

彼の凄さは、そのような技術者として優秀であった面だけではなく、人間的な深みと教養を備えていたことにある。彼は昔から絵が好きで、日本画を習っていたという。若いときから親しんだ長唄などの芸事も玄人はだしだったらしい。また、宗一郎が残した書や語録は、なかなか味のあるものが多い。

遊びに対しても尋常ではなかったらしい。20歳すぎで花柳界に出入りし、25、6歳では輸入車2台を乗り回していた。事業が軌道にのり資金的余裕もあったため、レース車を製作して自らがドライバーとして出場し事故死直前の極限状態も経験している。

宗一郎が残した書画や言葉から強い印象を受けるのは、背景にこういった経験から体得したものが存在しているからである。また、人の本質を見抜く力があったのは、仕事だけではなく、遊びの世界において多様な人間と付き合うことで、審美眼が磨かれていったからであろう。遊ぶときも徹底して遊ぶのだが、その経験を人生に生かしているのである。


[4] 「場」を読む 2006.01.31
本田宗一郎は、「場づくり」の名人であった。交流の場における沈黙や緊張を感じた瞬間、いとも容易に場の空気を変え、和やかな場にしてしまうのである。会う相手に対しては、常に緻密(ちみつ)な気遣いを欠かすことがなかった。現在でもホンダの「DNA」の根幹は、人の心がわかること、人への気遣いができることだといわれている。

しかし、身近な社員に対しては喜怒哀楽を素直に出すタイプであり、いきなり「ばかやろう、なんだこれは」「もういいから明日から来るな」と怒鳴るのは日常茶飯事だった。メリハリのある怒り方で、しかもキチンとした理由を持っていた。会社が終わると怒鳴りつけた当人を酒に誘うなど、切り替えが早く後にしこりを残さないのである。

新型軽自動車の開発において試作車が完成したときの事。宗一郎が夜間テストコースで行った試乗で、走行中にタイヤが外れるという考えられないアクシデントが発生した。幸いけがはなかったものの、担当責任者は叱責(しっせき)を覚悟して青くなって次の日に謝りに行った。宗一郎は怒鳴りもせず、事故とは関係のない部品の仕上がり具合を聞いただけだったという。たとえ大きな失敗をしても、当人が原因を十分理解し反省している場合は、むやみに怒らなかった。怒る場合でも相手の立場を慮(おもんばか)って、タイミングと限界点を見極めていたようなところがある。

このように宗一郎は、人間の最も根底にある感情に働きかける強い力を持っていたといえる。リーダーシップにおいて最も必要とされるコンテクスト(脈絡)の察知・共有、強い信頼感の醸成はそこから来ているのだろう。


[5] 本質を見抜く 2006.02.01
宗一郎はある現象に出合うと、そのミクロの複雑な事象の背後にある本質・真実を直観的に見抜く状況認知的能力を備えていた。

デトロイトにある自動車の殿堂には、モーターサイクルレースの現場でコース横の地面にしゃがみ込み、ライダーの目線でマシンを観察する宗一郎の写真がある。「現場・現物・現実」のホンダ・ウェー(フィロソフィー)の源泉である。

あるとき、現場の責任者と一緒に車体溶接工場を見回ろうとしていた宗一郎は、工場に入りもせずいきなりその責任者を殴りつけた。原因は工場から聞こえていたハンマーの音だった。車体の精度出すため、ハンマーでたたいて矯正していたのである。彼にいわせれば、そんなことは溶接段階でやるべきことではなく根本的な問題解決を考えていない、と思わず手がでたのだった。

彼は人を見る目も確かであった。初対面の人を見ても、直観的にどんな人間かを見抜くことができた。

人については、『私の手が語る』のなかで「人を動かすことができる人は、他人の気持ちになることができる人である。相手が少人数でも、あるいは多くの人びとであっても、その人たちの気持ちになりうる人でなければならない。そのかわり、他人の気持ちになれる人は自分が悩む。自分が悩まない人は、他人を動かすことができない。私はそう思っている。自分が悩んだことのない人は、まず、人を動かすことはできない」と述べている。


[6] ミクロとマクロ 2006.02.02
新しい道を切り開く経営者は、不確定な未来に対しての進路を自らの直観により定め、理念やビジョンとして企業の内外に提示するだけではなく、それを具体的目標に変換して現実と連動させていくことが必要になる。そのためには、対話や共通の体験を通じて、具体的な表現で説明していくことが求められる。また、ミクロな現象から兆候を読み取り、高いレベルの全体構想へフィードバックさせていく能力が必要なのである。

宗一郎は現場に行けば、自分の構想を床に図面としてチョークで書き、技術者と論争し、自ら工具をもって行動で示していた。彼は、その背景に将来を見通した自らの技術構想をもっており、それに基づき開発の方向を示唆していた。その当時の技術レベルでは、開発担当者にとっては無理難題とも思われた課題であっても、後になってから初めて宗一郎の「先見の明」や構想の正しさを理解できたケースも多かったのである。

彼が欧州の先進企業視察から帰国した際、多数の部品に混じって、1本のクロス(プラス)ネジを何より大事に持ち帰った。クロスネジの採用は、ネジの締め付けを機械化でき工場全体の生産性に多大な影響を与えることを直観していたのである。また、部品から大局を察知する感覚や起承転結のある想像力は、好んで歴史物語を読んだことで培われたものである。


[7] 得手に帆あげて 2006.02.03
「人間尊重」、そしてそのなかの「平等主義」は、企業としてホンダのモットーになっている。研究所では社員全員が同じ白のつなぎを着用し、上司部下の区別なく議論を戦わせるという雰囲気は、ホンダ独特のものだろう。

宗一郎は「一人ひとりが自分の得手不得手を包み隠さずハッキリ表現する。石は石でいいんですよ。ダイヤはダイヤでいいんです。そして、監督者は、部下の得意なものを早くつかんで、伸ばしてやる。適材適所を配慮してやる。そうなりゃ、石もダイヤも本当の宝になるよ」と、人が企業の基本であり、そこでは存在価値のない人間はいないと述べる。その上で、得手に帆をあげる(好機をとらえ得意なことをする)意義を強調している。

社長退陣の際の挨拶で彼は、「半端なもの同士でもお互い認め合い、補い合って仲良くやっていけば、仕事はやっていけるものだ。世の中に完全な人間などいるものではない。自分の足りないもの、できないところをまわりの人に助けてもらうと同時に自分の得意なところは惜しみなく使ってもらうのが、共同組織のよい点で大切なところだと思う。『人間の和』がなければ企業という集団の発展はおろか、維持さえもできないことを十分認識してほしい」という表現で組織について語った。

また、ホンダのエンジニアは、過大ともいえる目標を設定し、達成に向け必死に努力することで、自分の潜在能力を引き出し、そこから成長し、自律性を持って行動できるようになることを求められてきた。個人に潜む「暗黙知(言葉で表現しにくい主観的・身体的な知)」を発揮せざるを得ない状況を作り出し、顕在化させる仕組みは、組織に強さを与えた。本田宗一郎が構想していた組織は、そのような「自律分散型リーダーシップ」を備えた高度の人間集団ではなかっただろうか。


[8] 賢慮と経営 2006.02.06
ホンダの創世記は、宗一郎の技術知識に支えられてきた。彼の技術面における状況認識力と問題設定・対応能力は優れていたが、その洞察力は主として身体知による直観であった。また、彼の言動からは、人を中心においた確固たる技術思想(価値観、倫理観、「善」の基準)を持っていたことが感じられる。それだけではなく人間的魅力に富み、言語・非言語のコミュニケーションを通じて場を形成し、自らのビジョンへの共感を呼び起こし、それを理解させる能力を備えていたのである。

経営者としてのこれらの能力は、フロネティック・リーダーシップ(phronetic leadership)と定義することができる。フロネシスという概念の起源は、アリストテレスなどにさかのぼり、賢慮(prudence)、実践的知恵(practical wisdom)、倫理(ethics)などと訳されている。この賢慮とは、実践的価値合理性を基礎とし、個々の異なるコンテクスト(脈絡)においてどのように行為するかを判断することや、常識や経験や直観の知を志向する実践的知恵(高質の暗黙知)といったものを包含した概念である。

私は、賢慮とは次のような六つの能力に支えられると考えている。
①「善悪の判断を適切に行える力」(実践的理性能力)
②「人を共感させる力」(他者と文脈を共有し場や共通感覚を醸成させる能力)
③「本質の洞察力」(複雑な事象を直観的に理解する状況認知能力)
④「他者への伝達能力」(ミクロの直観を概念化し・具象化しマクロ的ビジョン
やテーマと関係づけて説得する能力)
⑤「人を動かす能力」(「善」の基準に従い概念を現実化するように人の力を
結集する能力)
⑥「人を育てる能力」(賢慮そのものを配分・育成する能力)

宗一郎は、今の時代に求められる賢慮型経営者の先駆的人物であった。
この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 不都合な真実 《 日米安保同... | トップ | 西洋科学と東洋思想を統合す... »
最新の画像もっと見る

08-経済・企業・リーダーシップ」カテゴリの最新記事