電脳筆写『 心超臨界 』

自然は前進と発展において留まるところを知らず
怠惰なものたちすべてにののしりを発する
( ゲーテ )

◆西洋文明に立ち向かった“理念の戦争”

2024-07-24 | 05-真相・背景・経緯
§5 戦後の戦争に敗れた日本
◆西洋文明に立ち向かった“理念の戦争”


アメリカン・デモクラシーは、イデオロギーじゃないと思ったら大間違いです。戦前の日本は、少しそのことを知っていて、「英米本位の世界秩序を排す」という論文がよく書かれました。こういう議論が出たのは、英米がいかにエゴイスティックな原理主義の国であるかということを、骨身にしみて知っていたからです。戦争に敗けたらすっかりそれを忘れてしまって、われわれはアメリカの正義、アメリカの歴史観、アメリカ本位の世界秩序の内部に包みこまれてしまった。袋の中にいれられたものには、袋は見えません。だから、アメリカという国の底意が見えない。


『歴史を裁く愚かさ』
( 西尾幹二、PHP研究所 (2000/01)、p240 )
終章 日本人の自己回復

いずれにしても、われわれはずっと長い間、平静と従順を演じ続けてきたのです。なぜわが国は戦後、英米あるいはソ連を含む連合軍に対して、かほどまで従順になってしまったのか。私なりに推理するその歴史的理由をいくつか考えてみたいと思います。

第一の理由は、戦後世界を生きていくためにその必要があったということで、これはいちばん分りやすい理由です。つまり、超大国の一方についていかなければ生きていけない。中国では革命が起き、朝鮮では戦争が起こって、アジアの各国は購買力をもっていない。日本は、アメリカという一市場を頼りにしなければ立ち行かない。だから、その後遺症として、いまアメリカに政治的外交的にがっちり押さえこまれているという歴史的な名残をとどめている。

ドイツの場合は全然アメリカが怖くない。ドイツにとってはEC諸国との貿易取引が、経済的な自存のために必要である。ですからドイツがいちばん怖いのは近隣諸国です。日本にアメリカコンプレックスがあるとすれば、ドイツには近隣諸国コンプレックス、とりわけフランスコンプレックスがある。フランスがいったことに、ドイツは「ノー」といえない。その点は、日本がアメリカに押さえられているのとたいへんよく似た構造があります。

第二の理由はもうすこし心理的です。日本は戦争前から、アメリカおよびアメリカ人を憎んでいなかった。アメリカ映画は大好きだったのです。アメリカ映画の上映が禁止されたのは、昭和16年12月10日です。戦争が始まった2日後に東宝やら何やらが、みんなやめましょうということになった。

例えば、『風と共に去りぬ』という小説は戦前の1937年に翻訳されていますが、戦前、戦中、戦後を通じてベストセラーです。つまり、日本はアメリカが嫌いじゃない。アメリカを憎んでいなかったのに、鬼畜米英といって無理に立ち上がった。そういう点でアメリカは必ずしも真の敵ではない。

日本は迫害されたから戦ったのではなくて、一種の理念、つまり西洋文明に立ち向かうという理念の戦争を戦った。だから、心理的にわれわれには憎しみがあまりないという妙な状態です。

第三はおそらくもっと直接的な理由で、空襲と原爆が代表する破壊力に打ちのめされてしまったことです。しかも、地上軍にやられたわけではないから、具体的な憎悪がわからない。抽象的なのです。だけど、徹底的に打ちのめされたから、度肝を抜かれ、尻餅をついて、立ち上がれないという問題もあるでしょう。

第四がいちばん大事な理由です。われわれは欧米文明に抵抗したのですが、明治以来、欧米文明は日本の模範であり、理想であり、基準でもあった。だから、それに立ち向かって敗れたことは、精神の敗北なのです。これはたいへん厄介なことです。

アメリカはイデオロギーの国です。旧ソ連のイデオロギーとは違った意味での、いわゆるアメリカン・デモクラシーというイデオロギーの国です。そして、キリスト教文明というのは元来、原理主義です。日本は原理主義の国ではありませんが、原理主義をもったイデオロギーの国々に取り巻かれて、戦後日本は二つの超大国の都合のいいイデオロギー、つまり共産主義とアメリカン・デモクラシーという二つのイデオロギーに支配されました。

アメリカン・デモクラシーは、イデオロギーじゃないと思ったら大間違いです。戦前の日本は、少しそのことを知っていて、「英米本位の世界秩序を排す」という論文がよく書かれました。こういう議論が出たのは、英米がいかにエゴイスティックな原理主義の国であるかということを、骨身にしみて知っていたからです。戦争に敗けたらすっかりそれを忘れてしまって、われわれはアメリカの正義、アメリカの歴史観、アメリカ本位の世界秩序の内部に包みこまれてしまった。

袋の中にいれられたものには、袋は見えません。だから、アメリカという国の底意が見えない。
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